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6.盗賊たち

 ■  ␣  ■  


 旅人三人がある屋敷に向かったのと同時刻。


「かしらぁ、本当に行くんですかい?」

「行くに決まってるだろ。このままじゃあ騎士どもに捕まっちまう。そうなりゃどんな目に遭うかわかりゃしねぇ」


 十数人の粗野な男たちの集団が森の中を進んでいた。

 集団の先頭を堂々と歩くのは、頬に傷のある禿頭の大男。


「この先に捨てられた屋敷があるはずだ。不気味だっつって誰も近寄らねぇ。そこで待ち伏せて罠を張って騎士どもを一網打尽にすりゃいいんだ」

「で、でもおかしら。その屋敷って……最近化け物が棲みついたって噂ですよォ?」

「バッカ野郎、それがどうした。この辺には悪魔はいねぇ。そうなりゃ精々が獣程度、そんくらいなら飼いならして騎士どもにけしかけてやりゃいいんだよ」

「なるほどぉ! おかしらあったまいい!!」


 森の中を僅かに震えながらも、頼りになる首領を信じてついて行く盗賊たち。

 日も沈み暗い中で、彼らは月明かりだけを頼りに森を進む。

 そしてついに彼らは森の中にぽつんと、されど堂々と鎮座する反転した屋敷のもとに辿り着いた。


「……これは、最高じゃねぇか」

「かしら?」


 屋敷を見て、首領は感嘆を漏らす。

 その屋敷の窓ガラスは全て割れて、バルコニーも手すりが壊れ見るからにボロボロなっていた。だがそれでも原形をとどめた逆さまの屋敷は、仰々しく不気味であり、屋敷内には月明りが差し込まずに全くの暗闇で内部の様子は一切外から見えなかった。


