第4話 恐怖と勝利
スライムは体をくねらせるようにうねり、地面を滑るように近づいてきた。宝石のような核がゆらりと揺れ、そのたびに粘体全体が震える。
「……来るか」
太一は手にした枝を握りしめる。頼りない武器だが、今はこれしかない。心臓がうるさいほどに鳴り、手のひらにじっとりと汗がにじむ。
スライムが跳ねた。地面を叩くような粘音とともに迫る。思わず体が動いた。枝を横に振り、粘体をはじき飛ばす。
――しかし。
切ろうとしても意味がない。枝の動きに合わせて体は裂けるが、すぐに形を取り戻してしまう。解析で得た情報どおりだった。
「……なら、叩くしかない!」
振り下ろす。粘体が揺れ、核が一瞬きらめいた。鈍い手応えが腕に残る。しかしその直後、嫌な感触が手に伝わった。
――ミシッ。
「……っ!」
枝の根元がきしみ、今にも折れそうだった。必死に握り直す。こんな頼りないものしか持っていない現実が、恐怖を倍増させる。もし折れれば、次の瞬間には自分が飲み込まれるかもしれない。
「しぶといな……っ!」
必死に枝を振り回す。粘体がはじけ、地面に飛び散るたびに体力を削っていく。呼吸は荒くなり、腕は重くなった。止めたら最後、自分が消える――その恐怖だけが背中を押していた。
何度目かの一撃で、ついに核が直撃を受けた。高く甲高い音が響き、宝石のような核にひびが走る。
スライムは痙攣したように震え、やがて粘体を崩して動かなくなった。
「……倒した、のか」
枝を握ったまま、太一はその場に膝をついた。荒い息を吐き、全身が震えている。初めての戦い、初めての勝利。恐怖と達成感が入り混じり、胸の奥で強烈な鼓動となって響いていた。
だが、安心する暇はない。この森には、同じような魔物がまだ潜んでいるかもしれないのだ。
太一は震える手で枝を握り直し、周囲を警戒しながら立ち上がった。




