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39.始まりは不良から

 



 わたしは一人でまたライナーの研究所に訪れていた。

 懲りないと思われるかもしれないけど、ウィルの頼みならわたしは断らない。

 ただ、ここに来るたびにかぼちゃ人形が減ってウィルの首を絞める……胃を痛めることになるけど、大丈夫かな?


「また来たんですか。自殺願望があるようには見えませんでしたがね」


 研究室に入った途端に、わたしに気づいたライナーが銃を向けてきた。

 すぐさま彼は発砲する。

 だけど盾を持ったかぼちゃ人形がわたしの前に出て、銃弾をすべて弾いた。


「……前とは違いますね。わざわざ対策してきたんですか? 暇ですね」

「必要なことだったから」


 ライナーは銃を下げ、わたしを怪しんだ。


「この研究室に一体何の用ですか? ここにあなたが必要とするような研究はありませんが」

「わたしは別にこの結社の技術には興味ない……あるのはあなただけ。ライナー・ネーヴェニクス。アリータのお兄さん」


 アリータの名前を出すと、彼の眉がピクリと動いた。

 再び銃を構え、目を険しくした。


「僕に妹なんていませんよ。アリータ? そんな女は知りません」


 彼はしらを切った。

 もはや家族の縁などないということなのか、それとも元からないということか。


「でも同じネーヴェニクス……関係ないということはないでしょう?」

「愚問ですね。貴族に親類縁者などいくらでもいます。養子にでもなれば姓など簡単に名乗れます。そんなことも知らないで僕の妹を名乗られては不快極まります」


 再び銃を数発撃つ。

 しかし、またかぼちゃの持つ盾で防がれる。

 ライナーは舌打ちした。


「面倒ですね」

「わたしはただ話が聞きたいだけ……それさえ済めば、もうここには来ない」

「極秘とはいえ、僕もこの結社に籍を置く者です。そう易々と技術情報を――」

「違う」


 ライナーの言葉を遮った。

 わたしは盾の隙間から、ライナーを指さした。


「わたしが知りたいのは錬金術じゃない……あなた自身の過去について。あなたと、その友達について」


 ライナーはわたしを睨んだまま制止した。

 引き金に掛けた指が何度か動こうとするも、結局引くことはなく、彼は銃を降ろした。

 深い深いため息を吐く。


「……いいでしょう。そう何度もここに来られては迷惑です。駄賃代わりのくだらない話だけで厄介な侵入者が消えてくれるなら儲けものです」


 ライナーは銃を傍にあった机に置き、椅子に座った。

 もう一度、深いため息を吐いてわたしを睨みながら話し出す。


「僕に友達なんていません。いた時期があったとすれば、あのときでしょうね」




 わたしはまたライナーの研究所に訪れていた。

 懲りないと思われるかもしれないけど、ウィルの頼みならわたしは断らない。

 ただ、ここに来るたびにかぼちゃ人形が減ってウィルの首を絞める……胃を閉めることになるけど、大丈夫かな?


