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□  □  


「愛、ですね」


「え?」


プリシラは何について愛だと言っているのかしら?


「ぐちゃぐちゃのサンドイッチを嬉しいと感じて、涙が溢れて、そのぐちゃぐちゃのサンドイッチを食べて、美味しいと思う。これは愛です」


「こんなことが?」


「こんなことっておっしゃいますが、例えばあのウワキングが作ったぐちゃぐちゃのサンドイッチを食べられますか?」


「無理ね。でも食べ物に罪はないから無理してでも食べようとするかしら・・いやでもあいつが作ったなんて気持ち悪くて後で吐いてしまいそう」


「食べ物は直接手が触れたりしますし。あいつの唾液や汗が混じっているかもって思ったらもう」


プリシラが少し震えて腕をさすっている。お兄様が後ろから抱きしめて、こめかみにキスをしながら温めるっと。はいはい。


「お兄様は万能ですこと」


「プリシラに俺の熱をあげないと」


寒いわけじゃないと思うけど。


「これが愛なら、慣れない料理を作ってくれたユリウスも愛なのでは?」


「んー、それはまた別ですね」


「どうして!?」


「まだクソを信じるわけにはいきません」


「ふふ。厳しいわね」


「それに、同じことをレイモンド様がなさったとして、ぐちゃぐちゃのサンドイッチを食べますか?」


「・・食べるわ」


「なので、これはスカーレット様の『愛』なのです」


頭に浮かぶ疑問符。プリシラが言う愛について、今ひとつぴんとこない。


「もう、ユリウスを信じるに充分だと思うのだけど」


「まだですね」


「まだだな」


お兄様まで。


「俺もプリシラのために料理する!」


お兄様の頭の中は常にプリシラへの愛がぎゅうぎゅうに詰まっていて、こぼれ落ちていくのかも。


「嬉しい!でも私もシリル様に何か作りたい」


プリシラはそのこぼれ落ちた愛もきちんと受け取っているのかも。


「じゃあ一緒に作ろうか」


「シリル様は何が食べたいですか?」


「プリシラが作るものならなんでも!プリシラは何が食べたい?」


「シリル様が作ってくれるならなんでも!」


世紀のカップル!!


仲良しぶりを呆れて見ながら、ふと私も何かしてみたいと思い始めた。



□  □


2人がいちゃいちゃしながら料理する横で、料理本を広げて理解する。書いてあるとおりにやればなんとかなるはず。


そう思っていたのに。


粉をふるう、がわからない。

適量、もわからない。

耳たぶぐらいの硬さ、自分の耳を確認してみても食べ物の硬さ=耳たぶの変換ができずに困惑するばかり。


耳たぶも人によって硬さが違うのではなくて?!


あまりの心細さにプリシラとお兄様に相談しようと思ったのに、お互い味見ごっこが始まっていて、声をかけるタイミングがない。生クリームは頬に付けるものではないわよ、お兄様。


ええい、なんとかなる!と粉をなんとなく揺すり、エッセンスは瓶の3分の1ほど入れ、私の耳たぶは心もとないので気持ち固めを意識して、用意してくれていたオーブンに放り込んだ。


カチカチクッキーの出来上がり。

ものすごく強い匂い付き。


料理とはセンスがものを言うのかしら。もう一度初めから作りなおす気力など残っていない。ごっこ遊びが終わったプリシラがやってきて、私のクッキーをくんくん嗅いで顔をしかめた。


「スカーレット様」


「失敗したの」


「これをユリウス様に出してください」


「えっ!?・・それは恥ずかしくて無理・・」


「出すのです」


キリリと強く言われて戸惑い、プリシラなら食べれるのかしら?と1枚差し出してみると、お兄様がクッキーをつかんで元に戻した。



□  □


「今日は綺麗に詰められたはずです」


ユリウスがまたサンドイッチを作って来てくれた。


そうっと開けたバスケットに整然と並べられたサンドイッチ。


「綺麗ね。いただいても?」


「はい」


レタスとハムと卵のサンドイッチをいただくと、とても美味しい。

なのにどうしてかしら。この前のほうが美味しく感じて感動したのに。

綺麗だから美味しい、綺麗で感動するというのは、対ユリウスだとあまり発動しないのかもしれないわ。ユリウスだとなんでも美しくて当たり前、だったのかも。


でも、本人は綺麗にできたことに大満足しているようで、この前よりも嬉しそう。


嬉しそうなユリウスを見るのはとても嬉しい。そんな風に感じるのって不思議ね、なんて思っていたら。扉をコンコンと叩く音。嫌な予感はしたものの、どうぞと許可を出す。


「たのもう!」


勇ましい足取りでプリシラが入ってきた。


隠しておいたのに、あのクッキー。

あの硬さと香りで無駄になるであろう可愛いさを演出したカゴをテーブルに置き、


「これは、スカーレット様があなたのために焼いたクッキーです」


それだけ言って、部屋の隅へスススと移動していった。


「い、いや!それは失敗作なの!」


正直、ユリウスのぐちゃぐちゃサンドイッチより質が悪い。ユリウスのは詰め方を間違えただけ。私のは人に教えを乞うこともせず、プライドとエッセンスと歯ごたえを敵のように詰め込んだ食物。殺傷能力さえあるかもしれない。


そして気がつく。


こんなものを食べさせたくないと思うと同時に、食べられないと拒否されるのもまた怖いと思っていることを。矛盾しているようで、私の中ではしっかりセットになっている。


女心とはこういう混ざり合った状態を指すのね、きっと。なんだか深い気付きをした達成感をクッキーの香りが台無しにしようとしてくる。


「食べないでいいわ、本当に」


そう言ったのに、ユリウスは1枚摘んで口に運んだ。


一歩進んで三歩下がって、渡ろうとした橋を確認のためだと叩き壊され

「やっぱりもろい橋です」と得意げにいうのは違うと思うのよ?プリシラ。

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