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第2話 選別式

村が一望できる小高い丘。遠くにある山は紫がかり、まだ太陽が昇りきっていない。そんな早朝。


ヒリつくほど冷たい風。それが僕の髪を美しくはためかせ、反射した太陽の光でキラキラと煌めく。


その中で目を瞑り、僕は日頃のルーティンである瞑想をしていた。



もちろん!この行為にもしっかりとした目的があり、それは僕が勇者に相応し…


おっと、背後から足音がする、誰かが来たようだ。


大体の予想はつく、奴だろう…想像するだけで、昨日の殴られた頬がヒリヒリする。

いや、冷たい風のせいか?


「ちょっと、、、」


声を聞いて確信した!


やはり、奴は…


「村1番の恥ずかしがり屋メアリーではない

か!」


…と後ろを振り向き、女神すらも惚れさせる程の、この渾身の美顔で言い放った!


「誰がっ恥ずかしがり屋っ…!!、、、まあ良いわ」


おっと、いつもなら顔を真っ赤にして殴りかかって来るものだが、、、何やらメアリーがいつもよりおとなしい。


一応、殴られる事を想定し、話しかけた瞬間に華麗なバックステップで距離をとっていたんだが…とうとう僕の顔に見惚れてしまったのか?


まあ、僕に話しかけたからには、何か用があるのだろう、目的を聞いてみる事にしよう。


「それで、何か用か?」


すると、メアリーは少し気まずさを含んだ表情で喋り始めた。


「昨日は…殴ってしまってごめんなさい!」


僕はメアリーが言ったことが、理解出来ず思わず唖然とする。


何故なら、彼女と出会った時から、今日に至るまで、どんなに理不尽な理由で殴りかかられようと。


彼女からは謝罪が無かったからだ!!


僕は、メアリーから謝罪の言葉が出た喜びを噛み締めながら、今まで理不尽に殴られた僕に思いを馳せながら。


「許すわけないだろうがぁ!この赤毛ゴリラがッ!」


…と言いたい気持ちをグッと抑えながら、素直にこの謝罪を受け取る事にした。


「あの時は、僕もメアリーに暴言を言ってしま

ったし、お互い様だ。」


そうやって、本心を押し潰して、和解に応じた僕!これはもはや、精神すらも美しい!


すると、この言葉を聞いた途端、メアリーの表情がパッと明るくなる。


「そうよね、お互い様よね!」


と、独り言のように呟き。


すっかり、元の調子に戻ったのか、いつもの口調でメアリーが口を開く。


「それで、今日は選別式があるじゃない、どう

せだから、一緒に教会まで行かない?」


その提案に、断る理由も無かったため、誘いに応じる事にした。


「もちろん、この美しい僕が君を教会までエスコートしよう。

そして、僕が選別式で見事勇者になる様を見

届けると良い!」


僕の言葉にメアリーは、子供をからかうような口調で


「ふふっ口だけじゃないと良いけどね」


そう言うと楽しそうに笑った。



そんなやり取りの後、僕達は選別式を受けるべく、共に教会へ向かった。



_____


歩く道中で、メアリーと話をした。

その中で、ふと「彼女は何になりたいのだろう?」と思い、聞いてみた。


「え? 選別式で何になりたいか? 何よ、急にそんなこと聞いて?」


「ふっ、いつも僕の夢ばかり"話させられて"君の夢は聞いたことがない。と思ってね」


「話させられて って、、、いつも自分から勝手に喋ってるだけでしょ」


メアリーが呆れた顔でこちらを見てくる。


「まあ、普通の人に言ったら笑われるかもだけど、、、私よりも変なこと言ってるあんたなら、言ってもいいかも」


待て、僕の夢のいったい何処が変なんだ!

この村1番のイケメンかつ!この世界で1番勇者に相応しい男だぞ!?

これはもはや勇者以外に道がないだろ!


と心の中で叫ぶ。


「そうね、私の父と母はどちらも軍人で、職業は父が騎士で母が武闘家なの。だから私も剣術や体術の訓練をさせられたわ。」


「それに、都市であった剣術の大会にも優勝した。だから[お前も将来は軍に着け]って言われてるの。」


そう、言い終えると、メアリーは急に物憂げな表情になった。そして、言いにくそうに言う。


「、、、だけど私ね、実は軍人なんかじゃなくてプリーストや神官になりたいの」


「で、それの何処が変なんだ?誰も笑わないだろ?」


すると彼女は、驚いたように目を開ける。


「えっ、でもっ!実際、私はそう言う職業の方が向いてるしっ。それに、そんな職業につけるほどお淑やかでもない、、、」


メアリーが、苦しそうに顔を歪ませて、そう言う。


「ふむ? お淑やかじゃなければ、そのジョブにはなれないのか?そうじゃないなら別にいいじゃないかっ!

