手紙に想いを込めて、燃やして、消して。
春の陽気が教室に差し込み、窓の外では桜の花が静かに揺れている。季節が変わろうとしているのに、私はどうしても踏み切れない。
机の上には白い便箋とペンが置かれている。彼に伝えたくてたまらない気持ちがあったのに、なぜこんなにも書くことができないのかな。
「こんなに、好きだって思っていたのに……」
心の中で何度も呟いていた言葉がつい溢れた。彼のことを考えるだけで胸が締め付けられるような思いが湧き上がるけど、それを表すことができない。
もし手紙を渡すことが出来たら私の気持ちが届くのかな。
深呼吸をしてペンを手に取った。最初の一行……書けない。伝えたい言葉がたくさんあるのに、言葉が浮かんでは消えていく。でも、やっぱり気持ちだけは無くならない。
『あなたへ』
たった4文字。その言葉を書いたとき、私の胸は少しだけ軽くなった気がした。ただ一言、『あなたへ』という言葉が、こんなにも大きな意味を持つことに驚いてしまう。
でも、その後が続かない。この続きを、出来ることならあなたに教えてほしい。
「何を、どう伝えればいいんだろう……」
彼との思い出が頭の中で次々と浮かんでは消えていく。彼の笑顔、優しさ、何気ない言葉。すべてが私にとって特別でかけがえのないもの。でも、それをどう言葉にすればいい? わからないよ。
私はしばらく『あなたへ』と書かれた手紙を見つめていた。外では風が吹いたのか、桜の花びらが窓辺に舞い込んでくる。その花びらを見ているとなんだか泣きそうになる。
「こんなことしてる場合じゃないのにね……」
手紙を書くことで、私は少しでも気持ちを整理できると思っていた。でも実際は、書こうとするほど気持ちがどんどん膨れ上がり、どうにもならないほど大きくなってしまった。
これは渡せない手紙。……こんな想いをするなら全部消してしまいたい。
私は立ち上がって教室を出た。校舎の裏、思い出の場所。手紙をもう一度見つめる。胸の奥で何度も自問自答した。でも、用意していたライターの火に手紙を近づけることはやめなかった。
最初から燃やすつもりだった手紙。こんなに書けないとは思わなかったけど。
炎が紙を包み込んでいく。最初に煙が立ち上り、紙が黒く焦げ始める。その音が私の心に響く。あんなに悩んでいた手紙が、こうも簡単に消えていくなんて。
手紙が焼ける音とともに、胸の奥にあったものが少しずつ軽くなっていく。でもそれと同時に、どうしようもない寂しさがこみ上げる。あの手紙に込められた想いはどこに行くんだろう。
「これで、よかったのかな……?」
そんな問いが頭の中をぐるぐる回る。手紙を燃やしてしまったことが本当に正しいことだったのか、答えが見つからない。でも、もうどうしようもない。帰ってこないんだ。
手紙が完全に燃え尽きて、灰になって風に吹かれて消えていった。私はその灰を見つめながら、あの時の景色を思い出して、また泣いた。
「きっと、いつかは……」
彼に直接伝えられる日が来るかもしれない。でも今はまだその時じゃない。何も忘れることはできないみたいだけど、手紙を燃やすことで少しだけ心を軽くすることができた気がした。
そして、私はもう一度深呼吸をして空を見上げた。桜の花が、優しく揺れている。