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36.会議の時間

 

 ♠  ♁  ♠



 結社に行ったベル、マリナの二人が帰ってきた日の晩。

 三人で夕食を囲いながら話し合っていた。


「それで、収穫はあったのか?」

「まあまあね。この国の錬金術のレベルも知れたし」

「わたしも目的の人に会えたよ」

「そうですか、それでは報告を聞こうじゃありませんの」


 その通り、報告を――ん?


「おい、一人邪魔者がいるぞ。放り出せ」

「そうね、ネズミに遠慮は無用よ」

「邪魔するなら……完膚なきまでに」

「ちょーちょーちょーちょーちょー!!」


 俺たち三人から逃げるように距離を取ったのは、アリータこと無駄肉チューターだ。

 いつもいつもいつの間にか家にいるこの無駄肉は、三人に睨まれると途端に涙目になって壁際に逃げていった。

 今は夕飯時。

 報告もかねてご飯にしようと思ったのに、ご丁寧にマイ箸とお椀を持参して参加しやがるもんだから、まともに話ができないじゃないか。


 そもそもだ。


「この家、来れないようにしたよな?」

「そのはずなんだけど……」


 ベルですら、口をすぼめてあご下に梅干を作って悩みだした。

 俺より魔法に詳しい彼女が作った魔法がそうそう破られるとは思えない。ましてや俺も手伝っているから、あの魔法の効果も確認済みだ。


「どうやって入ってきたの?」

「どうって、ウィルベルさんと一緒に入ってきただけですけれど」

「え?」


 ベルが目を丸くした。

 彼女に一緒に帰ってきたって意識はないらしい。

 おそらくだが、この家を探しに来た(・・・・・・・・・)のではなく、ベルを目的にしていたから、この家の幻術が利かなかったのだろう。

 近くにいる人間全員に幻術をかけてたら、お隣さんが家に帰れなくなるからな。

 だからこんなややこしい設定にしたが、まさかベルが尾行に気づかないとは思わなかった。


「本格的にストーカーじみて来たな」

「それもかなり気配を殺すのが上手い……ある意味天才かも」

「とっとと捕まってしまえ」


 マリナは素直に感心しているが、正直キモイ。

 それに、彼女がいてはこれから俺たちがしようとしていることについて話せない。


「飯が食いたいだけならタッパーやるからつめて(・・・)帰れ」

「そんなつめたい(・・・)こと言わないでくださいまし。一人で食べるのはとてもつまらない(・・・・・)んですから」

「なんか……妙にひっかけてくるね」


 アリータが妙にダジャレともとれないような言葉選びをしてきやがる。

 下手だし、相手をする気にもならないが、とにかくこいつをつまみ(・・・)出さなければ。


「よし、ベル。つまみ出せ」

「あいよー!」


 ベルは元気に返事すると、手に持っていた何かを机の上にドンと置いた。

 それは――


「はいこれ! 野菜スティック! 好きにつまんで?」

「わーい、やったー……じゃねぇよ! こいつを追い出せっつったんだよ! つまみ(・・・)を出せなんて言ってねぇよ!」

「えぇ!? せっかく作ったのに!?」

「ならわたくしが食べますわ!」

「てめぇはとっとと帰れっつってんだよ! これは俺が食うんだよ!」


 だれか、この馬鹿たちをなんとかしてくれ。

 やることたくさん残ってるのにもう頭が痛いよ。


「面白い……お腹痛くなってきた」


 おっと、マリナが笑うなら許そう。

 俺も腹を痛めるほど笑わなければ。




 ♦  ☉  ♦




 なんとかアリータを家に帰し、静かになった家で三人で話し合う。


「んで、さっきも言ったけど、あたしたちは《美しき希望(カルミア)》に行ってきたよ。日用品とか建材とか武器とか幅広くやってて、全部が第一線で張り合えるほどの超大手みたい」

