第二話 コインが繋ぐ、1週間後の運命
広いはずの応接間が妙に狭く感じた。
原因はもちろん、目の前に立つハインリヒ様御一行だ。
「突然の訪問を詫びよう、グロリア嬢」
真正面から向けられる視線。
圧を感じる。しかも物理的な。
気のせいだけど。
「い、いえ……閣下のご訪問を迎えられて光栄でございます」
震える声が自分でもわかる。
でも仕方ない。
この人、存在そのものが“死亡フラグの本体”みたいなもんだ。
ハインリヒの後ろに控える二人――。
糸目で柔らかい声の書記官マティアス、多分本気になると目が開く。
壁かと思うくらいデカい護衛のハンネス。
三人とも雰囲気が重厚すぎて……胃がキリキリする。
「それで……本日のご用件は?」
と、頑張って貴族っぽい言い回しをした瞬間。
「貴女だ、グロリア嬢」
「……私!?」
思わず素で裏返った。
リリアの顔も青い。
そりゃそうだ、前のグロリアなら問題児そのもの。
「知っているとは思うが……」
ハインリヒが静かに言う。
その声が逆に怖い。
「私と貴女の婚約が、一週間後に発表される」
「はあ!?」
なんでそんな大事なイベントサクッと発表前なの!?
前世の社内告知より雑!
「それにあたり、私自身の目で確かめたいと思ってな。
領地での貴女の評判は……正直、良いとは言えなかった」
ゲームなら、悪役令嬢破滅ルートな台詞だ……それが自分に向けられてる。
「人伝と本人は違うものだ。
だからこうして直接話しに来たのだ」
(え……これ助かってるの?それとも首絞まる前の確認作業なの?)
「……光栄です、閣下」
隣の執事が“あ、詰んだ”みたいな顔してる。
やめて。不吉の極み。
「グロリア嬢。何か、あるかね?」
くる。
これ絶対、間違えたら終わるやつ。
(国家試験の“これミスったら一発アウト”の問題が自由記述なんて聞いたことないぞ……)
「……その……お見せしたいものがございます」
言ってしまったが、後戻りできない。
ハインリヒの眉がわずかに動く。
「ほう。何を見せてくれるのかな?」
もう賭けだ。
奇跡の実技一点突破。
ポケットからコインを取り出す。
「皆様、このコインをご覧ください」
「お嬢様っ!?」
リリアの声が響く。
でもこれはむしろありがたい。
視線が一気に集まった。
「……このコインが、消えます」
左手に乗せて――消す。
ガタン!!
マティアスが机を蹴りそうな勢いで立ち上がった。
「閣下……!」
「魔法でしょうか?」
「いや、右手で掴んだのだろう」
ハインリヒは冷静。
さすが死亡フラグの求心力すごい。
「そのとおりでございます、閣下」
右手も空にしてみせる。
――ここで、ふと思い出す。
(……そういえば朝食のとき、リリアのポケットに……)
「リリア、ポケットを探してみて?」
「はぁあ!?!?」
リリアが涙目でポケットを探る。
すると――
チャリン。
朝渡したコインが手の中に。
応接室がどよめいた。
気がつくと目の前に護衛二人、そりゃそうか。
中世的目線だと完璧魔法だし。
うそぉん。
手品で死ぬ世界ある……?
「落ち着け、二人とも。おそらく魔法ではない」
流石の眼力。これからはちゃんとハインリヒ様と呼ぼう。
「しかし閣下、魔法でないにしても危険やもしれません!」
「なに、それなら……グロリア嬢。もう一度見せてもらえるか?」
「……はい」
ゆっくり、一連の手品を見せる。
今回は、ただのコインの出し入れだけ。
部屋は静まり返り、皆の視線が私に突き刺さる。
「……確認だが、グロリア嬢。これは魔法なのか?」
「いいえ、閣下。手品です。練習すれば、閣下にもできます」
ハインリヒの目が、ふっと和らいだ。
「本当か? 私にもできるのか?」
「……やって、みますか?」
その瞬間――
閣下の“戦場の鉄面皮”がほんの少しだけほどけた。
「……面白そうだな。教えてもらえないか? グロリア嬢」




