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29.結社と貴族

 

 ♠  ♁  ♠


 剣錬技大会が終わった後、数日の休みを挟んで学校に登校した。

 騒ぎを起こしたから、今日は面倒なことが起こるだろうとは思っていた。


 ただ――


「どういうつもりだね! センデリック王太子殿下に対し、あのような無礼を働くなど!」

「大人しく王家に出頭したまえ! 私たちの顔にまで泥を塗る気か!」

「君のような野蛮人を入れることすら間違いだったのだ! すぐに行って罪を償いたまえ!」


 防音性高そうな会議室で大勢の偉そうな教師連中よってたかってのお説教なう。

 つばを飛ばして息を荒げ、肩を揺らす教師たち。

 ひどいな、俺はいたいけなマリナを最低暴漢痴漢野郎から助けた紳士なのだから、褒賞はあれど怒鳴られる筋合いはないと思うのに。

 悲しいかな、優秀すぎるものは嫌われるのだ。

 彼らもいずれ、いいものはいいと認められる偉大な教師になってほしい。


「お前ら馬鹿か? 目の前で女が無抵抗で何発も顔殴られてんの見て、何も思わねぇのか? ましてや自分たちの学生だぞ? 馬鹿なのかお前ら」


 むかついた俺は挑発するようにこめかみに人差し指を当ててぐりぐりまわす。

 その行為がイラついたのか、途端に教師たちの顔がさらに真っ赤になった。


「お前は自分が誰を相手にしていると――」

「無抵抗の女をいたぶるクソゲス野郎だろ」


 怒りを向ければ、教師どもはびくついた。


「お前らはあの少女にずっと殴られろといってるんだ。お前らこそ自分たちの立場をわかってるのか?」

「お前はまだこの国について何も――」

「転校生でもわかることを知らないお前らの言うことを聞く気はない。なぜ俺を責める? なぜ生徒を守らない? なぜお前らは自分の頭で考えない?」


 大義のためでも人を殴るのが罪ならば、あの王太子だって同罪だ。

 王太子だから許され、俺は許されないというのなら、この国の王族はクズだ。

 故に、俺は決して従わない。


「君はまだ、この国の状況を知らないのだ。王族に逆らうことがどうなることか。ユトレヒト侯爵家の嫡男と親しくしていても、王を相手にしては多勢無勢だ」


 教師の中でも偉そうな――恐らく校長が脂汗をかきながら言った。

 その声色は怒ったものではなく、諭すようなものだった。


「王? そんなものがどこにいる? 俺にはこの国を支配しているのは王ではなく犯罪者に見えるんだが」

「ふ、不敬にもほどがあるぞ!」

「だが事実だろう」


 事実を言えば不敬とは、とんだ心の狭い王様がいたもんだ。

 無実の少女に迫り、無抵抗なのをいいことに何度も殴る。

 そして試合の時間だから出た俺を大勢で囲んで殺そうとした。

 まあ最後のは議論の余地はあるが、おおむねこれが事実だ。

 国民全員から金を巻き上げておきながら、王太子は無抵抗の女を拉致し、自分の欲望を満たすことしか考えていない。

 権力という暴力を振るう奴が犯罪者ではないと言い切る部分がどこにある?


「お前らは自分たちが何をしているのか、もう一度足りない頭で考えろ」


 俺はソファから立ち上がり、扉へ向かう。


「私たちは勧告した。学校として、他の学生へ危険が及ぶことは避けなければいかん。だから君を擁護しない。……十分に気を付けることだ」


 校長がそういった。

 ふんっと鼻を鳴らして――


「向こうの側につかないだけ賢明だ」


 今度こそ、俺は部屋を後にした。




 ♠  ♁  ♠




「大丈夫でしたか!? ウィリアムさん!」

「無事だったか!? ウィリアム!」


 教員室から出ると、例によってレヴィとミラが駆け寄ってきた。

 丁度良かった。今回に関して二人に聞きたいことがある。


「あの後どうなった?」

「今回の一件で、王太子の名は地に墜ちた。あのとき王族派より先に動けたことで、反対派は今までになく増え、まとまりだしている。ただ……」

「ただ?」

「まとまってはいるが、想像よりも噂の広まりが遅い。あの場にいたものはともかくとして、それ以外のものは信じてくれず、デマ扱いされてしまっている。だが王太子の動きが遅いおかげで、もう少し時間を懸ければもっと手を広げられそうだ」


