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幕間③:見ない見えない知らない二人

 


 絶対治らない治し方を無邪気に試すお二人を前に、言葉を失っていたデンヴィックたちでしたが、やがて気を取り直して剣を抜き、お二人に向けました。


「貴様ら! 慰謝料と謝罪料を寄こせ! でなければ牢にぶち込むぞ!」

「……あれは言い訳できませんわよね?」


 最初はともかく、あとのは完全にお二人の過失ですし、どうしようもない気がします。

 ですがそれでもお二人は悪びれることはありませんでした。


「それを言うならぶつかったせいで俺だって痛い。慰謝料寄こせ」

「何を言っている! お前はなんともないだろう!」

「そんなことないって。ほら」


 ウィリアムさんは自分の腕に軽く手を当てて――


 めきっ。


「……ッッぇえ」


 だらんと、ウィリアムさんの左手が垂れさがっておりました。


「は、は、外したああーーっ!?」


 まさかの自ら肩を脱臼させるという暴挙にウィルベルさん以外の人たちはみんなドン引きでした。


「あの人、正気ですの!?」

「ウィルは痛みに強いから」

「そういう問題ですか? 狂気じゃないですか」

「今度はわたしが治すから大丈夫」

「また反対に折るんですか?」


 わたくしがルナマリナさんと話している間、ウィリアムさんは痛がるそぶりも見せずに抜けた肩をひけらかしていました。


「ほらみら、完全に肩外れてる。慰謝料寄こせ」

「何を言っているんだ! 今明らかにお前が自分でやっただろう!」

「いいや、さっきからずっと外れてた。それにそっちこそ俺にぶつかってわざと転んだ拍子に折ったじゃないか。俺たちだけのせいにするのは違くない?」

「なにも違くない! たとえそうだとしてもそのあと悪化させたじゃないか!」

「え、体当たりしてきた相手に手を出すなって? ないわー」


 のらりくらりと適当に相手をするウィリアムさんに、デンヴィックたちの堪忍袋の緒が切れました。


「ええい! もういい! この男を斬り捨て女をひっ捕らえろ! 男は手足を切り落として見せしめにするのだ!」

「ハッ!」


 まだ無事な取り巻きの二人がウィリアムさんに同時に切りかかりましたが、ウィリアムさんはため息を吐き、そして足を振るいました。

 途端に、剣を持った大の男2人が吹き飛びました。


「なッ――」


 驚愕の表情を浮かべるデンヴィック。


「これも正当防衛に入るよな?」

「まあこっちは肩外れてるし片手荷物で塞がってるし、相手は剣を持ってるし、普通に考えてそうじゃない?」


 なおも余裕綽々な二人を見て、デンヴィックは顔を真っ赤にして剣を振り上げました。


「貴様、この私を誰だと――ッ!」


 逆上し剣を振ったデンヴィックでしたが、ウィリアムさんは軽々とよけ、デンヴィックの顔面を高々と蹴り飛ばしました。


「ガッ!?」


 デンヴィックは吹き飛び、持っていた現金箱だけがその場に残りますが、ウィリアムさんは器用に足で箱を受け止めました。


「ん? 宝箱がドロップしたぞ」


 まるで玉蹴りのように小器用に片足立ちで箱を保持し続けるウィリアムさんに、さすがのデンヴィックたちもただものではない気配を感じ取り、腰を抜かして怯えだしました。


「ひっ、き、貴様らッ! く、来るな!」

「に、逃げましょうデンヴィック様! かないっこありません!」

「ば、ばけもんだぁ!! 悪魔だ!」


 這いずるように泣きわめきながら、デンヴィックとその取り巻き達は尻尾を撒いて逃げ出しました。

 厄介者がいなくなったことで、商店街は静寂に包まれます。

 ですが、次の瞬間に――


「うおおおおおッ! あの嫌われ者のデンヴィックを追い払ったぞー!」

「すげぇ! 何もんだあの人たちは!」

「奪われたお金も取り返してしまったわ! 素敵! なんて強いのかしら!」


 商店街は歓声に包まれ、歓喜の声に湧きました。

 突然現れてウィリアムさんたちに殺到する人たちにわたくしは驚きました。


「ここの人たちはよほどさっきの人たちに鬱憤が溜まっていたようですわね。こんなに興奮するなんて」

「あの人たちのせいで商売はしにくいしせっかく稼いでも奪われるんじゃ、誰だって不満はたまる……これからどうなるかはわからないけど、二人のおかげで今まで通りの横暴はできなくなるんじゃないかな」


