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第十五話 恋にさえなれなかった淡い想いを

馬車が、静かに進む。

ハインリヒ様には、伝えていない。


そもそも、出会ってから一月も経っていない。

二人っきりで会えた時間だって1日も経ってない。

大丈夫、悲しくない。

そう、思っていた。


「……グロリアお嬢様……」


リリアが、心配そうにこちらを見る。

泣くわけにはいかない。

そう、思っていた。


「グロリアー!」


声がした。

耳を塞ぐ。


聞こえてしまったら、耐えられなくなる。


心の中でグロリアが叫ぶ。

抱きしめてほしかった。

そばに、いてほしかった。

――キスだって、まだしていない。


涙が、溢れる。


悲しいわけじゃない。

そう、思いたい。


寂しいわけじゃない。

そう、思いたい。


『じゃあ、どうして泣いているの?』


誰かの問いかけ。


頭の中に、彼がいる。


ハインリヒ様の隣に立つ私。

手品を見せて、驚く彼。

ほんの、ささやかな光景。


夢だ。

これは、夢だ。


夢のせいで、泣いているだけだ。


「……う、うあ……うああ……」


身体を丸める。

耐えなければならない。


こんなことで泣いていたら、

ゲバルトに立ち向かえない。


でも――

今だけ。

今だけは、許してほしい。


「ハインリヒ様……!」


一度だけ、声に出す。


――ハインツ、と呼んでみたかった。


抱きしめてほしかった。

キスだって、まだしていない。


でも、その恋は。

ううん、恋にさえなっていないこの淡い想いは……。


ここに、埋めていこう。


外は、冬枯れの気配を帯びている。


十月、最後の週のこと。

歴史が語らぬ物語。

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