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27.閉幕

 

 ♦  ☉  ♦



「つ、強すぎる……」


 目をかっぴらいて息をのむアリータ。

 いや、彼女だけじゃない、会場全部がウィルの放つ怒気と圧倒的な強さ、神気、威圧感に呑まれていく。


「そうですわ……わたくしのお兄様は奪われただけですの……人のために罪を犯したお兄様が一方的に裁かれるなんて間違っていますわ」

「アリータ?」


 隣でぼそっと呟いたアリータ。

 さらに他からもざわめきはあがる。


「そうだよ、この国、おかしいよ。結社と王族が手を組んで好き放題してるんだ!」

「なにが王族よ! このあいだうちの子供も連れていかれたわ! ただ王族の足元に小石を転がしたってだけで!」

「俺の彼女だって連れていかれた! 国のためになれるならって泣きながら連れていかれて、数か月後には娼館送りにされてた! こんなの間違ってる!」


 会場全体が今まで溜まっていた不安を吐きだし、ヒートアップした。

 闘技場の中心で気を失ったセンデリックとその取り巻き達のもとへ、未だ怒気を纏ったウィルは悠然と歩み寄る。

 そこで、大勢の新たな兵士たちが闘技場に現れた。


「そこまでだ! この反逆者が!!」

「センデリック殿下への数々の非礼! ただで済むと思うなよ!」

「お前たちは傷の手当てを! 残りはこの男の相手だ!」


 百は下らない数の兵士たちがぞろぞろとセンデリックたちを保護し、ウィルを囲んだ。


「ま、まずいですわ! いくらウィリアムさんでもあの数は!」


 アリータが観客席から身を乗り出した。

 でも気を付けるべきはウィルだけじゃない。


「貴様ら! 王家への反逆罪とみなすぞ! 静まれ!」


 観客席にまで兵士たちが現れて、あたしたちに剣を向けていた。


「なっ!」


 アリータが驚きの顔を浮かべた。

 他の人たちも自分たちが囲まれていると知り、抗議の声がざわめきに生まれ変わって静かになっていく。

 一気に状況が変わったことで、舞台の中心にいるウィルに兵士がニヤつきながら剣を向ける。


「貴様、大人しくしろ。ここにいる全員無事でいたいならな」


 脅す兵士だけど、でも残念、ウィルにその手のことは通じない。


「殺すなら殺せよ。誰かが死んだら余計にお前らは悪者だ」


 基本的にウィルは人間が嫌い。だから、大多数の命なんてどうでもいい。

 ウィルの言葉に、兵士はさらに愉快そうに笑った。


「我らではなく、貴様の選択のせいで大勢が死ぬのだぞ?」

「殺すのはお前らだろ」


 仮面の口がぱっくりと割れ、その下の笑った口元があらわになった。

 またしても彼を中心に異様な空気が吹き荒れ、対峙する兵士たちが一歩後ずさる。

 ……頃合いかしら?


「アリータ」

「な、なんですの?」

「ここはよろしく、またね」

「え? え!?」


 あたしは観客席から闘技場へ飛び出した。

 落下する直前に、帽子からほうきを取り出して乗り込み、ウィルとマリナの元へ向かう。


「よーっす、ここはあたしの出番だねっ」

「よう、ベルにしては随分と大人しくしてたじゃないか」

「アリータに掴まれてたのよ。ま、でもおかげであんたは無事にマリナと接点が持てたじゃない?」

「そうだな。でもやっぱり俺は普通に知り合いたかったよ」


 そりゃそうよね。

 あたしもウィルも、マリナが傷つくことを許すわけがない。


「目的果たしたんだし、とっとと終わらせましょ」

「うん……これで堂々と三人でいられるね」


 うんうん、マリナが笑ってくれると世界が平和になるねぇ。

 ちょっと頬が赤いのが腹立つけど、あとで思う存分手当てしてあげましょう。

 余計なものを片付けたあとでね。


「お邪魔虫はたいさーん」


 ぱちんと指を鳴らす。

 途端に兵士たちがいる場所すべてで小規模な爆発が起きた。


「なんだ!?」

「おい!」


 目の前にいる兵士、そして……あれ? なぜかウィルまで驚き、あたしに詰め寄ってきた。


「どったの?」

「お前……いま何爆発させた?」

「なにってそりゃあ――」


 あたしは帽子から《かぼちゃ人形(パンプキンドール)》を取り出した。


「この子たちだけど」

「あああああああ! またかぼちゃ地獄があああああ!」


 頭を振り乱し、突如発狂しだしたウィリアムくん。

 あれまぁ、きっとウィリアムくんも疲れちゃったのね。

 仕方ない、ウィリアムくんは今日頑張ったし、帰ったらあたし特製かぼちゃプリンで癒して差し上げよう。


「あぁ……全部こいつのせいだ」


 おっと、ウィリアムくんがおかしくなって剣を持って兵士たちの方へ歩き出してしまった。


「貴様ら! 一体何者だ!」

「全部、忘れてもらう」


 兵士は恐れおののき、剣を振り乱すも、ウィルがひとたたきしただけでみっともなく剣を落としてしまう。

 そのままウィルは兵士の頭をわしづかみにする。


「ここにいる全員の記憶を消してやろう。それなら、無駄な手出しはしねぇよな?」

「な、なにを――」

「お前らを見せしめにしてやるってことだよ」


 言った途端に、


「あががばば」


 兵士ががくがくと痙攣し、口から泡を吹きだした。

 ウィルが手を離すと、糸が切れた人形のように倒れこむ。


「さあ、順にゆっくり消してやるから、大人しく待ってろよ」


 ぱっくりと仮面が割れ、ひどく歪んだ口が露出した。




 ♥  ☽  ♥




 その夜。

 剣錬技大会は、当然続けられるはずもなく中止と相成った。

 この国は【王家】と【結社】が密接につながっている。

【結社】のおかげでこの国は錬金術が発達し、王族のおかげで【結社】は研究に打ち込めるという持ちつ持たれつの関係になっている。

 だからこそ、【王家】に起きたことは【結社】にとってもただ事ではなく、それこそ国の一大事だ。

 結局、目立たない、【王族】や【結社】と関わらないと決めていたのに、ふたを開ければベルは【結社】に気に入られ、わたしは【王族】に気に入られ、ウィルは両方に喧嘩を売った。


