第二十話 散財令嬢のアップデート
商工会に入ると、思ったよりしっかりした応接間に通された。多分、来客への礼節も兼ねているんだろう。
代表として紹介されたのが
長老格、ヨアヒム
いかにも商人といった風体の、ブルーノ
妙にギラギラした目つきの若手、カール
こちらの提案は、古い契約書面新しい契約書面への切り替え、及び新しい契約書は全て新書面に切り替えること。
──予想どうりに拒否されたが
「……失礼ですが、新辺境伯殿、商売の経験はお有りで?」
前世をカウントしていいなら頷くところだが
「……申し訳ありません」
はぁ~と長いため息をつくヨアヒム。たぶん、独自の交渉テクニック
こちらに対しての圧かなんかだろう。
「新辺境伯殿、商売とは信頼で成り立っとる。
紙を変えるというのはな、昨日まで“通じていた約束”を、
今日から“通じなくする”ということじゃ」
痛いところを突かれる、確かにそうだ。昨日結んだ契約書が、書き換えるので無しになりますとか話にならない
「儂らの倉庫には、古い契約で動いている品が山ほどある。
それを全部、新しい書式で結び直せ?
……それが出来る商人が、どれほどいると思われるか」
「ですから、中央との契約書のトラブルを、避けるためでもあります。……無理に全てとは言いません、出来れば、新規の物は全て切り替えて頂けたら……」
ブルーノが口を挟む
「ヨアヒム老、要はどれだけ儲けて、どれだけ費用が浮くか、ですよ。」
「それに関しては……リリア」
「あ、はい」
用意していた書面を出す
「確認してください。契約魔法で書き換えられない方式になってますから、誤魔化すことも出来ません」
胡散臭げにブルーノが読む
「何々?導入した店には、かかった諸費用分の税の免除?」
「はい、ホーホエーベネでその費用を持ちます」
ヨアヒムが口を挟む
「海外の調度品を買い漁っている散財令嬢が、大きく出たな」
落ち着け、これは相手の交渉手段。こっちを怒らせて、粗を出させようとしている。
「勿論、ホーホエーベネの予算も潤沢ではありません。
ですので、ある程度申請順で免除額を変えます」
ヨアヒムの目の色が変わる
「ほ、勝手にこちらに要求してきて、早いもの勝ち?随分ですな?」
さて…どうでたものか…
「……ヨアヒム殿、次の中央の監査で……古い書式の契約はどう扱われますか?」
困るはずだ、多分
「古いものは全て法の天秤の下で結ばれておるよ、ゲバルト様々じゃ。」
こっちはダメか……でも
「しかし、新しく結ばれたもので、法の天秤を通していないものもありますね?」
ヨアヒムが、動揺したように見えた
「……何を……」
「私が引き起こした混乱で、法の天秤の運用も揺れています。……さて、どうなりますかね?」
実際私の婚約破棄、そして裁判は大きな混乱が出た。
特に揺らいだのは法の天秤だ。
中央、もしくはそれに準ずる貴族しか運用できない契約の保証。
恩恵に預かれない庶民や辺境貴族の不満が高まった。
収めたのもゲバルトだが……
「小娘……」
「ホーホエーベネが保証できるのは、この新書式の契約だけです」
ここまで言ってもヨアヒムは折れない。いや、測りかねてるといったところか。
ブルーノは、こちらの出した資料を細かく読んでいる
「免税対象は三年、導入費を差し引いても二年目で黒字になります。」
リリアが補足してくれる。
「……三年……」
この男はお金の男だ。
家の書類に、この男の商会からの取引の契約書がかなりの数あった。
「……これ、出回ると“裏の連中”は困りますね」
カールがここで口を挟む。
裏?
「カール」
ヨアヒムが短くカールを諌める。
何かがある。
「いや、俺は反対してませんよ、ただ……使い方次第だな、と。」
このオイゲン市、何か裏がある。ゲバルトのような漆黒ではなく、人々の行き交いが生み出す、淀みのような裏が──
その後もしばらく応答が続いたが結局
「……では、この話は次の週に持ち越しということで、資料は人数分ご用意していますので、じっくり吟味なさってください。」
ここで決着をつけなくていい。ゲバルトと一緒だ




