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恥ずかしさの向こう側

□  □


あれから数日、思い出しては悶絶してしまう。


恥ずかしい気持ちが込み上げつつ、どこかくすぐったいような、でもずっと感じていたいような気持ちが胸にある。複雑すぎて、気持ちが揺れ動きすぎて、もう捨ててしまいたくなる。その繰り返し。


まず最初に恥ずかしさがこみ上げてしまってジタバタしそうになる手足を必死に制御し、変な声を出してそうになるのを手で押さえながら堪える。


そんな様子をプリシラが気持ち悪いものを見るような目で見てくるのに何も言ってこない。

何か言われても、今答えられる気がしないから助かるけれど。


火曜、ユリウスは来た。でも何もしなかった。今、準備中だから少し待って欲しいと言われ、今度は一体何をするつもりなのかと期待と不安が半分ずつ。


木曜、レイモンドが一緒に出かけようと誘ってくれた。帰国が近いので、一緒に買い物に行こうと。一緒にお土産を選び、予約していたレストランで昼食を楽しんで、帰りの車で「これを君に」と茶色い石をくれた。「中に宝石が含まれている原石なんだ。気になったらそれを遊びにくるときに持ってきて。一緒に削ろう」と。


どんな宝石なのか、この目で見てみたいと思った。レイモンドには感情がざわざわと忙しくならない。安心と安定感しか感じない。


□  □


翌日、またユリウスがやってきた。バイオリンケースと冊子のようなものをテーブルに置く。


「?」


今日はバイオリンの演奏をするつもりなのかしら。

黙って様子を見守っていると。


冊子を開いて大きくため息ひとつついてから、顔を覆っていた手で頬を叩いた。


な、何を?


「あなたは私に種をくれた」


え?


「あなたのくれた種を乾いた大地に蒔いてみた」


はい?


「乾いた大地で芽吹いたのはたった一つ」


そう・・良かったわね


「その芽に天空から雷が落ちた」


乾いた大地なのに?雨が降らないから乾いてるんでしょう?いきなり天変地異なの?芽ひとつで?


「その芽の周りの土が大きくえぐれて大きな湖になる」


は?雷だけで?土は抉れないのでは?その水はどこから来たの?


「湖に美しい金色の女神が現れた」


え、どこから?水から湧いたの?


「女神が芽に息を吹きかける」


芽吹きだけにね。


あっ、ここでバイオリン登場なのね。・・微妙に下手な気がする。


「すると、小さな緑の芽だったものがするすると伸びて大きな花を咲かせた」


効果の高い栄養剤ね。バイオリンは一旦置くのね。


「美しい花からまばゆい光が散らばり、乾いた土を潤していく」


湖から水路を開いたのかしら。すべてを女神の力で片づけるのかしら。


「潤った土から新しい芽が育ち、次々と花が咲いていく」


時系列はどうなっているのかしら。1年後の話?


「美しい花を騎士が女神に捧げる」


急に登場したわね。女神はずっといたのかしら。


「あなたに永遠を誓う」


何の?


「花を受け取った女神はこの世のものとは思えない笑みを浮かべて騎士と寄り添う」


人間じゃないほうの女神?

女神のような人間?


「寄り添った二人は永遠に」


あ、バイオリン持った。弓落とした。

焦ってギギギと軋んでいるのが恥ずかしいのかユリウスの額に汗が浮かんでいる。

キィと少し神経に引っかかるような音で終わった。


やりきったのね、すごいわユリウス。


・・・拍手したほうがいいのかしら。


前回ほど恥ずかしがっている様子はないけれど、自信満々という様子でもないし。


「あの、ユリウス?」


「はい」


「えっと・・」


「愛のうたを・・」


なるほど。どうしましょう・・。


「ええっと・・これはユリウスの心情を込めた感じ?」


「・・・はい」


ユリウスってこういう人だったのね。


「ありがとう。頑張って書いてくれたことが嬉しいわ」


王女力出さないと。想像するのよ、わたくし。

可愛い子供たちが、一生懸命練習した歌を歌ってくれたら純度の高い喜びを感じるでしょう?わたくし。

ええ!そうよ。


「とても素敵な詩だった」


いえでも・・今後のために雷では地面は抉れない可能性のほうが高いことを伝える?

ものすごく悶々としていたら


「こんな程度なんです」


ユリウスがぽつりと言った。

冬将軍。とても強そうな名前。冬軍曹、冬大将、冬大統領、冬宰相、冬魔王、冬精霊王、冬の女王、冬王、冬・・。個人的には1位冬将軍、2位冬の女王。冬大統領はなぜか陽気な雰囲気が。次回の更新は来週になります。

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