第三十話 冬季に吹く鉄風
グロリアが帰り、数日後──
都市同盟最北の街
スパルティア
そこには、最前線という鉄火場とは思えないほどの冷静な秩序があった。
しかし、王国を攻めんという熱気は本物であり、川の凍結している冬の間に砦を落とせる準備は既に整っていた。そして、今まさに都市同盟の評議会が始まらんとしていた、目的はは──
王国進軍
「ラバランめ、私を試すか?」
切れ長の目からはハッキリとした意志が伺え、鍛え抜かれた浅黒い肌は武人として崇高な美を体現している。都市同盟盟主、レオーネ・スパルティアが、ラバランからの手紙を受け取りそう呟いた。
「ラバランは、何と?」
「新辺境伯未熟、だそうだ。どう見る?シビラ」
そう振られ、側近であり、執務官のシビラが答える
「であれは、出陣には好機かと存じますが……」
その答えを聞き、レオーネは鼻で笑う。
「バカめ、本当に我々を動かしたければこのような曖昧な文はよこさぬ……さりとてこちらが動かぬというのもまた問題よ」
ラバランがオイゲン市に共同体を構えている理由の一つに、都市同盟への情報の伝達もあった。
最も、己の商売に影響を出さない範囲でだが。
その時、大声を上げレオーネの席に近づく影があった。
「レオーネ、この冬。二度侵攻のチャンスがあったぞ、二度だ!」
2メートルに届こうかという巨漢。禿頭に目が行くが、筋骨隆々としたその姿はレオーネが隣てば親と子供と見紛うほどの姿だった。
アレクス・ギラン。
都市同盟評議員、タカ派の一人でもある。
「一度目は、バカな辺境伯の娘の裁判!二度目はそのバカがの娘が辺境伯になった時だ!腰抜け!」
「アレクス」
息も荒いアレクスを、レオーネな努めて冷静に納めようとする。
「以前も言ったが、裁判の時はまだ川は凍っていなかった。しかし、歩兵の渡河作戦には水温が低い。辺境伯譲渡時は、ギュスターヴめがわざわざ南部砦に指揮しに来ていた。これで侵攻の決意をする愚か者は我等都市同盟には居らぬ」
レオーネの意見に頷くもの、顔をしかめるもの、半々
「レオーネ、俺は最初からお前がスパルティア指導者になるのは反対だった!わざわざ兵を集めさせ、やることと言えば演習演習演習!兵に無駄飯を食わせるのが長の役目ではない!一刻も早くホーホエーベネを落とし!侵攻の足掛かりを作るのが長の役目だ!」
アレクスの過激な意見に、会議に集まったタカ派は同意の声を上げた。
「長の仕事は、無駄に兵を失うことではない。秩序を持って都市を治め、好機を逃さぬのが真の指導者だ」
レオーネの声は冷静であったが、アレクスの演説は熱に浮かされたように止まらなかった
「今必要なのは!演習などではない!」
アレクスの拳がテーブルを叩く、分厚い木で拵えられていたが、その部分だけが陥没する
「演習等では民の腹は膨れん!我らに必要なのは!磨き上げられた穂先ではなく!王国の肥沃な大地!そして!麦だ!」
アレクスの演説はさらに過熱していく
「同士諸君!今我々がやるべきはなにか!腑抜けた王国の砦を落とし!今こそ!ホーホエーベネの土地を我らの手に入れることではないか!」
ウォォォォと、アレクス派の人間が声を上げる。
その雄叫びはテントを揺らし、地面を震わせる
「レオーネ様」
シビラが、顔をしかめ、声をかける
「わかっている……タカ派の空気抜きもいずれせねばならぬところだった、加えて……元々一度は藪をつつかねばならぬと思っていたところだ。」
「では?」
「必要最小限でよい、動くぞ」
都市同盟、王国へ向けて進軍




