第二十六話 熱狂のステージ。あるいは、秩序を望む者の足掻き。
中央ステージ
目玉のショーに、観客の熱い声が浴びせられ、合図と共に、重そうな鉄の武器で武装した二人が中央でぶつかる。
涼やかな表情でラバランが語りかけてくる。
「裸の剣闘士が、剣で斬り合う姿を想像いたしましたか?そんな、一度の興行でダメになるような事はしません」
確かに、二人が持つのは短い杖のような物と盾。
頭はヘルメットのような物で守っている。
即死は無さそうだ。
しかし、だとしても防具で守られていないところを打たれると大怪我必至だろう。
二人の奴隷が撃ち合うたびに、怒号とも声援ともとれる声が上がる。
ラバランの説明は続く。
「今戦っているのは、現在の興行でも人気の二人でしてね。片方の奴隷──マイルズと言いますが──この戦いに勝てば、市民権を得られます。家族含めて」
「市民権?」
聞いたことのあるような、無いような単語に思わず聞き返すと、ハンネスからの説明があった。
「遊牧民の地位から、都市へと移住できる権利のようなものです。市民権があれば、参政権を得られます。そして、私的に独自の財産を保有することも認められます」
「遊牧民は……財産が持てないの?」
「持てない……というより正確には銀行の利用が可能になります。一々金品であるとか、換金用の品物に変えずとも、貨幣での保有が可能になるのです」
そう語るハンネスの姿に、ラバランも少し興味を持ったらしい。
「詳しいね、護衛さん」
「私の家族は、都市同盟からの亡命を経てリブラ王国に来ています。都市同盟の事であれば、ある程度は」
そして、ハンネスもラバランの問いにも特に動揺することがない。隠すようなことでも、恥ずべき過去でもないと言うことだろう。
そう返され、ラバランも得心いったようだった。
「成る程、世間は狭い。どうです?グロリア様。お一つ賭けられますか?」
「いえ……私は」
その時、地鳴りのようなウォォォォという声が聞こえてきた
ステージを見ると、マイルズという奴隷が倒れていた
歓声はあったが、誰も悲鳴は上げなかった。
「あ……ああ!」
思わず声が震える。
勝った奴隷は右手を挙げ吠える、しかし倒れた方はピクリとも動かない。
「残念。まあ、彼は若い。まだチャンスはある」
そう言ってきり上げようとしたラバランに、思わず食ってかかる。
「そんな……悠長な!死ぬかもしれないのに!」
そんな私に諌めるようにハンネスが立ちはだかる。
「グロリア様、冷静になってください。あの男、恐らく頭を強く打ったのか脳震盪のようです」
「だから!?」
思わず声が大きくなる。
人が死ぬかも知れないのに、だれも慌ててない。
「ここは、都市同盟の土地です」
はっと気がついた。敵地とは言わないが、それでも警戒するべきだ。心を荒げるものではない。
「フフ、青いですな、新辺境伯様」
「……ごめんなさい、感情的だった。」
「構いません。」
ラバランの冷静な声に肝が冷える。
彼の狙いは何か、知りたい。
「目的は、これを見せるためですか?」
「まさか……しかし、お望みでしたら奴隷の一人や二お譲りできますよ。労働契約の形を変えるだけです。
彼らにとっても、悪い話ではありません」
思わず声が出かけた。
「ひ……必要ありません。」
必死で否定したが、声が裏返る。
完全に雰囲気に飲まれている……冷静に……冷静に。
「そいつは残念。まあ、なら次に行きましょうか。」
ステージの上は既に人はいない。次の剣闘までは時間がかかるようだった。
ここは……文化が違う。ルールが違う。
それでも、人が生きる為に筋道を立てて暮らしている場所なんだろう。
私からは、無法が服を着て取り繕っているようにしか見えない。
しかし、ここで暮らす人にとっては、この混沌とした場所こそ法であり、秩序なのだ。
それを理解しなければ……いつまでも為政者としては未熟なままだろう。




