クズの真髄って
□ □
「これは・・」
目の前に並んだのはバスケットにぐちゃぐちゃに詰められたサンドイッチ。どのパンとどのパンがくっついていたのかわからない有り様だ。
「まさかこんなことになっているとは」
しょんぼりしているユリウスにいつものかっこよさなんてどこにもない。
「もしかして、もしかしてだけど・・ユリウスが作ってくれたの?」
「はい。作り方を覚えて、練習して味はおいしくできたんですが。まさかこのようになるとは」
このぐちゃぐちゃっぷりを見るに、ユリウスは普段から料理をする人ではないのだろうと思う。
だから、本当に嬉しかった。嬉しい、嬉しい、こんなことまでしてくれるなんて。
いけない、また悲しくもないのに涙が溢れてしまいそう。
「パズルみたいね」
「え?」
バスケットに手を入れて、卵がぐちゃぐちゃになって張り付いているパンと、卵の欠片が張り付いているパンを手にとり、サンドイッチに復元する。
「スカーレット様?」
パクりとひとくち。
「美味しい。美味しいわ!」
今まで食べたどんなサンドイッチより美味しいと思った。
「あまりの見た目に悲しくて泣いているのですか?」
「いいえ。これは単に涙が排出されているだけで、泣いているわけではないの」
「そう、ですか。私はあなたを泣かせてばかりのような気がしてきました」
「ふふ。それってなんだかとても罪作りな男性の台詞みたいね」
「誰かを泣かせたことなんてありません」
「あらそう?貴婦人は人前で泣いたりしない、それだけのことじゃないかしら」
「・・期待を持たせるようなことはしたことがないんです」
「んー・・」
美味しいサンドイッチなのに、少し残念な内容の会話ね。
「確かプリシラが言っていたと思うけれど、期待ってその人の判断というか・・心の動きであって、こちらがコントロールできるようなものではないのではないかしら」
「?」
「私が偉そうに言えることではないのだけれど」
「いえ」
「そうね、難しいわね・・」
「なんでもいいので言ってください」
「このサンドイッチ、あなたはわたくしに一生懸命作ったのをアピールするためにわざとぐちゃぐちゃになるように詰めた?」
「そのようなことは決して」
「わたくしには人の悪意や思惑を完全に見抜くような能力がないので、単にわたくしが感じたことだけで話すのだけど」
「はい」
「これが綺麗に詰められてるよりも、ぐちゃぐちゃになっていることでユリウスの温かさみたいなものを感じて、本当に嬉しいと思ったの」
「・・はい」
「あなたがもし、私の感情をそういう風に揺さぶろうとしたならば、私は素直に嬉しいとは思えなかったかもしれない。このサンドイッチも食べたいとは思わなかったかも」
「はい」
「あなたが何も意図せずにしたことを、私が嬉しいと感じるのか、迷惑と感じるのか、このことであなたに何か期待をしてしまうのか、それはわたくしの自由」
「はい」
「期待に応えなきゃと思うのも、期待されて辛いと思うのも、あなたの仕草やエスコートで勝手にワクワクと恋や夢の物語を描くのも、全て自由なのでは?」
「相手の自由・・」
「あなたはなにか自分のためもあって『紳士的に』『かっこよく』『期待される通り』振舞った結果、どこかの令嬢があなたに夢中になり、それ以上好かれないよう気を付けて立ち回ったとしても、その令嬢がどう感じるのかまではコントロールできないし、しようとするのも違う。好意を寄せてほしくない相手なら距離を取ったり、好意を告げられたなら期待を持たせないように誠心誠意断るといのなら、また違うとおもうのだけれど」
「・・・」
「プリシラはあなたのことを『クズ』だと言うの」
「はい」
「彼女にそこまで言わせるような・・・うーん・・・やはり偉そうに私が言えることではないわね」
「・・・」
「私も人のことを言えるような人間ではないのだけれど、このサンドイッチは本当にとっても美味しい
」
なんだか胸のモヤモヤをうまく言葉にできず、サンドイッチに逃げたような気もするけれど、生クリームとイチゴの欠片を背に、腹にピクルスが絡みついているパンを手に取り口に入れた。
焼き栗はたまに殻に戻ろうとする。




