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33.最低の錬金術師

 

 ♦  ☉  ♦


 錬金結社《美しき希望(カルミア)》。

 ベネラクス王国最大貴族であるアムステルダ公爵が治める領地で、貴族でありながらも結社としての側面を併せ持つ特殊な貴族。

 そんでもって、結社でもあるから他の貴族とも提携している。

 その提携先は、公爵を超える権力を持つ王族たち。


 つまり、公爵としての予算と王族からの資金提供があり、潤沢すぎるその資金力で周囲とは圧倒的な差を付けている結社。


 そんな結社にあたしと正体を隠したマリナが訪れた。

 けども――


「この招待状を見せれば、簡単に入れるっていってたけど」

「ものすごく大きくて広いね……どこに見せれば入れるんだろう」


 門がいくつもあるし、入ってからもたくさんの大きな建物があるからどこにいけばいいのかわかんない。


「うぅん、こういうときあいつがいれば空間魔法で簡単にわかるんだけどねぇ」

「ウィルも始めての場所じゃ受付の場所はわからないと思う」


 招待状片手に、マリナとあーだこーだ言い合う。

 あっちらほい、こっちらほいとうろちょろうろちょろ。


 人もあまりいないから、声をかけようにもかけられない。


「ベルはウィルみたいに空間魔法……使えないの?」

「使えるけど、めんどくさくて把握系はあんまり。得意な空間魔法は収納とかの亜空間系なのよね。ほら、帽子からかぼちゃとかほうき出すやつ」

「そっか……二人とも得意分野が違うんだね」

「といっても魔法に関しては、あたしの方が上だかんね。あいつが勝ってるのは雷だけ。他の属性全部あたしのほうが上なんだから」


 ふふーん、あいつばっか目立ってるけど、直接戦ったらあたしの方が強いんだから。

 といっても人がいる場所じゃ、あたしは本気で戦えないから、あたしの出番はあまりないかなぁ。


「とりあえず適当に良さげなところ探して、面白そうなものがあればよし。なくても人に会えればよし。そんじゃいこっか」

「うん、いまいちよくわかってないけど……ベルに任せれば安心だね」


 結社だけあって、建物のあちこちでマナが密集していたり変換されたりして行き交っている。

 あたしたちが探すのは、そのマナの流れが最も複雑なところ。

 結社の敷地内でマナの流れを辿っていくと、奥まった場所に大きなマナの流れを起こしている建物を見つけた。


「よし、ひとまずあそこに行ってみましょうか」

「うん……よくわかんないけど、ベルに任せるね」

「うんうん、このウィルベルさんにまっかせっなさーい!」


 そうして意気揚々と、ある建物の中に入っていく。

 一応建物の入り口には鍵がかかってあったけど、招待状があるという名目で魔法でちょちょいと開錠しました。

 壊してはないから大丈夫だよね?


