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覚悟するという覚悟(難解)


「あれから、硬いものを食べる練習をしています」


え?


「まだまだですが」


「えっと・・」


思わぬ方向へ努力しているのだけど、その努力は大人になってからでも実を結ぶようなものじゃない気がする。この人が理解しやすいように、おかしな努力をやめてもらうにはどう言えばいいのかしら。


「顎、疲れない?」


「疲れます」


「うーん・・」


「少し疲れにくくはなってきています」


「ユリウスは元々あまり硬いものが好きではなかったのでは?」


「そう・・ですね。柔らかいものが好きかもしれません」


「では、その硬いものを食べる努力を直ちにやめて」


「しかし」


なんていうか、ユリウスは頭がかたいのよね。こちらが伝え方を工夫しないと、中々わかってもらえないような歯がゆさがある。


「私ね、料理ってそんなに楽しく感じられないの」


「それはすみませんでした」


ダメね、伝わってない。


「どんどん練習して上手になりたいとか全く思わないわ。だから、今後クッキーを1人で焼いて硬いものをあなたに食べさせることはない」


「・・・」


なるほど、これでも納得はしていないのね。


「今日、ユリウスが教えてくれて一緒に焼いたこのクッキーは、柔らかくて美味しいし、とても楽しかった」


「はい」


あ、少し嬉しそうね。


「だからもし、私がこの先万が一クッキーを作りたいと思ったなら、ユリウスに手伝ってもらってもいい?」


「はい!」


「ね、だからユリウスは硬いものを食べられるようになる努力なんてしなくていいの」


「万が一のときのために練習しておいても損はないかと」


うぐぐ。まだ納得できないのね。


「万が一がないように、ユリウスがいないときには料理しないことを誓うわ。そして、美味しいものを今後も楽しく食べるためにも、歯と顎は大事にしなきゃ」


「・・はい」


納得できた?まだ少し確信には至らないので、彼の瞳をじっと覗き込んだ。


「本当に約束できる?」


「たまになら練習しても?」


「ユリウス、しっかり私の目を見て」


「はい」


「今、ここで、しっかりと約束するの。あなたはもう硬いものをわざわざ食べない、と」


「でもそれだと」


んもう!なんて頑固なの!


「一生、金輪際、あなたにクッキーを焼かないことにするわ」


「そんな!」


「あなたは私の提案に納得できないのでしょう?」


「約束します」


「本当に?」


「心から」


「私はね、あなたにそんな風に変わって欲しいなんて思っていないの。食べられないものを無理して食べる必要はないし、以前のようにエスコートの定型を望んでもいないわ」


「・・?」


「ありのままのあなたをちゃんと見ているから」


あなたの苦手は私の得意かもしれないし、あなたの得意は私の苦手かもしれない。苦手を克服するのではなく、お互いが補え合えればとても幸せなのではないかしら。

あなたの力になれたら嬉しいし、私の苦手を助けてくれたらとても嬉しい上に楽だわ。


その代表が料理ね。

そして自分の気持ちを言葉にするのが苦手なユリウスを、さりげなくサポートすることは私にできること。


「ユリウス。もう課題は終了にします」


「えっ」


「もう、わたくしを口説く必要はない」


「そんな」


本当にあなたがしたかったことは何だったの?とは尋ねない。

何かしたいことがあるのなら、また来ればいい。動きたくないのなら、動かないのもいい。


私が心をしっかりと決めるにはあと少し時間が欲しいだけ。私の言葉をちゃんと聞いていてくれたのであれば、これが終わりだとは思わないと思うから。


だから放置プレイを。ってまたプレイって脳内で使ってしまっているわ。いつか口に出してしまいそうだけど、王女という立場じゃなくなれば普段使いしても構わないわよね。


あなたを愛していく覚悟をしようと思うの。


□ □


ほんの少し滞在を伸ばしたレイモンドが、今日帰国する。


「ありがとう。今度はぜひこちらに遊びに来て欲しい」


「そうね、行きたいわ」


「いいのかい?」


「もちろんよ」


「じゃあまた」


お互いに軽く手を振り、私は車が視界から消えるまで見送った。


□  □


1人の人間を、大きく包むような愛で満たしていくには、恋情が大きな動力になるのだろう。


ユリウスを好きだと思っていたときは、ユリウスに不満ばかり感じていたように思う。


好きだという感情をくれない不満、誰よりも私を大切にして欲しいのに王女という身分に対しての優先度は高くても、愛する人へ向ける優先の感情も見えない不満。


それらを表に出してユリウスを責めることができない不満。

だから逃げるように捨てた。


いえ、逃げたのではないわ。これ以上いらないと思った。


今は、ユリウスに何か後ろ暗い理由があったとしても、それを凌駕できるような愛を貫けるのか。どうすれば、一生返ってこないかもしれない愛を捧げる覚悟ができるのか。


この先どうしても受け入れられないのは、ユリウスが以前のように、令嬢たちが求めるユリウスとして振舞うこと。


それさえも受け入れていけるのだろうか。

前回、お金持ち×2の願望を書いていたので修正しました。

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