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第十話冷たい指輪と、震えない声

答えは出ている。

選ぶ勇気が、ないだけだ。


裁判が始まれば、私は「被告」になる。

そして、私が婚約者である限り、

その罪はハインリヒ様にも及ぶ。


それだけは、だめだ。


「……マティアス様、お願いします」


指輪を外す。

冷たい感触が、やけに現実的だった。


「婚約破棄を、ハインリヒ様に」


沈黙。


「それが、ハインリヒ様を殺すに等しい選択だと、分かっていますね」


「はい」


声は、震えなかった。


城に、静かに動揺が伝わる

使用人たちがざわめく。

貴族たちが囁く。

ギュスターヴが眉をひそめる

ダンカン夫妻も沈黙している。

ハインリヒが、言葉を失う。


城の一角、ゲバルトの部屋。

決して動じることのない男が、その知らせを受けたとき、初めて声を上げた

「真実か?」

「はい、既に城中に広まっています」

真意を探るように、深く椅子に座る

「グロリア・ホーホエーベネ」

名前を呼ぶ。この男が、人の名前を呼ぶことなど滅多にない。

テーブルに開いていた紙を1枚破り捨てる。

国を燃やすには足りない。もっと多くの憎しみが必要だ。

「……フッ……成る程な。」

何かを納得するかのように呟く。しかし、その声を聞くものは誰もいない


グロリア・ホーホエーベネの選択が国を揺らす。そんな事も知らずに夜が更ける。

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