「第一特殊研究所……」


 ぼそりとマリナが建物の名前を読み上げた。

 うんうん、ここはマナの流れが複雑なだけあって、特殊なものをやってるみたいね。

 なにがあるんだろうと楽しみに進もうとすると、マリナがあたしの服の裾をちょちょいと引っ張った。


「なに? どうしたの?」

「危険区域……許可無き者立ち入り禁止だって」


 建物の壁には赤い看板が掛けられていた。


「招待状という名の許可が出てるから大丈夫よ」

「……ホントに?」


 心配するのはわかるけど、どのみち他に人がいないんだから仕方ない。

 聞こうにも聞けないしね。

 そういうわけで、入り組んだ建物の中をぐんぐんと進んでいく。


「あれれ、こっちかな? それともこっち……お、お? あっちかな」


 特殊だからか、建物の中なのに廊下が曲がっていたり斜めにあがったり下がったりして、自分がどこにいるのかわからなくなりそうな内部構造だった。

 あたしは魔法使いでマナの流れがわかるからいいけど、普通の人だったらまず迷子よね。


「ベルすごいね……わたし迷っちゃいそう」

「なんでこんな複雑にしてるのかしらね。鍵もかけてるんだから、変な人は入らないと思うのに」

「変な人……」


 おっとマリナ、変な人といってあたしを見るのはやめましょう。

 何度も言うけど、あたしは招待状という名の許可証を持ってるんだから、変な人ではありません。


【…………ォォォォアアアア】

「……いま、何か聞こえた?」

「聞こえたね……向かう?」


 こくりと頷く。

 遠くから響く今の声はこの先、もっともマナが複雑に蠢いているところから聞こえた。

 その場所まであと少し。


「マリナ」

「うん」


 頷きあう。

 いざ部屋の前に辿り着こうとした、そのときだった。


「そこで何をしている」


 横から声が聞こえた。

 振り向くとそこには、一際立派な服装に身を包み、紺色の髪を後ろに流した偉丈夫がいた。

 男はあたしをみて、射殺さんばかりの鋭い視線を向けてくる。


「ここは関係者以外立ち入り禁止だ。君のような少女が来る場所じゃない」


 口調だけは理性的、だけど放たれる殺気は野性的で暴力的。

 あたしはちらりと後ろを見て、何もないこと(・・・・・・)を確認すると両手を挙げて敵意が無いことを示した。


「ごめんなさい、ちょっと迷っちゃったのよ。あたしはウィルベル。この結社に招待されてここに来たの」

「ウィルベル? ……ほう、そうか。君がか」


 名乗ると男は殺気を沈め、あたしをじっとみつめながらゆっくりと近付いて来た。


「これは失礼した。なにせこんなところに学生が来るとは思わなかったんだ。挨拶が遅れたね。私がこの結社の当主にしてこの周囲一帯を治める領主――」


 あたしに手を差し出して、にっこりと微笑むその男は――


「レンブラント・フォン・アムステルダだ。結社を率いるものとして君を歓迎しよう」


 ……まさか、いきなり公爵閣下に会えるとは思わなかった。

 うーん、ま、結果オーライ?