「なぁ、今日だけでかぼちゃたちは何体ご臨終だ?」

「えぇっと、ひぃふぅみぃ……132体?」

「うそだろ! 一日三個と考えても二週間はかぼちゃかよ!」


 だけどそんなことは露知らず、王を敵に回したことより来たるかぼちゃに頭を抱えるウィル。

 ベルも【結社】に認められたとかどうでもいいみたいで、特にいつも通りだった。

 ただ――


「みなさん、ことの重大さを理解しておいでですか? みなさんはこの国を敵に回したのですよ?」

「……なんでいるの? ……アリータ」


 当たり前のように机に座るアリータ。

 わたしが聞くと、彼女はやっと気づいたかと言わんばかりに顔を明るくした。


「それはもちろん、皆さんが心配だからですわ! わたくしたち、お友達でしょ?」


 笑顔で言うアリータを一瞥もせずに、ベルは領収書をウィルに差し出した。


「ねぇ、今日のお祝いにかぼちゃたくさん買ってきちゃった。はいこれ領収書」

「お前ふざけんなよ、祝いっつーか呪いだろ。ようやくかぼちゃから解放されたと思ったら、またかぼちゃ漬けの毎日かよ」

「え? かぼちゃ漬け? 煮つけの方がよかった?」

「そうじゃねぇよ!」


 差し出された領収書をひったくるように受け取るウィル。

 アリータがいないかのように華麗に無視する二人に、アリータは涙目になっていく。

 仕方ない、わたしが話を聞いてあげよう。


「それで……学校の方はどうなったの?」

「え? ああ、ルナマリナさん! あなたもわたくしの友達ですよね!」

「違うけど」

「そんな!?」


 早く話せの意味を込めてなにも言わずにじっと見つめると、彼女は少しだけ顔を赤くして咳ばらいをした。


「学校の方ですが、今のところは事態の処理に追われています。みなさんの処分については何も決まっていません。さすがに公衆の面前でルナマリナさんに手を出した王太子殿下の印象は最悪でしたから、もともと王家と距離のある学生と父兄の皆々様は一様に皆さんの肩を持っているようです」


 そっか、この国のことはよくわからないけど、あの王太子がしたことはこの国でも酷いことだったんだ。


「ただ、王家に近しい貴族の方や結社の人たちは当然ながら皆さんを糾弾する動きを見せています。問題は山積みで安心することはできませんわよ?」

「ま、こうなることはわかりきってたし、別にいいだろ」

「……ウィル?」


 ベルと言い争っていたウィルが、ベルと一緒にかぼちゃの煮つけが入ったお椀を手に近くの椅子に座った。


「剣錬技大会に出るってなったときから、大体こんな感じになることは目に見えてたよ。目立ちたがりなどっかの【魔女】がいるからな」

「何言ってんの、優勝しただけでそれ以外は普通だったでしょ」

「持ってるレベルが違いすぎんのが問題だっつってんの」

「危険度マックスなあんたなんているだけで問題でしょ」

「ああ?」

「おお?」


 顔を近づけてメンチ切り合う二人。

 それを見ていたアリータは二人の間に割って入って仲裁しようとした。


「お二人とも、お、落ち着いてくださいまし!」

「「邪魔!」」

「あぶちっ!」


 間に入った瞬間に、アリータは二人に顔面をわしづかみにされ、わたしの方へ突き飛ばされた。


「あぶなっ」

「へぶちっ!」


 結構な勢いで飛んできたから、わたしはとっさにアリータを避けた。

 するとアリータは受け身も取れずに、顔面から床に突っ込んだ。


「いたああい! ルナマリナさん! 避けないで受け止めてくださいまし!」

「あ、ごめん……ちょっと質量が大きくて。どことは言わないけど」

「質量!? どこの!?」


 顔を赤くして涙を浮かべるアリータ。

 床に顔をぶつけて大きな音が鳴ったことで、ベルとウィルは喧嘩を止めてこっちに来た。


「まあ、見るからに重いもんな。一つとも何がとも言わんけど」

「ほんと、その無駄に重たそうな体削ってあげようかしら」

「体だけじゃなく心も重いから……生まれ直さないと治らないかも」

「まず顔打ったこと心配してくれません!? みなさまに優しさはないんですの!?」

「あるわけねぇだろ」


 アリータは涙を拭いて深呼吸し、話を戻す。


「さっきも言いましたが、問題は山積みです。反対派はいずれウィリアムさんを旗頭にいずれ決起し、【王家】も【結社】もそれを決して野放しにはしないでしょう。学校側がどう出るかはわかりませんが、今後、大学は……いえ、この国は荒れることになりましょう」

 


べル 「体と心は重いけど、たぶん頭の中は軽いわよね」

ウィル「間違いなく軽いな。記憶消そうにも消す記憶もなさそうだ」

マリナ「もしかしたらあの肉体は錬金術で、副作用で脳が……」

アリータ「ひどすぎます! 全部天然ものですよ!」

ウィル「自分のこと天然ていうやつは絶対嘘だ」

アリータ「そうじゃなくてー!!」

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