「また来たんですか。自殺願望があるようには見えませんでしたがね」


 研究室に入った途端に、わたしに気づいたライナーが銃を向けてきた。

 すぐさま彼は発砲する。

 そして盾を持ったかぼちゃ人形がわたしの前に出て、銃弾をすべて弾いた。


「……前とは違いますね。わざわざ対策してきたんですか? 暇ですね」

「必要なことだったから」


 ライナーは銃を下げ、わたしを怪しんだ。


「この研究室に一体何の用ですか? ここにあなた方が必要とするような研究はありませんが」

「わたしは別にこの結社の技術には興味ない……あるのはあなただけ。ライナー・ネーヴェニクス。アリータのお兄さん」


 アリータの名前を出すと、彼の眉がピクリと動いた。

 再び銃を構え、目を険しくした。


「僕に妹なんていませんよ。アリータ? そんな女は知りません」


 彼はしらを切った。

 いや、しらを切ったのではなく、もはや家族の縁などないということなのか。


「でも同じネーヴェニクス……関係ないということはないでしょう?」

「愚問ですね。貴族に親類縁者などいくらでもいます。養子にでもなれば姓など簡単に名乗れます。そんなことも知らないで僕の妹を名乗られては不快極まります」


 再び銃を数発撃つ。

 しかし、またかぼちゃの持つ盾で防がれる。

 ライナーは舌打ちした。


「面倒ですね」

「わたしはただ話が聞きたいだけ……それさえ済めば、もうここには来ない」

「極秘とはいえ、僕もこの結社に籍を置く者です。そう易々とここの情報を――」

「違う」


 ライナーの言葉を遮った。

 わたしは盾の隙間から、ライナーを指さした。


「わたしが知りたいのは錬金術じゃない……あなた自身の過去について。あなたと、その友達について」


 ライナーはわたしを睨んだまま制止した。

 引き金に掛けた指が何度か動こうとするも、結局引くことはなく、彼は銃を降ろした。

 深い深いため息を吐く。


「……いいでしょう。そう何度もここに来られては迷惑です。駄賃代わりのくだらない話だけで厄介な侵入者が消えてくれるなら儲けものです」


 ライナーは銃を傍にあった机に置き、椅子に座った。

 もう一度、深いため息を吐いてわたしを睨みながら話し出す。


「僕に友達なんていません。いた時期があったとすれば、あのときでしょうね」



 ♠  ♁  ♠ 




 ヴェルナー・シュトゥルム。

 最凶の錬金術師。

 彼は元はただの孤児だった。

 両親の顔も知らない。ただかつて悪魔との戦いに敗れその命を勇敢に戦場で散らしたとだけ聞かされていた。

 当時の彼には理解できなかったし、理解できるようになった今でも興味はなかった。

 そんな彼でも、きっと実の両親には愛されていたのだろう。

 彼は預けられた孤児院では、最も優秀だった。

 文字の読み書きも算術も呑み込みが早く、人に教えるのもうまかった。

 ただ一つ欠点があるとするならば。


「うるっせぇなぁ! 馬鹿貴族がよォ!!」


 誰よりも喧嘩っ早く、一言でも侮辱されれば、相手が貴族だろうが誰彼かまわず暴力を振るった。

 彼は常に、暴力のはけ口を探していたのだ。

 だが彼も見境がなかったわけではない。孤児院の仲間に手を出すことは基本的になかった。

 荒れているように見えて確かに安定していたヴェルナーの日常に、あるとき急に変化が訪れた。


「これがこの孤児院で最も優秀な子か?」


 彼のいた孤児院にある貴族が訪れた。


「ええ、この子は凄いんですよ。誰よりも読み書きと算術を早く覚えて、私たち大人が顔負けするくらい強いんです」


 孤児院の院長が誇らしげにヴェルナーを貴族に自慢していた。

 だが貴族の方は、たいして興味がなさそうに鼻を鳴らした。


「ならこの子供を養子として連れていく。書類は準備したのか」

「既に奥様からいただいております」

「ならよい。ヴェルナーといったか。君は今日から俺たちの子供だ」


 こうして、ヴェルナーに家族ができた。

 血のつながりも何もない、家族という名の関係が。

 ヴェルナーを引き取った両親は彼に貴族として必要な教育を施した。

 テーブルマナー、ダンス、話術、政治、経営学、そして錬金術。

 ヴェルナーは天才だったが、秀才ではない。

 貴族のマナーや話術なんて孤児院で荒れた生活を送っていた彼には縁がなかったし、必要だと感じたことは一度もなかった。

 政治も経済も、ただ権力と金を持った連中の自慢のための道具にしか思えなかったのだ。

 でも屋敷の中で一つだけ、彼ができることがあった。


「錬金術は使えんな。ぶっ壊すにはいいもんだ」


 彼は錬金術を積極的に学ぶことにした。

 生きることに直接結びつく錬金術を学び、誰からも怯える必要のないほどの力を手に入れる。

 ヴェルナーは貴族の充実した環境を活かし、自らを鍛え、考え、実践した。

 彼はやがてベネラクス錬金大学校の門を叩き、軍術学部に入った。

 優秀な彼は、大学でも確実にその頭角を表していった。

 だが――


「お前がウェインリィ家の養子か? こんな野良犬をこの学校に入れるなど、ウェインリィ家は何を考えている?」


 周囲に貴族しかいない環境では、彼は異端者だった。

 当時は今以上に庶民と貴族間の溝は深く、子種に恵まれなかったと噂が流れていたウェインリィ家の子が入学したとして彼は注目されていた。


「ンだてめぇ? なんかオレに用かよ」


 貴族が嫌いなヴェルナーはぞんざいに彼らに接した。

 それが気に入らなかった貴族たちは、彼を執拗に付きまとった。


「口の利き方から教えてやろう。軍に入る者として、今から教育を施してやる」


 下手な貴族よりも優秀な元孤児。

 うとましく思われるのは当然だ。ヴェルナー自身そう理解していたし、自分も貴族が疎ましかった。

 だから、手を出してくるとなれば好都合だった。

 彼はやってきた人間すべてを返り討ちにした。

 学んでいた武術と錬金術の合わせ技を彼らで実践したのだ。


「へっ、ありがとよ先輩? おかげでいい勉強になったぜ」


 歪んでいても、彼は彼なりに今の環境に順応し、自らの才覚を的確に伸ばしていった。

 その後も同級生果ては先輩貴族、または外部の人間すら招き入れて彼の元に仕返しにくる人間は後を絶たなかった。

 やがて辟易したヴェルナーは、自分の居場所を教室から人気のない外れの校舎の倉庫に移した。


「ここなら静かで頑丈でいいな。貴族のしきたりもねぇ、自堕落な生活を送れんぜ」


 人目を気にせず、彼は自分のすべきことに没頭する。

 錬金術を学ぶこと。もっと強くなることを。

 そしてもう一つ。

 自分を拾ってくれたウェインリィ家に恩返しをすること。


「……飯だってただじゃねぇしな」


 ヴェルナーは元孤児だ。

 食事も寝床のありがたみも知っている。貴族は気に入らないが、自分を拾って生活を与えてくれたウェインリィ家には孤児院と同じくらいに感謝している。

 だからこそ、彼は素直に学校に通い、学んでいるのだ。

 そうして、彼が孤独に邁進している時。

 彼はついに出会った。


「ここなら人目も気にせず実験できそうだ。おっと、先に野獣が棲みついていましたか」


 突如自分の住処に入ってきたのは、金髪で口の悪いお坊ちゃん。

 ヴェルナーが最初に抱いた印象はそれだった。

 それが彼――ライナー・ネーヴェニクスとの出会いだった。






ウィル「思ったけど、この中で友達いないのベルだけだよな」

ベル 「あにぃ? あんたよりは多いわよ」

マリナ「何人くらい?」

ベル 「……」

ウィル「あれ? アリータは友達じゃ」

ベル 「負けたー!」

マリナ「そんなにアリータ嫌なの……?」

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