 絶好の隠れ家として首領はほくそ笑むも、部下たちは屋敷の不気味さに慄いていた。


「ほ、本当に行くんですか?」

「たりめぇだ。見た感じ、獣もいねえな」

「確かに生き物の気配はしませんが……あっ!!」


 ひっくり返った屋敷への入り口を探す首領に、一人の部下が声を上げる。


「か、かかかか、かしららら」

「ああ? んだよ、急げ。騎士が来る前に罠を設置し終えないと――」


 首領の肩をばんばん叩く部下。


「あそこあそこあそこ!!!」

「イッテェな」


 首領は、苛立ちながら振り返る。

 肩を叩いた部下はただ一点を指さしていた。


「あ、あそこあそこ! あそこにぼーっとした光が!」


 部下が指さす方向を見るも、あるのはただの小窓だけ。


「ああ? ……なにもねぇじゃねぇか」

「いや確かにあったんですよ! お前らも見たよな!?」


 部下の一人は仲間を振り返るが、全員首を横に振る。

 首領は騒いだ部下の頭を拳骨で強く殴りつけた。


「馬鹿なこと言ってねぇで早く入るぞ」

「……へい」


 殴られた部下は、顔を青くして体を震わせながらも、続々と屋敷の中に入っていく仲間たちの後を追う。


「いやだなぁ、怖いなぁ、怖いなぁ」


 彼は体を抱きしめながらつぶやいた。




 ■  ␣  ■




 屋敷に入った盗賊たちは、逆さまの屋敷を見上げて息を吐く。


「本当に逆さまっすね……方向感覚わからなくなりそうっす」

「いちおう気ぃ付けろよ。壊れやすくなってるかもしれねぇからな。早いとこ罠作って騎士を迎え撃つぞ」


 首領の指示に従い、部下たちは各自で罠を設置していく。

 ロープを使ってシャンデリアを浮かし、いつでも落とせるようにしたり、床となった天井部分が平行でないことを利用して油を撒いたりと手慣れた様子でこなしていく。


「この部屋はこの辺りで良さそうだな。それじゃあ次に――」


 一頻り罠を設置し終えたところで――


『だ……だれか……だれかぁ』


 ……なにか音がした。


「? 誰か今何か言ったか?」

「何も言ってませんよ?」


 何か聞こえた気がした首領だったが、部下たちがだれも聞こえていないということで気のせいだとし、再び別の部屋へと足を運ぶ。


 寸前で――


「何もないならいい。それじゃあ、次の部屋……に……」

「かしら?」


 ……男は見た。


「あ、あああ、あありゃなんだ?」


 男の正面。

 そこに、全身はぐったりとしていて力なくゆらゆらと立ち上がる人影がいた。

 漆黒の乱れ髪を振り乱し、髪の隙間から覗く血走ったかのようにらんらんと光るその赤い瞳は、まっすぐに男たちを見つめていた。


『だれ……そこにいるのは……だれえええ!!!』


 狂ったように叫ぶ人影に、


「ああああああ!!! でたあああああ!!!」

「おばけだああああ!!!」

「に、にににげろろおおおお!!!」


 盗賊たちは一目散に逃げだした。

 部屋を出るはずだった男たちは踵を返し、自らが仕掛けたはずの罠に引っかかっていく。


「あ、油ですべっ――!!」

「横から家具が落ちて……クソッ!」


 中でも、最悪の罠が盗賊たちを襲う。


「まずい、シャンデリアには気をつけろ! 落ちたら間違いなくひとたまりもな――」


 首領が叫ぶも一足遅かった。


「あ、何か引っかかって――」


 部下の一人がシャンデリアを釣り上げていたロープに足を引っかける。

 途端に彼らの頭上にシャンデリアが落ちる。


「う、うわああああああ!?!?!?」

「かしら、かしらあああああ!!!」

「助けてーーー!!」


 下にいる人間たちも逃げようとするもシャンデリアが大きく、また足場も悪いために逃げられない。


「――ッ」


 最悪の光景を想像した首領はとっさに目をそらす。

 ――しかし、シャンデリアが落ちる最悪の音は、いくら待っても聞こえてこなかった。

 代わりに――


『たくさんいい材料がやってきたねぇ。どうやって遊ぼうか?』


 この状況を楽しむ場違いに明るい声がした。


「だ、誰だ!」


 目を開けた首領が目にしたのは、


「な、なんだ!?」


 部下たちの頭上で宙に浮いたシャンデリア。

 死ぬかと思われた部下たちも、ようやく助かったことに気づき、涙を流しながら首領に縋りつく。


「か、かしらああああ!!」

「死ぬかと思いましたああ!!」

「ありがとうございますう!!」

「あ、ああ。……よかったな、お前ら」


 部下たちに縋られながらも、男は隙なく周囲をうかがう。

 気づけば、さっき見かけた乱れ髪の幽霊はいない。

 だがしかし、


『活きがいいねぇ? 楽しいねぇ?』


 再び聞こえる何者かの声。


「だ、誰だ!?」


