第1話 ナルシスト
ある村に…ありえなくらいナルシストの青年が居た。
「ハァ…テヤァ…イヤァ!!!」
今美しい声を上げながら、剣の特訓に勤しんでいるのは、この僕ハンサム・ライラ
名前のカッコ良さから、勘づいた…いや必然的に気づくと思うが!!
僕はこの村1番のイケメンであり、この世界で1番勇者に相応しい男だ!
この村で同世代の子達は、みんな恥ずかしがり屋で、僕以外の子は皆名で呼び合うが、僕だけ性で呼ばれるんだ。
まあ、僕のオーラの前では、恐れ多くて名では呼べないのだろう。
にしても、今日は剣の特訓が捗るな。
それでも、明日は選別式だからな、気は抜けない。
もう十分だと思うが、更に勇者に相応しい男になる為には、あと10000回は素振りをしなければな!
それにしても、素振りする度に、剣に反射した自分の顔に見とれてしまうのはどうにかしたいものだが…
おっと、誰か来たようだ。
きっと僕の特訓している姿に見とれてしまったのだろう。
気の毒に!僕は完璧すぎるから、僕に相応しい人間など僕くらいだ!
故に、僕と付き合える人間は誰一人いない!
「ちょっと」
見るだけでなく、話しかけてくるとは!?
大体の奴らは、僕のオーラに怯んで話しかけて来ないが…良いだろう!
その勇気を認めて、話だけでも聞いてやろう!
「何か用かい?…おっと君は!」
彼女には見覚えがある、赤く艶のある髪に、緑色の宝石の様に輝く瞳!
僕には遠く及ばないが、僕の次くらいには容姿がいい。
そして…
「村一番の恥ずかしがり屋のメアリーでは無い
か!」
「誰が、恥ずかしがり屋だよ!この変態野
郎!」
「誰が変態だッッ…」
ゴンッ!!という音と共に僕は宙に浮いた。
そして、地面に叩きつけられた。
衝撃で上手く頭が回らなかったが、段々と状況を理解し始めた。
今!僕は!こいつに!殴られたのだ!顔を!!
良くもこいつ僕の顔を殴りやがったな!!
よりによって僕の顔を!この美しい顔を!!
いや、落ち着け。
ここで、怒りに負け殴りかかってしまえば、僕の中の美に反する、ここは一旦落ち着くんだハンサム・ライラ
そうして、僕は冷静さを取り戻しながら、彼女に疑問を投げかける。
「それで僕の何処に、変態と言われる要素があ
るんだ!」
「その格好の事を言ってんのよ!この変質
者!」
格好…?至って普通の格好だろう!
トーレニングで汗を書くから薄着で、更に僕の肉体美を魅せるために最適の服で、しかも見た目も悪くない!
「この服の何処が変だと言うのだ!」
「上半身裸で、下半身白タイツで剣を振りなが
ら声を荒らげてる奴の何処が変態じゃないの
よ!」
なぁっ!?今僕はこいつに全てを批判された気がする!
だが、落ち着け…暴力は僕の美に反する。
だが!ここでやり返さないのも、僕の美プライドに反する!!
故に、スマートに言い返す。
「本当の美しさを知らない小娘が、何をほざく
か!」
「この服は美しく、そして僕の肉体美も魅せ、
そして実用性にも優れている!」
「正に完璧な服と言えるだろう!」
…と冷静に、私はこの服の魅力を伝えた。
彼女はやっと、この服の素晴らしさに気づいたのか、少し呆気に取られていた。
すると、彼女は少し間を置いて、再び口を開いた。
「貴方には、もう少し強く言わないと分からな
いみたいね…」
「なに…?」
「貴方この村で、なんてあだ名付けられてるか
知ってる?」
あだ名だと?まあ、僕の美しくさからすれば、あだ名の1つ2つくらいは、付けられていてもおかしくは無いな。
いや少ない!!100くらいは無ければ、僕の美しさは表しきれない!
僕は、どんな素晴らしいあだ名が付けられているか、期待を胸に込めて聞く
「何だ、言ってみろ?」
「それはね…オ・厶・ツ・マ・ンよ!!」
「何だそのあだ名は!?ふざけるなよ!!」
僕はふざけたあだ名のせいで、怒りに震えている。
期待していた、僕が馬鹿だった!
どうせ、村の人には本当の美しさ分かるわけなかったんだ!
美しさも分からぬ奴らに、もはや哀れみすら抱いてしまうわ!
こうして、冷静さを欠いた僕を、嘲笑いながら彼女はこう言い放った。
「白いタイツが汗で濡れて…漏らしたように見えて、しかもめちゃくちゃ叫んでる様が…赤ちゃんが泣いてるように…聞こえるからそう言われてるそうよ」
所々笑いを堪えながら、彼女はそう言ってきた。
僕は、既に怒りで理性を失いそうだったが、彼女はそんな事を気にも止めずに、立て続けに文句を言い放ってくる
「まあ、そんなあだ名付けられてもしょうがな
いわよね、だって本当に赤ちゃんみたいな服
のセンスしてるし!」
「いや…赤ちゃんの方がまだマシなセンスしてるわよ!勇者になるなんて豪語してるけど、やっている事は剣の素振りだけ!」
「正にバカの一つ覚えだわ!」
僕は気づけば、この失礼な女に殴りかかっていた
「この赤毛ゴリラめ!貴様に何がわかるという
のだ!」
「なんですって…?」
後々、冷静になって考えてみれば、この時した行動は本当に馬鹿げたことをしたと思う。
美しさを感じられない言葉遣いに、人に暴力を振るうという行為、それに、この時の僕はイケメンとは到底言えない顔をしていただろう。
何より、メアリーは村で1番喧嘩が強いのだ。
僕がメアリーに対して、拳を振り上げた時には、既に気絶させられていた。
意識が暗闇に沈みゆく中、僕は大事な事を思い出したのだ。
そう!メアリーは恥ずかしいがり屋!
僕に対して、メアリーは全く正直な事が言えないのだ。
そうだ、きっとそうに違いない!
何故なら、剣の特訓をしている時に毎回メアリーが会いに来るからだ!
これは、好きという事を行動で表しているのではないか?
恥ずかしがり屋め!本当の思いを伝えられずに今頃モヤモヤしている所だろう!
…とはいえ、会う度に毎回殴られるのはいい迷惑だが。
てか、これは恥ずかしがり屋ではなく、ただの暴力女ではないか?
それに、僕は好かれているのではなく、丁度いいサンドバックにされているだけじゃないか!?
そんな疑問もあったが、僕は自分の考えは絶対に正しいという自負がある為、すぐにその疑問は馬鹿げた考えだと結論づけた。
それと…もうあの服装はやめよう
そう固く決心したあと、僕の意識は途絶えた。