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28.いろいろな事情

 

 ♥  ☽  ♥


「さっきも言いましたが、問題は山積みです。反対派はいずれウィリアムさんを旗頭にいずれ決起し、【王家】も【結社】もそれを決して野放しにはしないでしょう。学校側がどう出るかはわかりませんが、今後、大学は……いえ、この国は荒れることになりましょう」


 いたって真剣に話すアリータだったけど、ウィルはたいして気にせず、かぼちゃ料理をぱくついた。


「問題になったとしても、それはまだ先だろう」

「? なぜですの?」

「王家が動けば、王太子のメンツがつぶれたってことを認めることになるからな」


 アリータは眉根を寄せる。


「欲しい女を落とせなかったから手を挙げる。学園で、王族側最強のナサニエル家がいるにもかかわらず、たった一人の男を大勢で囲んでおいてこてんぱんにボコされる。それも大勢の目の前でな。この事実は消せない」

「そうですわね。たくさんの人が見ていますから、事実だと広まるのは時間の問題でしょう」

「だが、都合がいいことにそこにはレヴィがいた」


 理解が追い付かないアリータは小首をかしげる。


「どうしてレヴィさんがおられると王族派にとって都合がいいんですの?」

「レヴィに都合が良すぎるからだよ」

「え?」

「反対派の旗頭であるレヴィ自身はルイスに完敗した。にもかかわらず、そのあとに王太子含め、大量の護衛を連れたこの国最強のルイスを圧倒した仮面の男。そしてそいつはレヴィと親しい間柄だ。こんな反対派に都合のいい荒唐無稽があると思うか?」

「たしかに……逆に反対派の策略だととってもおかしくはありませんわね」


 納得したアリータ。

 すると、ベルがかぼちゃ料理にほおを緩ましながらウィルを指さした。


「仮面をつけるやつなんて、うさんくさいにもほどがあるもんねぇ?」

「うっせぇ、うさんくささは魔女のお前も変わんねぇだろ」


 ベルの茶々を適当にあしらいつつ、ウィルは続ける。


「そんな状況であの場にいた連中をレヴィがまとめれば、その場にいた全員は反対派とみなすことができるだろ? 現に兵士たちはそうしたはずだ」

「それがなにか?」

「あっ、そういうことね」


 ウィルの言いたいことが分かったベルがぽんと手のひらに拳を乗せた。


「要するに、反対派が事実をでっちあげたっていえちゃうのよ。その場にいたのが全員反対派で中立がいないのなら、彼らが広める噂には客観性が無くなるでしょ?」

「そんなうまくいくでしょうか。その場にいた人全員が反対派なんて建前でしょう? 大学にはいろいろな貴族が多くいますわ」

「そうだな。確かに王太子がやったこともあの場に反対派以外の貴族がいたことも事実だ。だが、王太子を批判したあの出来事を認めること自体が反逆罪であり、その場にいた者を反対派としてみなせるのもまた事実だ」


 王族側は事実を疑うものを自分を擁護する王族派とみなし、事実を主張するもの全員を反対派として二極論化する。それによって、今回の件を反対派のでっちあげだとして醜態をごまかそうとする。

 普通ならこんな強引なやり方はまずできない。

 だけど、今回に関してだけはそれができてしまうのだ。


「俺はあの場にいる王族たちの記憶を消した。つまり、王族派の連中があの出来事を認めることはまずない。となれば、あの場にいなかった貴族は疑うだろう。まったく身に覚えのない王族たちとあまりにも自分たちに都合のいい出来事を話す反対派。こうなると『そんなことはありえない』と思う連中は必ず出る」


 アリータが目を見開く。


「た、確かに! これでは、王家を擁護する者たちは王家を無視して迂闊に動けません。だから王族派は自分たちが動いた瞬間に、そういった事実があったと認めることになってしまうのですね!」


