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生まれ持った性質は思っていたより堅い

「口づけしてみましょうの辺りからです」

「そこからなのね・・」




「読ませて頂いて思ったのは、スカーレット様は王女としての矜持が強く、心が満たされる妄想力が足りないように思いました」


「心が満たされる・・妄想力?」


「はい。まずは王女としてを基礎にして自分がどうあれば幸せなのかを見つけてください。例えば本を読んでいるとき、お茶会を開いて・・これはあまり幸せそうではありませんでしたので消去ですね。ドレスを選んでいるときでもいいですし、食事をしているときでも構いません。日常で幸せを感じる場面に誰か殿方を登場させるのです。これは頭の中で構いません」


「そうね・・・1人で図書室の個室から夕日を眺めながら読書をする時間はとても満たされているわ」


「そこに例えばユリウス様がこられたとします」


「頭の中でいいのよね?」


「はい。ユリウス様はどう動きますか?ユリウス様がどう動けば嬉しいですか?そういうことを妄想してみるんです」


「・・・びっくりするぐらい何も浮かばないわ」


「・・・なるほど」


「どうしたら・・」


「シリル様、図書室にロマンス小説などはありますか?」


「少しはあったと思う」


「スカーレット様、読んだことは?」


「少しぐらいなら」


「では、私がおすすめの本を今度持ってきます」


「ロマンス小説なんて読んでるのか?」


「はい!面白いですよ」


「私以外の男にときめいたりしてないか?」


「あ、大丈夫です。脳内で全てシリル様に変換されますから」


「プリシラ!」


またぎゅうぎゅうと抱きしめている。


「なので、気に入ったセリフをシリル様に録音してもらうとさらに嬉しいんですよね」


お兄様の腕の中からニコニコと嬉しそうに笑うプリシラ。


「つまり、私もロマンス小説を読んでユリウスに変換しろ、と?」


「ユリウス様に変換しなくてもいいです。スカーレット様の頭に甘さをストックしたいんですよね」


「そんなことできるのかしら」


「何もしないよりは」


「そうね。何もしないで変わるわけがないものね」


「まずはそこから始めてみましょう。この紙はもう捨てても構いませんよ。気になることは全て書き出しておいたので」


「そう・・わかったわ」


「じゃあ私の部屋に行こう」


「はい!」


「ほ、ほんとにお兄様の部屋に泊まる気なの?」


「もちろんです」


それでいいのかと心から疑問に思ったけれど、楽しそうな笑顔に何も言えなかった。

それに、お兄様の手をぐいぐい引っ張りながら出ていったし。


「プリシラ・・すごいわ」


急に明るさが消えたような部屋で小さく呟いた。


□ □


次の日の朝早くにプリシラは帰宅したようで、朝食の席には眠そうなお兄様しかいなかった。


「お兄様?」


「天国なのに地獄だった・・」


大きくため息をついている。


「お兄様、まさか」


「一晩中可愛いプリシラの寝顔を見ていたかったのに!!」


・・ピュア!


心でそう叫んで、声には出していない。・・はずよね?


□  □


プリシラが持ってきてくれるであろうロマンス小説を待つ間に、自分でも少し探してみようと図書室に行く。


「ロマンスの棚はどのあたりだったかしら・・」


思えば隣国の特産や王国の成り立ち、孤児院への寄付活動、教育。貴族女性にしてはお硬いであろう分野の本ばかり読んできた。この前読んだ地質の本だって、誰かと誰かが恋した喧嘩したなどという本を読むより知識欲が満たされる。


ただ・・どれも表面をさらっとなぞるだけで、これが好きでたまらないとも、この分野だけは誰にも引けを取らないなどと胸を張れるようなものはない。


知識を満たして、この先の人生になんの意味もなかったとき、私はどうするのだろう。

誰の役にも立てず、プリシラのような発想力もなく、ただ王族だという矜持だけを抱えて生きる・・・


「そんなのつまらない」


ポツリと溢してしまった独り言とため息に自分でびっくりしてしまった。

いけない。ため息ついて可哀想ごっこをしないのが大事だったわ。

誰も見ていないことを確認してから、自分の頬をペチンと3回叩いた。プリシラを真似たおまじない。


『自分には価値があると胸を張っていればいいのです』


そうね。ふっとプリシラの顔を思い出して笑ってからロマンス小説の棚を探す。


『荒野令嬢』

『あなたに誓う雪の結晶の指輪』

『私は振り向かない』


内容がさっぱりわからない。


荒野で令嬢が何をするの?

雪の結晶のリングって、すぐ溶けるじゃない。

振り向かないって、何に対して?


とりあえずその三冊を掴んで奥の特別室へと運んでいく。


結構な分厚さで、1度に三冊も持ってしまったことを後悔する。


「良ければお手伝いを」


声に聞き覚えがあると感じながら目を上げると、レイモンド殿下がいて、本を三冊とも持ち上げてくれた。


「ありがとうございます」


王女として身についた礼儀でお礼を言ってから、はっとする。


慌てて1番上に積んだ本のタイトルを確認したら、『私は振り向かない』だったので、少し安心した。『あなたに誓う雪の結晶のリング』だったら、結構恥ずかしかったかもしれない。


特別室の鍵を開けて、大きな机の上に本を置いてもらった。


「助かりました」


心から感謝を込めてお礼を伝える。


「いえ。どういたしまして」


「私がお邪魔でなければ、レイモンド殿下もこの部屋をお使いになってくださいね」


特別室だと、お茶を飲むこともできるし、王族以外入れないのでプライバシーもある程度守れる。お互いの目はあるけれど。


「ではお言葉に甘えて」


すんなりと受け入れて、自身のための本を取りに行った。

その間にお茶の用意を頼んで、座り心地の良い椅子に座り、大きな机に本を広げて内容をパラパラと確認する。


『荒野令嬢』は、荒れ地に生きる野性的な男性に惹かれた貴族令嬢が何もかも捨てて、男性と生きる覚悟を決める物語のようだった。


『あなたに誓う雪の結晶の指輪』は、雪の精霊王を好きになってしまった人間の王女が、儚い自分の人生を儚い雪に例えて、愛を貫こうとする物語。


『私は振り向かない』は・・・



バタン!と慌てて本を閉じる。

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