 このあたりはおおよそ予想通りだ。

 あんなうまい話、見てもない人、それも反対派の人間から聞けば嘘か虚飾まみれの雑言だと思うだろう。

 王太子の動きが遅いのは、あの場にいた者の記憶からあの一連の出来事が消えているからだ。反対派は現実味のない現実で思うほど勢いがつかず、王族派も記憶がなく、また負い目があるから大っぴらに動けない。

 つまり、どっちもしばらく動かないというわけだ。


「予想通りだな。お前らも普通にしてろ。必要以上におどおどするな。特にミラ」

「は、はぃいい!!」

「……」


 名前を呼んだだけで、いかにもテンパってますとばかりにがっちがちに気を付けをする彼女。

 仕方ない、平民上がりでこの間まで貴族相手に委縮していた彼女に王族相手は厳しいか。


「頼む、レヴィ」

「わ、わかっている! お、俺も、こ、このときをずっと待っていたのだ、からな!」

「だめだこりゃ」


 緊張か興奮か知らないが、カチコチのレヴィ。

 ミラの緊張が移ったか?

 よくこんなので国を変えようなんて言ってるな。


「それで、レヴィはこれからどうする気だ?」

「今のところは新参をまとめることで手いっぱいだ。今はまだ動き出せない」


 これで予想通り、王族派と反対派双方が動かないことが確信した。


「あとは道化(ピエロ)が動けばいい」

「ピエロ?」


 呟きを拾ったミラが聞いてくるが、無視した。

 焦り、愛憎燃やした道化(ピエロ)は愚かに踊る。

 それはきっと、愉快な転落劇の幕開けとなる。


「んまあ、俺はしらばくひっそりとするよ。あとは任せるから」

「「えっ」」


 二人して同時に立ち止まった。


「ウィリアムが反対派の旗になってくれれば、もっと早くまとめられるぞ? ひっそりとせずに、一緒に来てくれれば――」

「嫌だよ、めんどくさい」


 あの場にいなかった者にとっては、俺は存在すら疑うレベルだ。

 仮面をつけた俺が出たとしても、そんなもの仮面をつけてれば誰が出たって同じだ。

 王族側も全員打ち負かした存在を大っぴらに認めるような行為はしない。


「のんびりしてる暇はないかもしれませんよ?」


 珍しくミラが忠告してきた。

 レヴィと顔を見合わせる。


「わたしを招待してくれた結社【竜が穿つ地(ドラグマ)】の人が教えてくれたんです。ここ最近、結社周辺の動きが騒がしいって。結構大きな結社が動いてると思われます。もしかしたら、公爵家が動き出すのかも」

「……あの【錬金公爵】か」


 レヴィが苦虫を噛み潰したような顔をした。

【錬金公爵】とは随分と金の匂いがする名前だな。


「ウィリアム。この国の貴族は基本的に結社と提携を結んでいる。自領の発展に錬金術の力は不可欠だからな」

「結社の大きさは提携する貴族の家格と比例します。なかでも【錬金公爵】……アムステルダ公爵家は、もはや公爵家自体がこの国最大の結社《美しき希望(カルミア)》なんです」

