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十八話幕間 20点のズレの二人

「時計が欲しい?」

「はい、できたら機械時計というものを……」


機械時計の存在を求めて、グロリアはアイゼンボルグ家を訪れていた。

時計がない、というのは現代人としての知識があるグロリアには違和感が強いものだった。

最初は時計に縛られない生き方も良いと思っていたが、正確な時間が分からないことによる弊害のほうが強くなってきた。

視察、書類業務、有力者との打ち合わせ。

なぜ時計がなくて成り立っていたのか、グロリアには今更になって不思議だった。

「ふむ、確か船来品でそのようなものがあったのを記憶しているな……確かこれか。私個人が持っているものだが。」

見るとそれは、典型的な懐中時計であった。

「あああ!それです!後何か大きな柱っぽいものとか」

「大型のものも確か扱っていたな。あまりの値段なので個人で持つには躊躇したので、私は持っていないが……ハインリヒは確か手に入れてたな。」

「すいません、その取り扱っている商人を紹介していただけますか!?」

「それは構わない。しかし、なぜ時計を。あれは……随分と値が張るぞ?」

「不便、なんです」

「ほう、不便」

何を言い出すかと期待したギュスターヴは思わず聞き返す

「朝何時か、とか日暮れまで何時間かとか分からないのがすごく不便で……特にどこまで行くのにどれだけかかるか分からないのが……」

「ふむ……」

グロリアが訴えるのは、いかに時間が分からず不便しているかでしか無かったが──

ギュスターヴは、その目線を地図の上に走らせていた。



「兄上、何か話があるとか?」

「ふっ、ハインリヒよ、グロリア卿は既に発っているぞ」

「からかわないでください、兄上」

何処か上機嫌なギュスターヴに対して、緊張が隠せないハインリヒ。

「グロリア卿が、な。機械時計が欲しいと」

「機械時計を?なぜ彼女が。」

「ふっ、ハインリヒ。考えてみよ」

ギュスターヴは、まるで生徒に話すように問いかけ、ハインリヒもそれを受け、深く思考を巡らせる。

「……正確な時間が分かることに対する明確な改革……でしょうか」

「続けろ」

「距離に対する正確な時間が分かれば……領地の正確な範囲を導けますね……それに、正確な距離が時間から測れれば……それは契約においても書面に頼らない証明にもなります」

「ふっ、80点だ。しかし及第点だな……我々アイゼンボルグも続こうと思っている。すぐに進めろ、ハインリヒ」

「はい、兄上」

そう言って部屋をあとにするハインリヒ。

姿が見えなくなった所で、ギュスターヴは呟いた。

「ふっ、ハインリヒ。お前は彼女を高く評価しすぎて、彼女の人間臭さを忘れているな?」

そう言って、ギュスターヴは笑った。

「ハッハッハ!ハインリヒ、お前はもっとグロリア卿と通じていると思っていたがな!ハッハッハ!」

「ギュスターヴ様?」

余りにも楽しそうなギュスターヴの姿に、そばに控えていた妻のエスメラルダがさすがに声をかけた。

「ハッハッハ、エスメラルダ。これは面白くなるぞ。己の足元を見る娘が、実は更に広い場所を見ているとは」

グロリアの、不便だという小さな不満を、大きな領地への意識へと変換してしまうハインリヒとのズレが──

とても人間のやりとりのようで、ギュスターヴは数年ぶりに心の底から、笑った。


なお、グロリアは時計のあまりの高さに悶絶することになるが、それはまた別の話

「屋敷の人みんなに渡したらそのまま屋敷が一件建つ値段じゃない!?この時代の時計ってそんなに高いの!?」

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