 警戒する盗賊たちの前にいくつもの人形が姿を現した。

 それは、ひどく不気味に見える形に口をくりぬかれたいくつものかぼちゃ頭の人形だった。

 服を着せられ、笑った口と目をした人形たちはけたけた笑いながら、男たちの周囲を囲う。

 また、現れたのは人形だけではなかった。


「かしら! ほ、ほうきが!?」

「壺とかガラスとかまで浮いてますよ!?」

「ぽ、ポルターガイストだあ!?」


 不可思議な現象の前に再び慌てふためく盗賊たち。

 がくがく震える彼らのもとに、人形たちの主がやってきた。


『ふふふふっ、あんたたちはいったい何に使えるかしら?』


 声の主は、尖がり帽子に杖を持った白髪の女。


「ま……魔女だあああ!!?!?!?」

「逃げろ!! 食われるぞおお!」

「なんだこの屋敷は!! 呪われてるのか!?」


 再び盗賊たちは一目散に逃げだした。

 一度でも振り向けば殺されると。

 少しでも逃げ遅れれば殺されると。

 さかさまの歩きにくい屋敷であってもいつにない速度で彼らは駆け抜ける。

 やがて彼らはどことも知れない真っ暗な部屋にたどり着き、膝に手を当て荒い息を吐く。


「はあ、はあ……」

「どうだ、撒いたか!?」

「……大丈夫です、連中追ってきてません!!」


 部下の一人からの報告を聞き、首領は一つ深い息を吐く。


「どうやら、ここは魔女に呪われた屋敷らしいな。だが、これは使えるぞ」

「かしら?」

「ここにいりゃあ、罠なんて仕掛けなくても騎士どもの相手をしてくれる奴がいる。そしたら、朝になったらここを発てば万事解決だ」


 普段は頼りになるリーダーだったが、この判断にばかりは部下たちも不安を抱える。


「そんなにうまくいきますかね? 魔女に見つかるかもしれませんし、幽霊から隠れるなんてできるのか……」

「それに、まだ何かいるかもしれませんよ? そうなったら、一巻の終わりです!」


 まくしたてる部下たち。

 しかし、首領は心配はいらないとばかりに部下の一人の肩に手を置き、まっすぐ目を見て力強く言った。


「大丈夫だ! 安心しろ! それに今ここを出たところで魔物に会ったらまず間違いなくだれか死ぬ! 俺はお前たちの命をしょってんだ! 誰一人死なせねぇ!」

「か、かしらあ!!」


 首領の言葉に、部下たちは涙ぐみ、恐れも忘れて抱き着いた。

 首領は照れ笑いながらも、早く次の行動に移ろうとする。


「ほら、生きるためには即行動だ。俺を泣かせるんじゃねぇぞ?」

「ハイッ! かしら!」

「いくぜ、野郎ども!」


 士気が上がり、ほんのわずかにしか月明りが差し込まない真っ暗な屋敷の中で、盗賊たちは雄叫びをあげた。



 ――それがいけなかった。



『うるせぇなぁ』

『グルルルゥ』

「「「―――ッッ!?!?」」」


 どこからともなく声が聞こえた。

 身の毛もよだち、一気に周囲の温度が冷え込んだかと錯覚するほどの冷たく怒りに満ちた声。

 声を皮切りに、部屋の中、ところどころでチカチカと赤い光が迸る。

 その光は、強い熱を持っていた。


「か、かしら……何かいますっ」

「しっ……静かに」


 右から。

 左から。

 上、右上、後ろ、左上。

 全周囲から赤い炎が時折現れ、その瞬間、炎に照らされ露になる巨大なナニか。


【ぞろぞろぞろぞろと……大勢で押しかけてきやがって。生きて帰れると思ってんのか?】

【ガルゥ】

「ヒィッ……」


 一瞬見えたのは、ねじれ曲がった禍々しい角と縦に裂けた金色の瞳。

 怯え、一か所に身を寄せ合って固まる盗賊たちの前に、何かが落ちる。

 どしんと、屋敷全体を震わし軋ませるほどの重量と腹に響く音。


 盗賊たちの前に現れたのは――


【さあ、命知らずの愚か者。精々かかってくるがいい】

【グアアアア!!!】


 牙をむき出しに唸り、火花交じりの咆哮を上げる身の丈をはるかに超える竜。

 そしてその竜の上に、堂々と鎮座する竜面の男。


「ギャアアアアアア!!」

「ま、魔王だあああ!!!」

「アアアアアアア!?!?! ――あっ」


 あまりの威圧感に、盗賊たちは失神し、寄り添うように白目をむいて倒れこむ。

 一転して静かになった部屋で。


「……なんだったんだ? こいつら」

「グルゥ」


 竜と竜面の男はそろって首をかしげた。


べ「魔法使いといえばかぼちゃよね! あんたも好きでしょ?」

ウ「灰かぶりの姫様じゃないんだから、関係ないだろ」

べ「女の子はお姫様扱いされたいものよ。女心がわからないやつね」

ウ「俺の姫はマリナだけだ」

べ「確かにあたしもそうね」

マ「……なにが確かに?」

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