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第十二話中編 焔の傍らで──カサンドラの祈り

恐ろしい。

今すぐ逃げ出したい。


グロリアが相対しているものは、人ではない。

――“物”だ。


「ヨハンネス様……」


「裁判って結構退屈なんだね。話しているのは叔父上だけじゃないか」


絶句した。


この年若い夫は、この場を理解していない。

――いいえ、理解できるような環境で育ってこなかったのだ。


十で保証人として王宮に入り、八年。

守られ、囲われ、疑うことを教えられずに育った。


その師となったのが――


(ゲバルト卿……)


焔。

王宮だけではない。山も、海も、高原も飲み込む、焔そのもの。


(神よ……)


カサンドラは祈った。

あの恐ろしい男の牙が、この年若い夫に向かわぬように。


せめて。

せめて、あの魔物と向き合えるだけの時間を。


(……私は、守りきれるだろうか)


考える。

逃げ道を。

助けを。


ギャピレット本家。

モンタギュー公爵家に嫁いだ姉、ジュリエット。


思いつく限り、最大の味方。


(……グロリア様……)


神に祈る。

そして同時に、心の中で誓う。


――この少女と、年若い夫を。

同じ焔に、喰わせはしない。

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