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24.侯爵家と伯爵家


 ♦  ☉  ♦



 午後、いよいよ剣錬技大会、軍術部門。

 ずっと思ってたけど、『軍術』と言ってるのに競うのがただの武勇であるのはいかがなもんか。

 もっと戦術とか、戦略とか、そういうのを軍術っていうと思ってたんだけどさ。

 まあ、普段の講義はそう言ったものもやるらしいから、単純に学部の名前を取ってきただけなんでしょう。

 とにもかくにも、もうすぐ本番。

 錬金術は難しい上に差が出やすい一方で、軍術は単純な武力で敷居が低いということから、学生の多くはこの軍術部門に参加する。

 だから、錬金部門に比べて参加者は多く時間がかかる。


「えっと今から始まるのは、ウィルとマリナのいるブロックじゃないほうね。ってことは、まだまだ先かなぁ」

「そうですわね。このブロックで見覚えのある名前はありますか?」


 アリータが組み合わせ表を見せてくる。

 うへぇ、多いなぁ。

 ざっと錬金部門の二倍はありそう。

 もしかしたら明日までかかるかも。

 ウィルとマリナは目立たないようにするって言ってたから、優勝はしないと思うけど、もし勝っちゃったら明日も一日潰れちゃう。

 時間は有限なのにねぇ。

 でも仕方ない、どうせ見なきゃいけないなら何か価値を見つけなきゃ。

 組み合わせ表で、聞いたことある名前を探す。


「ん? ルイス?」

「ルイスさんですか。さきほどのルナマリナさんのチューターですわね」

「さっきのむかつくやつね」


 さっき初めて話したばかりの青髪の大男を思い出す。

 思い出しただけでなんか腹立った。

 あたしは別にアリータを友達だと思っているわけじゃないけど、知らない仲でもない。

 目の前で知り合いを馬鹿にされて気分が良くなるわけがない。

 知り合いを馬鹿にされて気分が良くなるのは、性格最悪のウィルだけよ。


「あいつ、痛い目見ないかな?」

「残念ながら、それは難しいですわね」

「そうなの?」


 アリータが悔しそうに眉をしかめた。


「ルイスさんのお家はナサニエル伯爵家というんですけれど、この家は代々王家の懐刀として武勇で名を馳せた名家ですの。そしてルイスさんは、その名家でもあの歳で歴代最強と呼ばれるほどの天才。生まれてから一度も負けたことが無い怪物ですわ」

「なるほど。あんなんでもチューターになるだけの実力はあるってことね」


 もっともチューターに求められる能力自体は最悪だけどね。

 アリータと一緒であいつも友達いないわね。


「あ、でもルイスさんと初戦で戦う人もなかなかにお強い人ですわよ」

「え?」


 アリータに言われ、組み合わせ表に目を落とす。


「レヴィ・ユトレヒト?」

「この人も名家の出ですの。ベネラクスでも有数の大貴族ユトレヒト侯爵家の長男で、知勇ともに優れております。またカリスマもあるようでクラスでは人気があるようですわね」

「ふーん」


 なんだかどっちもいけすかないねぇ。

 ま、どっちを応援するかと言ったら、レヴィって方だけど。

 いやまって、侯爵家なんて大貴族なんだからお金はあるのよね? 

 そっちも大概嫌いね……。


「特進ってことはウィルと同じよね。何か知ってるかな?」


 会場内をきょろきょろ見渡してみるけど、人が多いからか、あの目立つ仮面男も見当たらない。


「参加者は皆さんもう下に行ってらっしゃいますので、話すのは難しそうですわね」

「そっか。ま、とりあえずどっちが負けても面白そうだから、この試合を楽しみにしておこっかな」

「ウィルベルさん……案外性格悪いんですのね」


 失礼な、あたしは性格も見た目も全部美しいで有名なのに。

 性格の悪さは全部ウィルのものなんだから。

 ま、でも――


「もしウィルが優勝しようとしたら、あの男の負け顔も拝めるのにねぇ」


 いかんせん、目立ちたくないと言ってるから、優勝しようとしないのがいかんとも悔しい。


「ウィリアムさんって……お強いんですの?」


 おっと、アリータはあまりウィルのことを良く思ってないんだったね。


「はっきり言うと、学生レベルじゃまず話になんないわ。剣だけでもたぶん国落としができるんじゃないかしら」

「そ、そんなにですか?」

「ま、その分今まで苦労してんのよ」


 そこまで話したところで、会場中心に審判が現れ、開始を宣言した。

 そしてまた錬金部門と同じように舞台袖から出場者がでてきて、名前を呼ばれたら歓声が上がる。

 試合が始まり、打ち合い、決着がつくとまた歓声が上がる。


「軍術は錬金と違って道具が無くて剣だけだから地味だねぇ」

「そうですわね。やはり錬金が花形ですから人気が高いですわね。ですが軍術も近衛騎士といった名誉の高い役職に任命されることもあるので、軍術もかなり人気が高いですわよ」


