第6話 孤独と希望
戦いの余韻を引きずりながら、太一は再び森を歩き始めた。体はまだ重く、恐怖は完全には消えていない。それでも足を止めるわけにはいかない。立ち止まれば、あのスライムのような魔物が再び現れるかもしれないからだ。
「……生き延びるためには、人を探すしかない」
自分に言い聞かせるように呟き、折れかけた枝を杖代わりに歩を進める。
◇
それから三日が過ぎた。森の中を彷徨いながら、水は小川から汲み、食料は木の実やきのこで繋いだ。幸い致命的な毒にあたることはなかったが、食べられるものかどうか判断するたびに〈解析〉を使わなければならず、その度に精神をすり減らす。
夜は木の根元に落ち葉を重ね、簡単な寝床を作った。けれど、森の闇は深く、虫の羽音や獣の鳴き声が耳から離れない。何度も眠りから飛び起き、枝を構えては空振りに終わる。休めば休むほど孤独と恐怖が胸を圧し、眠ることさえ苦行のようだった。
「……人のいる場所を見つけないと、本当に死ぬ」
森に取り残されたまま生きていくことは不可能だ。心の奥底でそう確信するたびに、不安と焦燥が胸を締め付けた。
◇
そのときだった。
ふと、鼻先に違和感を覚える。風に混じって、どこかから漂ってくる焦げたような匂い――。
「……煙?」
思わず立ち止まり、深く息を吸い込む。確かに、湿った木々の香りに紛れて、はっきりと煙の匂いが混ざっている。自然に発火するはずのない森の中で火の匂いがするということは、誰かが火を使っているという証拠だった。
「……人が、いるのか?」
胸が高鳴る。だが同時に、緊張も走る。もしそれが人間ではなく、魔物や危険な存在だったらどうする? 期待と警戒がせめぎ合い、鼓動が一気に早まった。
枝を握る手に力を込め、太一は慎重に歩みを進める。
やがて木々の合間から、不自然な景色が目に入った。大きな木が切り倒され、切り株が整えられたように並んでいる。さらに進むと、踏み固められた道のような土の筋が、森の奥へと続いていた。
「……これは、間違いなく人の痕跡だ」
声が震える。恐怖もあるが、それ以上に強い期待が胸の奥に広がっていく。
ずっと一人きりだと思っていた世界に、確かに「人の存在」がある。その痕跡を見つけただけで、孤独に沈みかけていた心に、力強い希望が差し込んだ。
「……やっと、繋がるかもしれない」
太一は深く息を吸い込み、枝を握り直して小道を見つめた。
その先に待つのが、救いか、新たな試練かはわからない。
だが――もう足を止める理由はなかった。




