第二十七話 商人と客。あるいは、賢者の品定め
奥まった場所、早々には多分逃げられない。
ハンネスの緊張が伝わってくるのがわかる。
「グロリア様」
「……心配しないで、多分大丈夫」
周りを少し見るが、多分ハンネス程の戦士はいない。いるのは商人だ。
ここを支配しているのは力じゃない。
金と、契約。
通された部屋には、大袈裟ではないが、それでも見る目がない私でもわかる程の見事な調度品が置いてある。
自分はこれほどの物を運用できるのだ、という。相手に対する威圧。
「先ほどは上品な新辺境伯様には、刺激が強いものを見せてしまい申し訳無かった」
ラバランは、ちらりとハンネスを見ただけで、すぐに興味を失ったように視線を戻した。
――護衛は計算に入れていない。
こちらを見ている、多分この場で行われるのは商談じゃない。
見極めだ、私の。
「いえ、私も別の文化に対する心構えが出来ておらず、申し訳ございませんでした」
そう答えると、ラバランの表情が少し変わったように思える。まるで心の底を見定めるかのような目線だ。
「さて、グロリア様」
辺境伯の呼び名が消えた。
多分、こちらを下に見たわけじゃない。自分と会話できる相手と認めてもらえたんだと思う。
「何で……しょうか」
何を聞かれるのか、皆目見当もつかない。
「ホーホエーベネは“何処まで譲れる”土地かな?」
質問の意図が掴めない。
正直やりにくい相手だ。IQで言えば確実に相手が上だろう
「それが……この共同体の運営に関してなら……王国の法を犯さず、平和を乱さないというのなら、ホーホエーベネは……責任を持ちます」
「成る程」
試されている。しかしこう答えるしかない。
無法を冒したわけでは無い相手を排斥するのはちがう。
「では、この共同体の存在にに関してはどうお考えですかな?」
難しい、答えがない。
このテントの外は王国の法がつうじる。
しかし、ここは、この空間は都市同盟の法が支配している。
もちろん無理矢理力で抑えることは出来るが……それをやれば戦争だろう。
「私の立場から言えば──」
「立場はどうでも良いでしょう。ここに居るのは、商人と客だ」
つまり、グロリアとして答えろという事だろうか。
……さらに厄介だ。
「……明確な答えが……出せません」
「ふむ?そんなに難しい話ですかな?」
まるで出来の悪い生徒に回答を求めるような言い回しだが、実際そうだ。
ラバランが見ようとしている私は……ただの未熟な為政者でしかない。
それでも、心に秘めた決意がある。折れることはできない。
「奴隷は……私の考えでは、許せない。でも、都市同盟では、その身分があることで纏まっている力が……あります。それは……認めるしかできません」
所変われば人が変わるという。
なら、遊牧民を祖に持つ都市同盟と、王国制度で運営されるリブラ王国なら通じる理屈が変わってしかるべきだ。
「ふむ、ずいぶんと……理解してくれるのですな?」
意外そうにこちらを見るラバラン。
こちらは平静を保つので必死だというのに。
静かな問答は続く。問題は……こちらの頭脳がパンク寸前だということ。




