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生い立ちとか背景とか・・不幸を探すのって違うと思うの。

「では、私と結婚してもらえますか?」


「えっと・・」

「耳になにか異物が」

「大丈夫か?!プリシラ」



お兄様、プリシラの耳はきっと大丈夫よ。


プリシラの耳を覗き込んで、それをくすぐったいからとクスクス笑って身体を倒して逃れようとするのを引き寄せて「ちゃんと見せて」とまた覗き込み、大丈夫そうだと判断したのか耳をくすぐり始め、またキャッキャと逃げるプリシラを抱きしめて耳にキスを・・・


「今日も平和ね」お茶が美味しいこと。


数日離れていたことでいちゃいちゃがお増しになられ遊ばしていてよ。ふっ。


ユリウスはまだそんなにこの二人のじゃれ合いに慣れていなかったのね。お口が少し開いてるわ。珍しい。


意識をしっかりとユリウスに戻して少し低めの声を意識して出す。


「結婚って聞こえた気がするのだけど」


「はい。私と結婚していただけませんか?」


「なるほど?」


これは正式なプロポーズと受け取っていいのかしら。全然ときめかない。数か月前の私ならときめいていたのかしら?うーん・・


「ロマンチック皆無!愛はどこ!」


あら珍しい。プリシラが声を荒げているわ。


「プリシラ、その叱り方を僕にもしてみて」


お兄様が別の道へ逸れようとしているわ。・・いえ、本来の道かしら。


「わかりました」勢いのまま力強く頷いたプリシラ。


あっ、わかったのね・・。なるほど?


「何か事情があるのかしら?」


「・・いいえ」


「そう」


「いや、納得することじゃありません、スカーレット様。やっと少し自分らしさを取り戻しつつあるのに、なんでこの中身胡散臭いプロポーズをされなきゃならないんですか?もっと怒ってください」


「あ、それもそうね」


「正式なプロポーズなら、ちゃんと段取りを踏んでもらわないと通せないけどな」


「でも、ユリウスに協力できることなら力になると約束してしまったのよねぇ」


「時間の無駄です」


「今は特に時間に困ってないのよね」


「ううーー」


悔しそうにシリル兄様の胸に飛び込むプリシラに、お兄様の顔が緩みきる瞬間を目撃したわ。ほんっと幸せそうだこと。


「もし私があなたと結婚したら、あなたは何か助かるのかしら?」


「・・はい」


「あなた、私を愛せる?」


「・・・」


「クソー。ここにクソがいますー。クソ階級の上位にいるであろうクソですー」


そうね、感情が極まると隠語使うよりその言葉を使いたくなるわよね。


「ユリウスは誰か心に決めた人、愛してやまない女性がいるの?」


「・・・」


「その人とは結婚できないから、女性と軽く遊んだり、諦めて私に付き合ったりしていたのかしら?」


「スカーレット様、このクソはそんな演劇のような背景なんてありませんよ、絶対。ロマンチックを知らないんですよ」


何かしら、その自信。


「って言われてるけど?」


ユリウスを伺うとやや目を反らしながら


「・・いません」


と答える。


まあわたくしが勝手に考えた裏事情ですし、当たるとは思っていなかったけれど。少し残念な気が。


「友達として見てきたコイツが何かに苦しんでいたなんてのは無いと断言できる」


お兄様、断言できるのね。なんの背景もなくナチュラルに女性をもてあそんできた、と。


ク・・


危ない、品位を損なうところだったわ。


モテることがアイデンティティな人はいるわよね、たしかに。誰かひとりを愛し抜く覚悟なんて、想像すらしたことないような人。


私、こんなク・・・を好きだったのかしら。


「変わりたい」


ん?なにやらボソボソと聞こえたけれど。


「声がちっさい!はっきり喋れ!」


プリシラが鬼将軍のようになってるわ。なのになんで可愛らしいのかしら。お兄様がなぜかニコニコしながらプリシラを撫でているわ。


「変わりたいんだ!」


「もっと!」


「変わりたい!!」


「もっと叫べ!」


「か、変わりたいんだーっ!」


あ、これ隣の部屋の使用人達に絶対聞こえたわね。


「50点!」


ねえ、点数必要?


息も荒く点数を告げたプリシラに笑いがこみ上げてくる。


「ぷ」


あ、ダメ。止まらない。

笑いすぎて、お腹痛い助けて。

ユリウスの前で外したことのない王女としての仮面が剥がれ落ちていくじゃない。


「ひっ・・辛い、お腹痛い・・笑いたくない・・誰か助けて」


「そんな笑うか」


お兄様の冷静な声に少しだけ止まったわ。溢れ出る涙を拭いながら顔をあげてプリシラを見たら、なんか得意気な顔をしている。それを見て、また笑いの発作が。辛い。


「な、なんでプリシラが・・ひっ・・そんなに得意気な・・の」


「だって、王女としての仮面が剥がれ落ちたじゃないですか!私のおかげで」


そう、それでそんなに得意気なのね。お兄様、わかるわ。私も今、プリシラをぎゅうぎゅうと抱きしめたいもの。


「はー・・辛かったわ」


「もっと笑ってていいのに」


「笑いすぎるとこんなにも体が辛いものなのね、初めて知ったわ」


「プリシラはすごいだろう!」


「ええ、そうね。本当に」


「・・・」


「ユリウス、急ぐ話でもないでしょう?また次回に続きを聞くわ」


「・・・」


「返事は!?」あ、やめてプリシラ。また笑いたくないの。


「じゃあ、また次回に」


すっと立ち上がってささっと部屋を出る。これって王女らしい行動よね。でも今日はいいの。笑いすぎて本当に顔もお腹も痛いのですもの。


少しひんやりとした空気の中歩くと、気持ちも落ち着いていく。

いつかのユリウスの温かい手をまた思い出した。


私が好きになったユリウスは、あんな感じだったかしら・・


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