自分が成りたいと思ったのなら、それになれば良い!!」


「出来るのに諦めるのはそれこそ笑い話だ! 最も、、、勇者になるのは僕だから、これは諦めてもらうがな!」


僕がそう言うと、メアリーは虚をつかれたように目を丸くする。


そして、


「ふっ、、、ふふふっ あははははっ! 

やっぱり、自分のことを[勇者に相応しい!]なんて言うだけあるわ! なんか、悩んでたのが馬鹿みたい」


清々しい程にこやかにメアリーが笑った。


「待てっ!? 何故笑うんだ!今僕は結構いい事を言った気がするぞ! それこそ、本にできるくらいになっ!? 

そうだな、題して【勇者ライラの大名言集】だっ!!」


「あははっ! 名言集、、、? 大迷言集の間違いじゃない?」


「なんだと貴様っ!? やはり貴様は赤毛ゴリラだなっ!森に住む珍獣こどきに僕のすごさが分かる訳無いか。貴様は一生、緑の恐竜とでも遊んでいろ!」


「あ"っ??」


、、、おや? 不味い。

メアリーの雰囲気がガラリと変わった。というか、怒りとかの次元を超えて、覇気のようなオーラのような、そんなものが揺らめいている。


「まっ待ちたまえっ! 赤毛ゴリラは確かに良くなかったな。すまん! 

そっそうだ、赤色トマトなんてどうだろう? ほっほら食欲が湧いてきt


次の瞬間、僕の腹には握りこぶしがめり込み、内蔵を揺らした。


「ガバッッ!!」


身体中に衝撃が走り、耐えられずに地面にうずくまる。あっ不味い、朝食のトマトが出てき、う"ぅうっ


「はぁ、なんで貴方はいっつも煽ってくるのかしら?煽りも意味わからないし、、、」


暴力女が何か言っているが、もはや意識を向ける余裕がない。


「、、、まあ、でも、ありがとう。なんか貴方のせいで逆に気が楽になったわ。」


独り言のようにメアリーが呟く。

しかし、痛みと吐き気で意識が朦朧とする僕の耳には、その声は届かなかった。


あっトマトが口に、


「ヴゥオォッッ!!」

_____________

_____

___



17歳になると、1人にひとつ神から"職業"が与えられる。


そして選別式というのは、その人間が何のジョブを与えられたのかを調べるための式だ。

 だからこそ、この式によってその人の将来に就く仕事も変わってくる。


 

けど、それと同時に、もう1つの意味もある。


それは、僕がなる"勇者"や、神官として最高職の"聖女"や"聖人".等といった強力なジョブの人間を選別する。というものである。



つまり、この式により将来が決まる。全ての人にとって大切な式なのである。




「・・・であるからして、神の導きが皆さんに届くのです。だからこそ、更なる邁進を・・・」


初老の神父が、話す説法はまるで子守り歌のようで、周りを見渡すと、僕らと同じくらいの歳の人達も、うつら、うつら、と眠そうに船を漕いでいる。

最も、僕にはこの程度の精神攻撃は効かないがね!


「だから、今のうちに瞑想をして気を整e」


言い訳のように言葉を並べ、僕の視界が暗闇に包まれる瞬間。


「ぃだっ!?」


太ももに痛みを感じ、意識が向く。そこには、隣に居る赤毛ゴリっ。いや、メアリーの手があった。


「ほら、もう始まるから起きなさい。」


くっ、わざわざ抓らなくても良くないだろうか?そう思いながら、前を向くと。


「・・・これで、私の話を終わります。それでは皆様。これより、選別式を執り行います。」


神父がついに話を終え、選別式の開始を告げた。眠気は、とうに吹き飛んだ。


ドキリと、胸が高鳴る。


始まるのだ!僕の、


この僕、勇者ハンサム・ライラの覇道が!












 そして、僕の覇道は、

   始まる前に終わりを告げた。

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