「そりゃすごい。さすがは公爵と王族が組んでるだけのことはあるな」

「設備も土地もすごかった……ただ、人は少なかった気がするよ」


 マリナがあたしの説明に補足した。

 確かに違和感はある。あれだけ大きいとはいえ、人にほとんど出くわさないなんて。

 まあでも、その辺も実は公爵に案内されてるときに聞いてみた。


「どうやら《美しき希望(カルミア)》は大手ってことで、道具だけじゃなく名前も売り物にしてるみたいね。他の小さな結社たちに技術顧問って感じで人を派遣することもしてるみたい。だから、土地の割にそんなに人が多くないんだってさ」

「へぇ、なるほどね。土地経営に錬金術、そんでもって人材派遣でコネと金作りか。その公爵はなかなかにやり手だな」

「ケチンボにはない才能ね」

「ゼニゲバにもねぇ才能だ」


 仮面を外したウィルの言う通り、確かにあの公爵様は敏腕みたい。

 初期投資として結社に公爵の強みの財力を投入して大きくして、それをもとに王族に取り入って王族御用達のブランドを持つ。

 さらにそのブランドを活かして人材派遣と商売発展。

 どんどんお金が入ってくる好循環を作ってみせた。


「これ、あんたの国でも使えるんじゃない?」


 ウィルの旅の目的の一つでもある自国の発展に、あの公爵のやり方は行かせるんじゃないかしら。


「いやだね。こんな国に見習うところなんか何もない」


 ウィルはにべもなく切り捨てた。


「どうして? あんたの国には錬金術ないんでしょ? この国は錬金術を発展させようとしてるんだから、使えないなんてことないでしょ?」

「確かにこれが普通の国なら使えたかもしれないが、俺の国では使えない」


 ひどく退屈そうに、ウィルは野菜スティックをいじりだした。

 それ以上説明する気はないみたいで、口をつぐんだ。

 ……ほほーん、これはウィルも何か掴んだね?


「あんた、今日は何してたの?」

「学校でレヴィから面白いことが聞けたよ。いろいろ手も回しおわったし、明日からは俺も動く。ベルも手伝ってくれ」


 さっきよりもよっぽど楽しそうに、ウィルは不敵に笑った。

 まったく悪い顔ったらないわね。


「わたしは?」

「マリナは今日と同じだ。もうちょっと話を引き出してくれ」

「うん、わかった……一人で頑張ってみるね」


 マリナが胸の前でぎゅっと拳を握った。

 うーん、もう、かあいいねぇ。


「あたしもマリナと一緒に行きたーい」

「よし、じゃあ交代制で行こう。今日はベルだったから明日は俺だ」

「ダメ、ずっとあたしが行くんだから」

「二人ともダメだって……こないだお話ししたでしょ?」


 ぐ、マリナに見つめられれば否とはいえない。

 仕方ない、大人しくあたしはあたしの役目を果たそう。


「んで、あたしは明日どこにいくの?」

「ああ。明日は俺と一緒にムショ行きだ」

「え、ムショ?」


 ぴきっと顔が引きつった。

 ムショってあれ? 新種の虫?


「な、なんでそんなとこ行くの? もしかしてついに自首する気になったの? 二度と帰ってこれないよ? どうせ行くなら公爵領に行って懸賞金を――」

「捕まるときはお前も一緒だ。そうじゃなくて、そりゃもう優秀で優秀で仕方ない人がそこで働いてるらしいんだ。会ってみたいじゃないか」


 い、いやな予感しかしない……。


「ちなみにベルが行くのはちゃんと女囚人の場所だ」

「うそーん! 女の囚人はそれはそれでやばいのよ! ヒステリックよ!」

「今のお前も大概だろうよ」


 ああ、急に頭が痛くなってきた。

 明日が来なければいいのに。

 もしくは、今日がもう一度くればいいのに。

 そしたら、変な囚人と会わずに心の清らかなマリナとずっと一緒にいれたのに。


「はぁ……まいっか。いざとなったらボコせばいいし」

「そんときゃ正式ルートでムショ行きだな」




ウィル「ちなみに俺の懸賞金ってどれくらい?」

ベル 「かぼちゃ200こ分くらい?」

マリナ「大体4万コールだね」

ウィル「やすぅ……」

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