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しょんぼりユリウス

久しぶりの委員会はいつものメンバーとサロンでお茶を飲みながら報告を終え、部屋を出たところでレイモンドにばったり出会う。




「スカーレット」


笑顔で名前を呼んでくれるレイモンドに釣られて私も笑顔になる。


「今日の調査は終わったの?」


旅行から戻って以降、夜はお兄様たちと一緒にレイモンドと過ごしている。気取らなくて話題も豊富な人なので、旅行が終わってからもさらに仲良くなれた気がしている。


「今日は外には出ていないんだ」


「そう?なんだか前よりもさらに日焼けしている気がするわ」


「沈着したんだろう」


「ふふ。色白のレイモンドが想像できない」


「白かったことなんてない気がする」


楽しく会話をしながら廊下を進む。角を曲がる際、ちらりと何か黒い塊が目に入った。そのまま進んだものの、レイモンドと分かれ自室に戻ってからその塊が気になりだす。


「あれは・・」


まさかと思いながら廊下に出て、先ほど歩いた道を戻り角から確かめる。

佇む形状は変化しているけれど、やはり人。そしてそれはたぶん。


「ユリウス?」


ビクッと足が動いた。


木に寄りかかるように座り、足を伸ばしている彼の正面へ回り、同じ目の高さになるようにしゃがんだ。プリシラの真似をしてコルセットを使わなくなったからこそできる姿勢。


顔を上げたユリウスはどこかぼんやりしているように見える。


「どこか具合が悪いの?」


「・・・」


答えが返ってこない。

いつもなら流れるように気品漂う返事が聞こえるだろうに。


どうしようかしら。プリシラがいれば一緒に私の部屋にでも行けるけれど。


「こんなところにいたら冷えてしまうわ。良ければ部屋を用意させるから一緒にお茶でもどう?」


「・・・」


返事はない。


迷惑かしら?


でも。


このまま放置して何かあったら私は一生後悔するかもしれない。そんな後悔したくない。

立ち上がるとともに心を決め、通りがかったメイドにお願いして部屋を用意させる。

またユリウスのところに戻り、そばで待つ。離れた場所からメイドの声が聞こえたので、どの部屋なのかを聞いて礼を伝えた。


「さて。人にあまり見られないタイミングで動かなきゃならないかしら」


ユリウスの元へと戻り、手を差し伸べてみる。どこかぼんやりした瞳ではあるけれど、私の手を取り自力で立ち上がった後、エスコートするように腕に添えてきた。


用意された部屋に向かう。何人かとすれ違い挨拶をされた。その間ユリウスはエスコートしている風だけど、誘導しているのは私。

部屋に入りお茶の用意が整ったテーブルに向かい合わせで座るように伝え、私も座ってお茶を淹れた。機械的に口に運ぶユリウスを眺める。外見的にどこもおかしなところなんてない。


「ユリウス?」


「はい」


「良かった、返事はできるのね」


「はい」


「単刀直入に訊くわ。あなたに何が起きているの?」


「・・・」


「答えられないようなこと?」


「・・・」


「振り回したお詫びの意味も込めて、私で力になれることなら協力する」


「・・・」


「毎晩のように出歩いて、どこかぼんやりしていると噂になっているのよ」


「・・そうですか・・」


「あなたが以前のように華やかな交遊を楽しむために夜会に出ているのなら、それはそれでいいのだけど。今のあなたは・・楽しそうではないわね」


「・・・」


「まあ、正直に言うと・・以前もそんなに楽しそうに見えたわけでもないけれど」


「・・・」


一方的に話しかけ続けてみても、どこかぼんやりした様子はあまり変わらず。時間だけが過ぎて、私では埒が明かない気がしてきた。


「ねえユリウス」


「はい」


「良かったらあなたもプリシラに相談しない?」


「?」


「ええ。何がわからないのかわからないという状態にグサグサと剣を刺してくれるわよ」


「剣」


「プリシラはまっすぐ本音で物事を伝えてくれるから。私、これでもプリシラのおかげでかなりすっきりとしたわ」


「スカーレット様は変わられました」


「そう?今の私にとって、その言葉は褒め言葉ね。嬉しい」


「・・・」


「あーもう!うじうじしててもなんにも進まないの。これは命令よ!私と一緒にプリシラとお茶をしなさい。これからしばらくはお茶の時間にベルの間にくること。わかった?」


「はい。命令とあらば」


「あと、会の調査もほぼ完了しているから夜会に顔を出すのもしばらく禁止ね」


「それは・・」


「あなたの妹が心配しているの」


「そうですか」


「じゃあまた明日ね」


そう言って立ち上がって部屋を出ようとすると、エスコートしようとユリウスも立ち上がるので


「しばらくエスコートは禁止するわ」


そう言うと


「エスコートも禁止ですか」


と下を向いた。


ユリウスってこんなにじめっとした人だったかしら?

禁止だと言ったんだから禁止なの。なぜ何度も繰り返し同じことを伝え直さなくてはいけないのかしら。


「今の私には必要ないから」


一度で伝わるようにきっぱりと口に出した。

それに対してもこれといった反応はなく、全ては明日からにしようと思い部屋を出る。


プリシラはまだ城にいるかしら。いないなら要件だけでも手紙で伝えておこう。私自身がいまだに手探りで進んでいるのに、ユリウスをどうにか引っ張れるわけがないものね。今日のことだって今すぐに相談したいけれど、


「あ。お兄様が帰ってくるのって今日だったかしら」


お兄様の部屋に行ってみようかと思った。でも踏み止まる。もしも久しぶりにプリシラに会えているなら、邪魔したくない。


なんでも自分が優先されるべきと思っていた以前より、頼りなくても今の自分のほうがなんだか少しかっこいい気がした。王女の割にヒロイン感が全くないけれど、と少し笑う。


読んでいただき感謝です。

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