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第三話 鉄面皮の婚約者様は、手品に夢中らしい


目の前にハインリヒ様。人払いした書斎で2人っきりとはいえ、ドアの外にはあの従者2名が控えてるんだが。


なんとなくで二人っきりでと頼んだら通ってしまったので、逆にこっちが慌てる羽目になった。


「念のためだ、グロリア嬢、もう一度、その手品とやらを見せてくれないか?」


「はい、閣下……では」


と、コインマジックを見せようとした時。


「グロリア嬢、よければ……これを使ってみてくれないか?」


そう言って差し出したのは五百円玉をふた回り程大きい凝ったデザインのメダルだ。

表には天秤、裏には天秤皿に本が載った意匠が施されている…印籠みたいなもんか?


「はい、出来ますよ」


その声にハインリヒ様は驚いた様子。

コイン自体には、種も仕掛けもありません。


「面白い、見せてくれ。」


「……では……」


そう言ってコインマジックを始める。


「では、右手にコインを持って…このコインを揉んであげると……消えます」


「……何?」 


「もう一度揉んであげると……はい」


口をあんぐり開けていらっしゃる……こんな大げさに驚く人久しぶりに見たな。

その後もコインを右手に左手に移動させてたっぷりハインリヒ様をからかってやった。 


手品が終わってからじっと目をつぶって何かを考えている…なんの前触れだ?


「本当に魔法ではない……のだな?」


「は……はい」 


「私にもその……手品ができるといったな?」


「はい……できます、閣下……まあ、練習次第ですけど」

 

ばっと顔を上げるハインリヒ様、心なしか顔が赤くなってないか?


「教えてくれないか!私もやってみたいのだ!」


すごい食い付き、小学生か。


「わ…わかりました…なら…コインの持ち方から…」


こうして、公爵家次男様へ手品のコーチをすることになった…ジョブチェンジか?


「こうやって、小指の付け根と親指の肉丘だけでコインを掴むんです」


「…ふむ…簡単そうだな」


「この持ち方が基本なんです、簡単で、コインを隠しやすい。」


そのままコインを持ったまま指を自由に動かす。


「なんなら、このまま物も持てます」


そのままペンを握ってみせる。


「成る程…器用なものだ」


「さあ!閣下、やってみてください」


「いきなりか!?何かコツなどないのか?」 


「習うより慣れろですよ!」


コワモテイケメンが慌ててる姿って面白いのな。


「ふむ……持つだけなら……ダメか」


「最初はきちんと持つ感覚を覚えればいいので、無理に力抜かなくても」


「いいや、私とてアイゼンボルグの次男、この程度っ……むう」


「仕方ないですね閣下、まずコインの位置はここで……」


そうこうしているうちに、ノックとともにお付き二人が入って来る。


「閣下、騒がしいですが何を……本当に何をしてたんです」


今マティアスから見た私たちは手を握りあって向かい合い、まるでベーゼの直前、唇まで5センチ?そんなに無いな。


「マティアス!グロリア嬢は素晴らしい方だぞ!」


最初の威圧感は何処へやら。新作ゲーム買った子供か。


「……我々はそのグロリア嬢の素晴らしいシーンを見れてないので何とも言えんのですが?」


「これはうっかりだったな、グロリア嬢、もう一度頼む」


「今なんと?」


その後、大の大人三人向けてコインマジックを披露することになった。男っていつまでたっても少年心が無くならないと聞いたが本当らしい。


「右です!閣下、自信があります!」


「外したなマティアス!ハンネス……お前は見てないのか」


「閣下……その……はしゃぎ過ぎでは?」


ハンネスの一言で我に返るハインリヒ様とマティアス。コイツラいいコンビだな。


エフンと咳払いするハインリヒ様。もう威厳もクソもない。


「どうだった?マティアス、ハンネス」


「ごまかしの技なりなんなりって一応色々見てきたはずなんですがね、グロリア嬢のはさらに洗練されているというかそう、こういう技は隠すはずなのに、見せることに重点を置いてます。芸術と言っても差し支えないですね。」


「お前がそう評価するとはな、マティアス。ハンネスはどうだ?」 


「閣下、私にはこのような技を表現する言葉はありませんが……久方ぶりに閣下のその顔をみた気がしますよ。」


顔面神経痛みたいな顔が和らいで、おそらくハインリヒ様本来の穏やかな顔がそこにあった


「……ハンネス、お前にそう言われるとは……しばらく私は参っていたらしいな」


「考えすぎでしたね、閣下」


「……そのようだな、グロリア嬢、度々の無礼、どうか許してほしい」


そう言って頭を下げる。待て、公爵家次男様が頭下げるとか事件じゃないか?


「そんな!頭を上げてください閣下!こんなの事件です!」


「……まあ、確かにこのような場面をみられたらそれこそスキャンダルだったな、許してくれ」 


「あっ、いえ!私こそ!」


この時は、この穏やかな時間がこれで最初で最後だなんて、知る由もなかった。

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