 興奮気味に話すアリータ。

 ともかく、これでまだしばらくはいつも通り……とまではいかないけど、穏やかに過ごせる。

 学校でも3人で一緒にいられるのだ。


「次に学校行く時が……楽しみだね?」


 二人はわたしを見て、笑ってくれた。


「そうだな。三人いれば怖いもんなしだ」

「まーね♪ あたしがいれば楽勝よ!」


 そう、何があったって、次からはわたしたち三人一緒にいられる。

 わたしたち三人で楽しくしていると、アリータが頬を膨らました。


「むう……皆様、こんな状況なのに楽しそうですわね。さっきの話の通りだとしても、この家がいつ襲われてもおかしくないのですわよ?」

「おっと、それは困るわ! あたしの家が壊される!」


 ベルは慌てて立ち上がり、かぼちゃ料理を上品にかきこみ、ごちそうさまと食器を片付けてから玄関の方へ走った。

 途中で座ったままのウィルの方へ文句を言う。


「ちょっと! いつまでも食べてないで手伝って!」

「はぁ? 何する気だよ」

「決まってるでしょっ、この家隠すの! あんたの十八番で手伝ってよ!」

「え、まじかよ。まだかぼちゃ食ってんだけど」

「あとでいくらでも食べさせてあげるから!」

「いくらでもはいらねぇよ」


 なんだかんだ言いながらもウィルも急ぎ早にご飯を平らげて、ベルの後を追って玄関へと向かった。

 部屋に残ったのはわたしとアリータだけ。


「……わたくしたちも行ったほうがよいのでは? この家を隠すということがどういうことかいまいち呑み込めていませんが、お2人だけでは大変でしょう?」

「わたしたちはいかないほうがいい……というか、あなたが行かないほうがいい」

「またわたくしだけ仲間外れですか……友達になるのは遠いですわ」


 がっくりと肩を落とすアリータ。

 そもそも彼女は勘違いしてる。


「わたしたちは友達じゃない」

「え? そんな改めて言われなくても、もう何度も言われたのでわかってますわ、ええ、わかっておりますとも……」

「ちがう。アリータのことじゃない」


 わたしたち三人のこと。

 アリータは首を傾げた。


「では皆さんはどのようなご関係で? 皆さん同じ学年ということは同い年なのですよね? ご家族ではないでしょうし」

「さあ……世間一般がわたしたちの関係をどう評価するかは知らないけど、少なくともわたしは……友達ではないと思う」


 アリータは興味深そうにわたしにずいっと近寄って鼻息荒く聞いてくる。


「それはどういう――」

「おわったー」

「ばっちりー」


 アリータが詳しく聞こうとしたとき、ウィルとベルが戻ってきた。

 あっという間に終わらせてきた二人に、アリータは驚いて振り返る。


「もうですか!? お家を隠すのですよね?」

「うん、だから隠した。この家を探す人(・・・・・・)には見えないんじゃないかな?」

「どういうことですか? なぞかけですか?」

「どうでもいいから、お前はもう帰れ。いつまでいる気だ」


 ウィルがしっしと手を振ると、アリータはぐぬぬと、拳を握る。


「わたくし、皆さまのことに興味津々ですの。教えてくださいませ、皆さんのこと」

「おぉっとぉ、あたしなんだか人の記憶が消えるところが見たくなってきたなぁー」

「奇遇だなぁー、俺もなんだか人の記憶を消したい気分だぁー」

「そんな聞いちゃいけないことですか!? だとしてもさあ小腹が空いたみたいな感じで人の記憶をつままないでくださいまし!」


 怯えた子ウサギのように自分の体を抱きしめて壁際に逃げるアリータ。

 彼女は救いを求めてわたしを見た。

 わたしは安心させるように、にっこりと微笑んだ。


「大丈夫、記憶消去は危ないものじゃないから。痛くもないしあっという間に終わって頭がすっきりするよ? ……ウィルに任せておけば大丈夫、安心安全っ」

「怪しい商売に引っかかったときのばあやと同じ口調ですわ!」


 アリータは瞳に涙をこらえながら、鞄をひっつかんで玄関から飛び出した。

 そんなに嫌がらなくても、記憶消去は嫌なことも忘れられるいいものなのに。

