第二十二話 虎穴の入り口
準備万端…ではないが、落ち着いて周りを見れるほどではあった。
まあ、自分では誰がついてきたか見当もつかないが。
「ハンネス、誰が尾行してきたか、わかる?」
「一人は確認いたしました。恐らく、商工会の人間です。不慣れな振る舞いでした。」
ハンネスは座った席から、路地を見つつそう言った。
「恐らく、指示された尾行の意図を掴めていなかったのでしょう。我々がここに座ってから姿を消しました」
「その、意図は……わかる?」
少し考え、ハンネスの答えはこうだった
「恐らく、我々がそのまま宿に戻るか、誰か別の人物と会うかを見張る手筈ではないかと」
なるほど、いわば商工会と競う別の組織に同じ提案を持ちかけてどちらを取るかの天秤を測るつもりかどうかが気になったってことか…気持ちはわかる。
「帰ったの?」
「いえ、恐らく、用をたそうと離れたように思われます。……これで尾行は商工会側のみではないということになりました」
ハンネスが警戒を解かずに周囲を見渡す。
商工会側ではない勢力の尾行。
背筋が凍る。
「ハンネス、もう一人はわかる?」
「申し訳ございません、つけられているのはわかったのですが……」
ハンネスの目が厳しく周りを見張る。
怪しまれないように開けた店を選んだけど、失敗だったのか。
しかし、下手な動きをして尾行に気づいていると相手に気づかれても困る。
あくまで、目的は相手の真意を測ること……
「いやあ、流石辺境伯様の護衛だ。まさか尾行に気づかれていたとは」
そう背中から声をかけられ身体が硬直する。
ハンネスが身構え、リリアが声を上げそうになり、口元を押さえる
「貴様……」
「護衛様、あんたが俺を斬るより、俺が辺境伯様を刺すほうが早いって分かるだろう?」
「ハンネス……私は大丈夫だから」
ハンネスが椅子に座り直す、しかし手は武器から離さない。
ハンネスには悪いことをしてしまったと思うと同時に、自分の迂闊を呪わずにはいられない。
自分の安全を最優先に考えるなら、壁のある店にはいるべきだった。
「何が目的?」
とりあえず、相手が何かを掴まねばならない。
「いえ、商売のお話を、ね。聞けば新しい辺境伯様はどうも珍しい物がお好きと聞きましてね」
私が屋敷の人間に時計を買い与えたのは、どうも余程の悪評だったらしい。
実際とてつもない金額だったが……
「それで、何を売り込みたいの?」
「いえ、別にここでどうこうって訳じゃありません」
そう言ってその人物は立ち上がり、こちらのテーブルに奇妙な形の木の札を置いた。
「夜、オイゲン市南部郊外。都市同盟が買い取った区画があります。そこへいらしてください。」
「断ったら?」
「別に構いませんよ。コチラがやりたいのは商売ですんで。」
そう言って男は身を翻す
「でも、辺境伯様みたいな珍しい物を買う人には、きっと気に入って頂ける商品を取り揃えておりますので。お待ちしておりますよ」
そう言って、男はスッと人混みに消えていった
「申し訳ございません、グロリア様。不覚を取りました」
「いいの、ハンネス。私も迂闊だった。」
おいていった木札を見る。数字が書いてあり、端に変な形の歯をつけてある。
どこかで見た形だが…思い出せない
「行ったほうがいい……かな?」
「グロリア様、流石に迂闊かと」
ハンネスが厳しい目を向ける
「それはわかってる。でも、都市同盟側の人の話を聞けるチャンスだし……」
とにかく私には情報が足りない。
せめて、都市同盟側の考えが知れる情報が欲しい。
「グロリア様、覚悟はおありなのですか?」
つまり、そこに行くことで最悪──死ぬかもしれない。
「ハンネス、力を貸して。私は知りたい。それに、商売と言ってたから、いきなり物騒なことは起きない……はずだから。」
真意が読めないから、こちらも曖昧な結論を出すしかない。
虎穴に入らずんば、とも言うが、その恐怖をまず考えてほしい。
「……分かりました。私の名にかけて、グロリア様だけはお守りします」
ハンネスも決心してくれた。
後は、夜まで待つだけ。
都市同盟側の土地……何が行われているのか……