 いまだ物陰に隠れながら、わたくしたちは二人を観察し続けます。

 住民たちに囲まれていた二人でしたが、そのお二人の前にお金を奪われた老婆がやってきました。


「勇敢なお方。お金を取り戻してくれてありがとうございます」


 慇懃に礼をした老婆でしたが、ウィリアムさんは露骨に眉をひそめます。


「取り戻した? 何言ってる。これは慰謝料として俺が貰うものだぞ」


 一切お金を渡す気のないウィリアムさんに、老婆は面食らいました。


「え? ですがそのお金は――……」

「文句でもあんのか、ババ――「そぉい!!」――アッ!?」


 拒絶しようとしたウィリアムさんにウィルベルさんが渾身のヒップアタックを決め、弾き飛ばしました。

 男にぶつかられてもびくともしなかったウィリアムさんは地面を転がり、持っていた現金箱は吹っ飛んでウィルベルさんの手元に落ちました。


「これは失礼しました。あの暴漢に奪われたお金はこれですか?」

「ええ、そうです。ありがとうございます。麗しいお嬢様」


 老婆に箱を手渡し、機嫌よく笑うウィルベルさん。


「おほほっ、どうってことないわ! んで、それはそれとして、ん」


 しかしウィルベルさんは箱を渡したことで空いた手を老婆の前で広げて見せます。


「あの、この手は?」

「なにって謝礼金。あたしたちがいなきゃ全部奪われてたんだし、こうして返したんだから多少は貰わないと示しがつかないでしょ?」

「え」


 老婆を始め、周囲の人たちは固まりました。

 ウィルベルさんは何がおかしいことがあろうかと、小首をかしげました。


「だって、あんな危ないことして取り返したのになんのお礼もありませんじゃ、これから先誰も助けてくれなくなっちゃうよ? 見返りのない善意を他人に求めるのは根本的に間違ってるわ。だけどみんなが見てるここでお金を渡しておけば、これから先いろんな人が助けてくれるかもしれないわよ?」

「で、ですが……」


 渋る老婆にウィルベルさんはにっこりと笑い、背後を指さしました。

 そこには――


「この男が何をしでかしても知らないよ?」


 ゆらりと立ち上がるウィリアムさんがおりました。

 怒気を含んだ彼の姿に住民たちはごくりと生唾を飲み、老婆は慌ててお金を取り出し、ウィルベルさんに手渡しました。


「どうぞ、お納めください! それでは!」


 お金を渡した老婆は老体に似合わぬ俊敏さでそそくさと逃げていきました。

 そんな老婆に釣られるように、盛り上がっていた住民たちは我先にとその場を後にし、残ったのはやっぱりウィリアムさんとウィルベルさんだけになりました。


「ひどい……ウィルベルさん、こすいですわ」

「フフッ、ベルってかわいいね」

「ルナマリナさん、それ以外の感想はないんですか?」


 わたくしも若干引いてしまいました。

 ウィルベルさんはウィリアムさんをケチンボといいますが、ウィルベルさんも大概ゼニゲバです。

 一転して静かになった商店街で、残ったお二人は言い争いを始めました。


「ベルこら! せっかくの金を渡しやがって!」

「何言ってんの! あれは奪われたお金なんだからダメ! だったら少なくてもちゃんと報酬としてもらった方がいいに決まってるでしょ!」

「あんな言い方脅迫と変わんねぇよ! 奪った連中と一緒だろうが! つうかいい加減俺で脅すのやめろ!」

「あんたの素行が悪いのがいけないんでしょ! 実際効果覿面なんだから、その事実の方をなんとかしなさいよ!」


 静かになった商店街でしたが、お二人のせいで再びにぎやかになりました。


「ふふっ……ウィルもベルも楽しそう」


 喧嘩してばかりのお二人を見て、なぜかルナマリナさんがまた微笑みました。


「ルナマリナさん、どこをどう見たらそう見えますの? 喧嘩してばかりではないですか」

「そう? 二人はとっても楽しそうだよ……これ以上ないくらい」


 ウィリアムさんとウィルベルさんに目を向けますが、変わらず悪態をつきあっていました。わたくしには本気でけんかしているように見えてとても仲がいいとは思えません。

 はぁ、あんなお二方ですが、もしお二人がご自身で言ったお眼鏡にかなう異性がいれば変わるのでしょうか。


 …………あれ?

 お二人の好きな人って――


『毎日必死に生きてる頭が良くて運動できて強くて品と教養があって、恋愛体質じゃない一人でも生きていけそうな毅然とした芯がある人。いいなりはつまらないが淡々としてても面白くないから、適度な跳ねっ返りが良いな』

『あたしと釣り合うとしたら~お金持ちで~、強くて賢くて顔が良くて人気であたしのやることにちゃんと付き合ってくれる人でしょ? でもいいなりはつまらないから、適度にちゃんと自分を持ってて、そのうえでそれを曲げてあたしと一緒にいてくれる人かな?』


 三度お二人に目を向けます。

 もしかして、お二人の好きな人って――


「アリータ。しー」


 突然、ルナマリナさんが人差し指を立てました。

 それは暗に、わたくしが思ったことが間違ってないのだと思わせてくれました。


「ね? ……二人とも楽しそうでしょ?」

「……そうですわね。とても楽しそうです」


 初めてルナマリナさんのお気持ちがわかりました。

 灯台下暗し、近いものほど見えないですし、人は案外、自分の気持ちなんて見ないし知らないものなのかもしれません。

 これからもお二人変わらずこのままなのでしょう。


「さっ、そろそろ帰ろうか……次会うときは学校で」


 そういって、ルナマリナさんは喧嘩しているウィリアムさんとウィルベルさんの元へ走っていきました。

 わたくしも混ざりたいですが、さすがにあの中に入るのは野暮というものです。

 今日はおとなしく帰るとしましょう。




 ……やっぱり、おうちまでついていくのはいいですわよね?


 


ウィル「あの商店街、次行くとき割引してくれないかな」

ベル 「いやウィルは無理でしょ、ゆすってばかりだし」

ウィル「俺使って脅すベルも同じだろ」

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