「カルミア?」


 この名前には覚えがある。

 たしかベルを招聘しようとした結社だ。ベルは結社には興味が無いから、記念メダルだけ受け取って手紙は机の上に適当に置いていたはずだ。


「アムステルダ公爵家はそれ自体が一つの結社なんです。つまり、【美しき希望】もまた別の提携先がいるんです」

「公爵家なんだろ? 提携する必要もないんじゃないか? あとは全部自領よりも小さいものばかりだろ?」

「自領よりも大きい土地があるんですよ」


 ミラの言葉に、ピンときた。

 それはもう一つしかない。


「王族お抱えの【結社】であり側近の【大貴族】。王族派最大の規模を誇るアムステルダ公爵家が【貴族】ではなく【結社】としてこちらにやってくる可能性があります」


 ……錬金術を学びに来ただけだというのに、この国はなかなかに面倒だ。

 ちったぁ放っておいてくれないもんかね。




 ♦  ☉  ♦




「ウィルベルくん、少しいいかい?」


 廊下を一人で歩いていると、声をかけられた。

 声がしたほうを見てみれば、見たことない片眼鏡をかけた初老の男性が教室から顔を出して、手招きしていた。


「え、新手のナンパ? 学校にも不審者っているのね」

「えっ、違うよ!? 純粋に君に話がしたいんだよ!」

「なおのことナンパじゃない。さよなら~」


 後ろに手を振りながら歩き去ろうとすると、男性はあわてて出てきてあたしの前に躍り出た。


「そうじゃなくて、君【美しき希望(カルミア)】に招待を受けただろう? 僕もその結社の一員でね。その話がしたいんだ」

「あぁ、そういう。なら最初からそう言えばいいのに」

「言おうとしたんだけどね?」


 にしてもこんな先生いたかなぁ。

 まあ大学にはいろんな教授と研究室がいるって話だから知らなくても無理ないんだけど。


「あたしは【結社】に入る気はないの。大きな結社かもしれないけど、縁が無かったわね」

「そういわずに、話だけでも聞いてくれないか。君なら【美しき希望】に入っても大活躍できる。君にしかできないことがたくさんあるんだ」

「……あたしにしかできないこと?」


 ちょっとだけ……ほんとうにちょっとだけ話を聞いてあげようかな?


「なにかしら? ちょっとだけなら聞いてあげてもいいよ?」

「そうか、助かる。では向こうの部屋に行こう。少しばかり重要な話をするのでね」


 あやしいおじさん……もとい結社所属の教授らしいこの人の後について、一見して立派な部屋へと入る。

 そこは応接室なのか、ふかふかのソファに艶のあるローテーブルが間に置かれた高級そうな絨毯が引かれた部屋だった。

 片眼鏡の教授はクイっとメガネを直して、姿勢を正した。


「まずは自己紹介と行こうか。私は【美しき希望(カルミア)】所属でこの学校で教授をしているハブリエルだ。教授と言っても、もっぱら研究ばかりしているから講義はあまりしていないんだ」

「なるほど、だからハブラレル先生なんですね」

「ハブられてないよ! ハブリエルだよ!」


 必死に否定するけど、本当にハブられてる人は自分がハブられていることに気づかないものなのね。

 まあ、他の人がどんなことやってるかハブられてるから知らないから、他の人も自分と同じと思って、ハブられてると思わないのね。

 可愛そうに、ハブラレル先生。

 そりゃ、あたししか頼れないわけよね。

 ん? 待てよ……この人といれば、あたしまでハブラレルことに?


「招待状は見たかな? 【美しき希望(カルミア)】は君を特別待遇で迎え入れる用意がある。王族お抱えのこの国最大の結社だ。入るだけでも貴族並みのアドバンテージになるし、ましてや君ならかなり高い地位まで昇りつめられるだろう。悪い話じゃないだろ?」

「でもその代わりにハブラレル?」

「ハブられないって! どんだけわたしの名前をこするんだい!?」


 冗談はさておきとして。

美しき希望(カルミア)】はそうか、王族お抱えなのか。

 あのマリナをぶったあの王太子がいる、ねぇ……。


「いいわ、入るかどうかはともかく見学くらいならいったげる」


 ハブラレル先生は一気に笑顔になった。


「本当かい! 歓迎するよ! 場所は連絡しておくから、好きな時にきてくれ!」


 凄く嬉しそうに何度も満足げに頷く教授。

 あたしは立ち上がって、部屋を後にする。


「とりあえず急ぐのでこれで。ひとまずは先生は自分から結社の人に積極的に話しかけるところから始めたほうがいいと思います」

「いや別にハブられてるから入ってほしいわけじゃないからね!?」




マリナ「ベル、ウィルからこういう内容の頼みを受けたんだ」

ベル 「ふむ、あの外道め、あたしじゃなかったらキレてるわ」

マリナ「しょっちゅうキレてる気がするけど……」

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