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乙女心は制御可能?

思いがけなくレイモンドとゆったりとした時間を過ごし、プリシラがいるであろう部屋に戻ろうとしたら、こちらを見つめるお兄様と出会った。



「プリシラなら私の部屋にいるはず」

「知ってる」


知ってるのね。・・なぜ。

いえ、「当然」なのかもしれないわ。


一緒に歩き出すと


「レイモンドと楽しそうだったな」


「ええ。私のクッキーを勇敢にも食べてくれて。それが何の石の硬さに似ているかを教えてもらっていたの」


「なんて堅い会話なんだ」


「まあ、柔らかい話ではないけれど、レイモンドと私の心の中は穏やかさで満たされていたと思うわよ?」


「あのクッキーを食べるとはな」


「ユリウスはひとくちで断念してました」


「あいつのそういうところがダメなんだ」


「でも・・私はそういうところこそ魅力なのでは?なんて思い始めたわ」


「うん?」


「そりゃあお兄様ならプリシラが本物の石を食べろと言っても食べるんでしょうけど」


「プリシラが本物の石を食べろと言ったなら、その石には何か面白いことがあるんだろうと思うからな」


「そうね、わかるわ。でもなんていうか・・食べられないとお皿に戻してしまうユリウスの正直さという部分はとても可愛い気がして」


「そうか?」


「なんとなく、ですけど。ほら、子どもなら食べたくないものは食べようとしないでしょう?そんな印象を受けたの」


「じゃあ、さっきどこか暗い表情でお前たち二人をじっと見ていたユリウスは可愛いと思えるか?」


「見てたんですの?」


「見ていた」


「そのユリウスを見てないのでなんとも・・」


ユリウスが嫉妬するとも思えないし、暗い表情というのはお兄様から見た印象でしかないし、なんの感情も湧いてこない。私はどこか少し冷めているのかもしれないけれど。


そしてやはり、お兄様は怒っているプリシラを見られなかったことを悔しがり、もう一度怒って見せてくれと頼み、中々怒れないプリシラをしつこくくすぐり、最終的に本当に怒られて嬉しそうだった・・・


□  □


「今日は・・これを」


差し出されたかごにかかっていた布をしばらく逡巡した後にユリウスが取り去ると、きれいに並んだ・・


「クッキー?」


「はい」


「このクッキーはあなたが焼いた・・の?」


「はい。この前のスカーレット様のクッキーが固くなった原因は何かと思い、色々試したところ、このぐらいには成功するようになったので、もしこの味と硬さを気に入っていただけたなら、私が調理のお手伝いをできるかもしれないと・・」


明らかに私の作ったものより美味しそうに見えるそれは・・私のプライドのようなものを刺激して、ほんの少し、本当に少しなのだけれど、苛立ちを覚える。


でも・・あのクッキーが悲惨だったことは認めるし、そもそも料理に対しての自信など持ち合わせていないのに、なぜわざわざ苛立たなければならないのか。冷静に、冷静に。この苛立ちはきっと私の中の「女心」が反応しているだけ。


そんなふうにごちゃごちゃと考えながら1枚取って食べてみる。

ほろほろと口の中で崩れ、バターの香りが広がった。


「悔しいけれど、とても美味しくて私が作ったものと比べ物にならない」


「あ・・」


沈黙が続く。


クッキーの美味しさで、苛立ちは消えた代わりになぜだかとても悲しくなってきた。いつものように自然と感情を無視しようとして・・無視したくないと思ってしまった。


「ユリウスは・・私を馬鹿にしたか・・ったの?」


「違います!」


「王女・・なのに大したこともできず、料理すらまともにできないことを・・自分にはできるのだと示したかったの?」


「違う。そうじゃないっ」


「じゃあどういうつもりでわざわざ私が失敗したクッキーを作ってきたというの?」


「それは・・その・・」


いけない。いつもなら相手が何を言いたいのか、どうすれば言いやすくなるのかを考えて話すのに。問い詰めるような響きになっている。


そのことに気がついても、ユリウスにかける優しい言葉など浮かんでこない。いっそこの場から去ってしまいたいけれど、それもなぜだかしたくない。口も足も動いてくれない。


「先日・・見てしまったんです」


「?」


「とても仲が良さそうに、二人でクッキーを割っているのを」


だからなんだというのだろう


「あんな風にはできないと思いました」


レイモンドと同じことをしてほしいなどと思ってはいないけれど?


「クッキーを出してしまった自分、クッキーを食べきれなかった自分。この失点を取り戻すにはどうしたら・・と」


失点を取り戻すって何。いつから得点制になったのかしら。


「もし・・クッキーをまた焼きたいと思われているのなら、その時力になれたら・・と。もし、私とあなたで一緒に作って、二人でそれを食べたなら・・あんなふうに笑いあえるかもしれない・・と」


「・・それで、私より上手にクッキーを焼いたら・・私が傷つくかもしれないことには思い当たらなかった、と?」


「いえ。ほんの少しはそう思いました。ですが、あなたは許してくれるだろう・・と」


ふう。こんなの、私の負けね。いえ、勝負をしていたわけではないのだけれど。


失点だと感じるユリウスの心も、負けだと感じる私の心も、優劣や勝敗を決めようとしていることがそもそもおかしい、きっと。


「わかったわ。じゃあ次回は教えてくれる?」


「・・・はい」


ここで、なにも気の利いたことを言えないのが素のユリウスなのだとはっきりわかった。


そして、それを私に見せてくれている。それで充分。

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