第5話 折れかけの枝と小さな灯
スライムの残骸は、地面にべったりと広がっていた。透明な粘体は光を反射し、まるでまだ生きているかのように微かに揺れて見える。中心にあった宝石のような核は、細かなひびを刻んだまま、すでに淡い光を失っていた。
「……これで、本当に倒したってことか」
太一は恐る恐る枝の先で突く。冷たい水をかき混ぜているような感触が伝わり、思わず顔をしかめた。
「解析」
視界に光が走り、簡潔な情報が浮かぶ。
――対象:スライム(残骸)
状態:魔力反応消失 活動不可
特性:時間経過で自然分解。稀に素材化する。
「素材……?」
ひび割れた核を拾い上げる。だが、それは脆く、ガラス片のように粉となって指の間からこぼれ落ち、消えてしまった。
「……残らないのか」
勝利の証を得られず、ただ疲労と虚脱感だけが残る。だが、そのとき――視界の端に青い光が揺らめいた。
――レベルが上がりました。
――新しいスキルを獲得しました。
「……え?」
突然の通知に目を瞬かせる。鼓動が一気に早まるのを感じながら、太一は口を開いた。
「ステータス、確認」
目の前に青い板が展開され、情報が表のように並んで浮かび上がった。
――――――――――
名前:山田太一
種族:人間
レベル:2
職業:なし
体力(HP):110/110
魔力(MP):55/55
攻撃力:9
防御力:6
俊敏:10
知力:11
運:12
――スキル――
◆アクティブスキル
・なし
◆パッシブスキル
・〈言語理解 Lv1〉
・〈適応 Lv1〉
・〈棍技 Lv1〉
◆ユニークスキル
・〈解析 Lv1〉
――――――――――
「……レベルが、上がった……」
体に大きな変化があるわけではない。だが、数値は確かに伸びている。これまでゲームの中でしか知らなかった「成長」を、現実として味わった瞬間だった。
枝を杖のようにして立ち上がると、全身の震えに気づいた。戦いの最中は必死で気づかなかった恐怖が、今になって重くのしかかってくる。だが、それ以上に「生き延びられるかもしれない」という確かな実感が胸に宿っていた。
「……この森で、ずっと生き延びられるわけじゃない」
食料も水も限られている。魔物は一匹だけではない。ここで独りきりで生きるのは、危うすぎる。
――人を探すしかない。
そう結論づけた瞬間、胸の奥に小さな灯がともった。恐怖は消えない。だが、次に進む理由があれば足を動かせる。
「村でも、街でも……誰かがいる場所を見つけよう」
森を吹き抜ける風が、まるでその決意を後押しするように感じられた。




