第一話 知らない天井と回るコイン
本作は即時の逆転や、「ざまぁ」を目的としたものがたりではありません。契約と権力、そして信じるという選択を描いています。
静かな決断と、感情の重みを楽しんでいた抱ければ幸いです。
※本作の執筆・推敲にあたり、AIツールを補助的に使用しています。
物語構成・設定・最終表現は作者の判断によるものです
トンネルを抜ければ雪国――そんな名作めいた光景なら、まだ諦めもついただろう。
だが、目を覚まして最初に見たのが天蓋付きのベッドだった時点で、これは迷作コース確定だ。
「……知らない天井だ」
某アニメの名言を口にしたところで、状況が好転するわけでもない。
寝台から身を起こし、窓を開けると、冷えた朝の空気が流れ込んできた。
視界いっぱいに広がるのは、一面小麦畑、丘の向こうにはブドウ棚が見える。
ホーホエーベネ家が誇る特産地だ。
「……今日もいい天気」
言っておくが、私はリブラ王国辺境伯ダンカン・ホーホエーベネの娘、
グロリア・ホーホエーベネである。
そして同時に、現代日本のサラリーマンだった記憶を持ってしまった人間でもあった。
「……あれか。悪役令嬢に転生、とかいうアレ?」
死因は不明。気づいたらこの体だ。
女神もいなければ、チートスキルもない。
祈っても火は出ないし、水も出ない。
ステータス画面もなければ、スマホの影も形もない。
「こういうの、タイトル的には“チート能力なし異世界転生”ってやつだよね」
唯一、持ち込めた特技があるとすれば――
「……生前の趣味の、手品くらいか」
指先でコインを転がす。
考え事をすると、つい出てしまう癖だ。
「役に立つかは、知らないけど」
そのとき、扉がノックされた。
「お嬢様、失礼いたします」
返事をする間もなく、扉が開く。
「も、申し訳ございません!すでにお目覚めとは!」
慌ただしくメイドたちが入り、半ば怯えた様子で身支度を整え始めた。
その手際の良さが、今までの“グロリア”を物語っている。
――どうやら、相当怖い主人だったらしい。
「……そんなに急がなくていいわ」
そう言った瞬間、部屋の空気が凍った。
「……?」
労いのつもりだったのだが、メイドたちはまるで怪異を見るような目を向けている。
間が持たず、無意識にコインを指で回した。
「……それは、何を?」
最後まで残っていたメイド――リリアが、恐る恐る尋ねてくる。
「ああ、これ? ただの手品よ」
右手で見せたコインを、左手で覆う。
次の瞬間、消えた。
「……ま、魔法ですか!?」
「違うって。ほら」
左手を開くと、コインが現れる。
「……?」
もう一度、今度はゆっくり動かす。
「……説明されても、分かりません……」
「でしょ? でも練習すればできるわ、リリア」
名前を呼ばれて、リリアはびくりと肩を跳ねさせた。
「……あ、ありがとう、ございます……」
そのとき、腹の底から間の抜けた音が鳴った。
「……あ」
「朝食の準備はできております、お嬢様」
「じゃあ、行きましょうか」
部屋を出た瞬間――
それが、グロリア・ホーホエーベネの人生が大きく動き出した最初の一歩だった。
朝食の後、館の玄関がざわつく。
「お、お嬢様!たいへんです! アイゼンボルグ公爵家の――」
「公爵家?」
「次男の、ハインリヒ様が視察の途中でお立ち寄りになったと……!」
玄関ホールに立っていたのは、漆黒の騎士服を纏った背の高い男。
無駄のない佇まい。鋭い視線。
「……辺境伯殿は不在か」
低く、よく通る声。
執事がこちらを示す。
「代わりに、お嬢様が――」
視線が向けられた瞬間、空気が変わった。
「……ホーホエーベネ家の令嬢か。少し話を聞かせてほしい」
(……社長と二人で面談、みたいな緊張感なんだけど)
ここで、ようやく理解する。
――この凄味100%の人、
私の死亡フラグを握ってる側の人間だ。
……で。
どうやって回避するんだ、これ