 いや、オーライにもなってないか。

 あたしはちらりと横を見る。

 ……ここは一つ、ダメ押し(・・・・)をしておきましょうか。


「これはご丁寧にありがとうございます。えっと、ではご挨拶とお詫びを兼ねてここらで一つ余興をしましょう」

「なんだ急に、余興? こんなところで?」


 戸惑う公爵様を無視して、あたしは杖を取り出し振るう。


「ほーらかぼちゃの踊り子たちでござーい!」


 帽子が浮いて、中からかぼちゃ人形たちが飛び出して、あたしと公爵の周囲で愉快に動きを揃えて踊り出した。


「は?」


 目をまん丸にする公爵様。


「フフッ……ハハハ! これは面白いな。なるほど、ハブリエルが太鼓判を押すわけだ。ありがとう、ウィルベル君」

「どういたしまして。これで勝手に入っちゃったことは許してもらえる?」

「ああ、許そう。こちらも迎えの者を用意していなかった不手際があるからな。……それにしても、ここまで一人で来たのかい?」

「運悪く誰にも会えなくて。不躾ですが、今日は案内をお願いできます?」

「そうか、わかった。では他の塔に行こう。ここは少々うるさくて危ないのでね」




 ♥  ☽  ♥




「そうか、わかった。では行こう。ここは少々うるさくて危ないのでね」


 廊下を歩く音が二つ、規則的に遠ざかっていく。

 音が聞こえなくなったところで、わたしは立ち上がり、廊下の隅から顔を出す。

 かぶっていたローブのフードを脱いで周囲を見渡した。


「ベルにもらったローブ……さすがだね」


 自分で着てても不思議なローブ。

 光の魔法がかけられたこのローブは、身に纏うと周囲の景色と同化して姿を隠すことができる優れもの。

 公爵が出てきた瞬間に、わたしはこのローブで身を隠したのだ。

 ちなみに、これを見たウィルが、


『こてこてやんけ』


 といったのが気になったけど、効果は抜群だった。


「ここまでは予定通り……公爵が出てきたのは予想外だったけど」


 また懐から一つの道具を取り出した。

 それはわたしたちにはなじみ深い《かぼちゃ人形(パンプキンドール)》。

 他とは少し違うにっこりと笑った、ベル曰く《甘いかぼちゃ人形スウィーティ・パンプキン》。


「案内お願いね」


 頼むと人形は小さくうなずいて、ふよふよと漂い出した。

 このかぼちゃはベルに教わりながら錬金術で作ったもの。

 そこにさらにベルが魔法をかけてくれて、行きたいところに連れて行ってくれるようになったもの。

 今回の来訪、ベルは囮で本命はわたし。

 わたしが行くべき場所は――


「ここだね」


 《かぼちゃ人形》に案内された分厚く部屋名すらない厳重な部屋。

 ……これは正攻法じゃ開けられなさそう。

 わたし自身の力で開けられないこともないけど、ここでは、アレ(・・)は使えない。


「……いける?」


 こくりと《かぼちゃ人形(パンプキンドール)》が頷いた。

 わたしが懐から無色透明な水晶を取り出して、人形に持たせると、かぼちゃ人形はぷるぷる震えだす。

 がちゃり、と扉の鍵が開いた音がした。


「すごい……ベルは本当に天才だ」


 開いた扉に手をかけて、開く。


「……ん」


 中から流れてきた空気にわたしは顔をしかめた。

 開いた瞬間に感じたのは生臭い血の匂いと人工的な乾いた熱、どんよりと沈んだ空気。

 部屋の中は昼間なのに薄暗い。


「こんにちは」


 挨拶をするけど、返事はない。


「いないのかな?」


 暗い部屋の中にはちらちらと光る赤や緑の人口の光。

 大人しくどこかで座って待ってようかな。

 そう思っていたけど、ちいさく物音がした。物が落ちたとかじゃない、明らかに誰かがいる音。

 規則的にペタペタと鳴る裸足で歩く音に、物か何かを持っているのか、時折なるラップ音。

 その音は、暗い部屋のさらに奥、明らかに入口から見えないように棚の死角になるところにある扉から聞こえた。

 そこにいるのかな。

 こっそりと、隠し扉を開ける。

 開けた先、すぐ目の前にいた。


「……?」


 うろんな赤い瞳と灰色の髪。

 わたしよりも細く小さい体躯をした、幼い少女だった。

 彼女はわたしを見上げて、小首をかしげていた。


「……侵入者?」


 彼女の言葉を否定しようとする前に、少女はわたしに手をかざした。


「排除」


 そして少女のかざした手から、いくつもの剣や銃が生えた(・・・・・・・)


「――ッ!?」


 すぐに転がるようにして姿勢を低くし、間一髪で射線から退避した。その直後、耳をつんざく発砲音と物が壊れ砕け崩れていく甲高い音がする。

 わたしは、すぐに少女を取り押さえ、地面に組み伏せた。


「てき、てき、てき」


 地面に組み伏せられても、少女は手をわたしに向けようともがいていた。

 足掻くその力は想像以上に強い。

 見た目14、5の少女の力じゃない。

 何より、彼女の手だ。

 生身の人間の手がそのまま剣や槍、銃になったような奇怪な現象。


「あなたは……一体ッ」

「許可はない、侵入者、てき、排除」


 答える声はない。仕方なく、首筋に手刀を放つ。


「てき、て――……」


 最後までわたしを敵として見ながら、彼女は意識を落とした。意識を落とすと、剣になっていた少女の手はぬるぬると元の小さく細い少女らしい手に戻っていった。

 わたしは小さく息を吐き、額にかいた汗をぬぐう。

 彼女は目的の人物じゃなかったけど、ここにいるということはきっとかなり重要な存在に違いない。

 そう思い、彼女とこの部屋について調べようとしたその時だった。

 部屋の扉が開き、一人の男がやってきた。


「何事ですか。騒々しい。また暴走を――……」


 やってきたのは、少し荒れた金髪を耳のあたりで切りそろえたつまらなそうな顔をした見た目20代の若い男性。

 目の下には隈があって、全体的に疲れてそうな人。

 その男が、部屋に入ってすぐの少女を組み伏せているわたしを冷たく見下ろしていた。

 見慣れた色の金髪にどこか見覚えのある顔立ち。

 ――この人がわたしたちが探していた人。



「ライナー・ネーヴェニクス……アリータのお兄さん」



【最低の錬金術師】――





マリナ「ウィルは記憶魔法も使えるけど、あれは?」

ベル 「あれも分類的には雷魔法ね。脳の伝達信号をいじってるのよ」

マリナ「頭に雷落としてるの?」

ベル 「そう、だからあいつはいつもキレっぽいの」

ウィル「関係ねぇよ!」

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