第二十八話 賢者(サヴァン)の二十年、令嬢の初陣
ラバランの視線に耐えながら言葉を探す。
別にしくじった所で何かあるわけじゃない……多分。
けれど、言葉でこちらを探ろうとする相手に対して、適当に返事を返し、私はともかくホーホエーベネが下に見られることは……嫌だ。
「ここは……不思議な場所です。確かにリブラ王国ホーホエーベネ領だというのに、この共同体の中は…南部都市同盟。王国という軛が重荷の貴族にとっても……救われる場所なのでしょう」
「ほう、救われる。ですか……」
私の言葉に少し声色が変わるラバラン
「王国は、法は完全ではありません。貴族もそうです。人である以上、つかの間でも自分を捨てて自由になりたいと思うもの……そう、仮面をつけ、貴族から逃げる場所として……このような場所は必要でしょう。今の私も同じです」
その言葉にラバラン目の色が変わる。
「グロリア様は、その立場から逃げたい、と?」
背筋に緊張が走る。
ラバランはゆったりと椅子に座り、余裕の表情だが、その目はこちらから外さない。
「父より引き継いだ身分が、これほど重いとは思っていませんでした」
ここは、多分素直になっていいだろう。
商人と客なんだ。都市同盟の知恵者と、辺境伯の話ではない。
「確かに、年端もいかぬ娘が背負うには、ホーホエーベネは広すぎますな」
納得したのかしていないのか……それでもラバランから会話を切るような素振りは見えない。
「ですが、降ろすわけにもいきません。ホーホエーベネは……王国の要です」
これだけははっきりと告げる。逃げるわけにはいかない。
ホーホエーベネの土地を見て、貴族と話して分かったことがある。
いや、そもそも“グロリア”なら分かっていて当然の話だ。
「ふむ……重いが、下ろせぬ荷物ですか、厄介なものですな。生きていくなら必要ですが……商売では不要な物です」
「あなたも、そうではありませんか?」
そう私が問いかけると、ラバランの纏う空気が変わる
「ほう、この共同体が、重いと?」
さもなんとも無いふうに振る舞う。
でも、大変なはずだ……こんな巨大な共同体。
「人、物、金。しかもここは王国の治外法権を謳っています。そこを束ねるのなら──」
「グロリア様、そこは私を軽く見ていますな」
ラバランが私の言葉を遮る。
「このラバランが共同体の頭となって、どれだけになるか分かりますか?」
ラバランが姿勢を正し、こちらを見つめる。
……なんて重い視線なのだろう……目を逸らしたい。
「二十の時にここを立ち上げ、二十年です、グロリア様」
思わず喉が鳴る。どれほどの苦労があったのか。
「その時は、似たような共同体は、7つあった。いまは、ここだけです」
深い、青い目がこちらを見抜く。こちらの未熟を見通せないでほしい。
「私は、既に背負い終わった後ですよ」
「それは……」
「私個人でも、この土地には多少愛着があります。以前からの戦争でも、ここだけは巻き込ませなかった」
ラバランの目には厳しさ以外のものが見える
「グロリア様、あなたは……どう背負っていきますかな?」
声が──出なかった。