 まあウィルのさじ加減一つで拷問にも麻薬にもなるけれど 。


「やっと静かになったな。次からはこの方法で追っ払うとしよう」

「そもそも幻術かけたから来れないんじゃないかしら」

「家を隠すってそういうことだったんだね……これなら誰にも手を出されないね」


 ようやく静かになった家でやっと本題に入れる。


「それでこれからは……どうするの?」


 ウィルはあごに手を当てて少しだけ考え込んだ。

 しばらく考えたあと、顔を上げる。


「まっとうなルートでレオエイダンに留学するのはもうやめだ。この国、めんどくさい」


 子どもっぽく口をとがらせるウィルに、ベルはふーんと相槌を打つ。


「じゃあどうするの? 確かに錬金術師って名乗れる程度にはなったけど、それでいいの?」

「いや、この技術は国に持って帰りたい。でも今のままじゃ不十分だ。レオエイダンで学ぶにしても、俺達だけじゃ手も脳も時間も足りない」

「つまり?」

「この国の優秀な奴を何人か抜く」


 なるほど、確かにそれはいい案だと思う。

 ウィルの国には錬金術が無いから、錬金術を広められる人間がいれば、その間にウィルはまた旅に出て国に必要なことを学ぶことができる。

 ウィルの考えにベルは頷いた。


「なるほどね。それならあのミラって子ならあんたと面識あるし、平民だからちょうどいいんじゃない?」


 確かにミラなら錬金術についても詳しいし、努力家だから悪くないと思う。

 だけどウィルは眉根を寄せて唸った。


「ミラかぁ~。う~ん」

「なに? 駄目なの?」

「ダメじゃないけど、もったいない気がするな」

「もったいない?」


 ああ、とウィルは頷いた。


「ミラ自身まだこの国で学びたいだろうし、この国に合っている彼女を錬金術のない俺の国に連れていくのは不向きじゃないか? ようやく結社入りして認められたって喜んでるのに、つれていくのはちょっとな」

「この国に合ってるっていったって、その子、反対派筆頭のレヴィってやつと仲いいんでしょ?」

「ミラは反対派のレヴィと仲良くしてるんじゃなくて、クラスメイトのレヴィと仲良くしてるんだ。彼女自身にこの国をどうこうする気概はないよ」


 基本、人には興味のないウィルがわたしたち以外の人を話す姿を見て、わたしはすこし驚いた。

 同じようにベルも少し驚いた顔を浮かべていた。


「あんたが悪口以外を言うのは珍しいわね。なんか悪いもん食べた?」

「失礼だなお前。悪いもん食ってねぇから悪い言葉吐いてねぇんだよ」

「ウィル、やっぱりあの子のこと――……」

「絶対違うぞ!!」


 わたしが疑いの目を向けると、ウィルは目を血走らせて否定した。

 必死過ぎて、怪しいどころか怖いほどに本気なんだと嫌でもわかった。


「疑ってごめんね……それで、その子じゃないなら誰を連れていくの? 錬金部門でベルの次に凄かったミラより凄い子なんて、あまりいないと思うけど」

「そうなんだよなぁ。まあ幸い明日から数日休みだし、その間になんか考えるわ」


 剣錬技大会分の振り替えがあって数日大学はお休み。

 久しぶりのなにもないまとまった休みのことを考えて、ベルは楽しそうに笑った。


「そうだったわね! 明日からなにしよっかなー」


 ウィルの悩みなんて関係ないとばかりに、ベルは休日の予定を考え始める。

 楽しそうな彼女を見て、ウィルもわたしもつられて笑い出す。


「今日は疲れたし、明日に備えてもう寝るか」

「明日はみんなで遊びに行こうよ……この国の普通のところも見てみたい」

「よーし! それじゃあ明日は全部忘れて楽しむわよー!」



マリナ「ベルが幻術で家を隠したけど、二人は魔法で何でもできるの?」

ウィル「俺は【空間】と【雷】の魔法しか使えなくて、それ以外はからっきしだ」

ベル 「まだまだ修練が足りないわね! 大魔法使いのあたしには苦手なものなんてないわ!」

マリナ「でもベルはお化けが苦手」

ベル 「そそそそんなことないわよ!?」

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