 あたしとしては派手なほうが好きだから、軍術は無しかなぁ。

 そんなことを考えながらも、どんどんと試合は進む。

 地味だしご飯食べた後だし、日差しもあったかいから眠くなってきた。

 いっそ、あのウィルとマリナの出番までのんびりお昼寝でも――


「あ、来ましたわよ、ウィルベルさん。ルイスさんとレヴィさんです」


 おっと、お呼びでない二人の試合がやってきた。


『次の対戦はベネラクスが誇る大貴族! ユトレヒト侯爵家長男のレヴィ・ユトレヒトォ!』

『ヲオオオオオオオ!!!』

『対するは、王家直属剣術指南役のナサニエル家歴代最強と名高い天才剣士、ルイス・ナサニエルゥ!!』

『ワアアアアアアア!!!』


 二人の名前が呼ばれるたびに、この日一番くらいの大歓声が巻き起こる。


「あの二人って注目されてんのね」

「ええ、2人とも有名人ですから。それも因縁のある」

「因縁?」


 ええ、とアリータは舞台から目を離さず言った。


「ユトレヒト侯爵家は以前から王家の反対派として有名なんです。謀反を起こすまではいきませんが、現体制に不満を持つ者の代弁者のような立場の家ですね」

「ほーん」

「一方でナサニエル家は古くから王家にもっとも近い位置で現体制を維持してきました。もはや盲従といってもいいほどに、彼らは国家に忠誠を誓っています。なので二つの家は古来よりずっといがみ合っているのです」

「へーん」


 丁寧に教えてくれるアリータ。

 なるほどねぇ、この国のごたごたに首ツッコむ気はないけど、見世物としては十分かな。


「がんばれー」


 棒読みで小さな声で言った。

 どっちを応援してるかって?

 頑張ったうえで負けることを応援してる。つまり両方。


『はじめ!』


 そしていけすかない二人の戦いが始まった。




 ♥  ☽  ♥




 選手控室から、ルイスとレヴィの戦いを見守っていた。

 ルイスはよく知ってるけど、レヴィって人の方はよく知らない。

 ただあまりいい印象はない。

 だって初日にウィルに絡んでたから。ウィルはものともしてないし、彼自身が絡まれやすいというのもあるから、嫌いとまではいかないけど。


『はじめ!』


 開始の合図。

 しかし二人はすぐに打ち合うことはせず、剣を構えたままじりじりと睨み合う。


「フッ、この日を楽しみしていたよ。レヴィ・ユトレヒト。不忠義者の一族」

「俺も待っていた。貴族の義務も忘れた国家の犬にしつけができるこの時をな」


 不敵に笑う二人。

 そして姿が消えたのかと思うほどの速度で、互いに斬り合った。

 訓練用の木刀がぶつかる高く鈍い音。

 その合間に聞こえる二人の会話。


「お前もアリータと同じだ。この国に害をなす裏切者。それに知っているぞ? お前、転校生に初日から絡んで、大勢で囲んだあげくにボロ負けしていたな」

「よく知っているな。盗み見とは国家の犬らしく随分と高尚な趣味をお持ちのことだ。それで? それの一体どこがこの国に害をなしていることになる?」

「害しかないぞ、痴れ者が」


 ルイスの顔が怒りで歪み、剣を強く振るう。

 それだけで、レヴィ・ユトレヒトは後ろへ弾かれ、たたらを踏む。


「くっ」

「この国に負け犬も犯罪者もいらない」


 ルイスは隙を逃さず、一気に踏み込んだ。

 固い石材でできたはずの舞台がへこんでひび割れるほどの強い踏み込みで、一瞬で懐に入り込む。


「アリータも君も他国からの転校生に負けるなど論外だ。この国を教え、導くのがチューター。彼らは学びに来ているんだ。僕たちが負けては、この国に価値が無いと思われる」

「ちっ! そんなもの、貴様の理屈だろう!」

「僕の理屈は国家の意思に基づいている。むしろ反逆者である君の意思の一切は、僕の剣の元、一刀に伏される運命だ」


 ルイスが一歩踏み込むたびに、地面がひび割れへこむ。

 それほどの強い踏み込みで放たれる一撃一撃によって、レヴィの剣はどんどんど大きく弾かれ、態勢を崩されていく。


「この国は間違っている! 王家の武力や脅しに物を言わせた脅迫政治で国はどんどんと腐敗が進み、人心は離れている! そんな王家を正すことは、俺達貴族の義務だ!」

「違う! 王家の崇高な志はただの一介の貴族には理解できない高尚なものだ! この世界には人知を超えたものが存在する。それを王家は持っている! 故に! 僕たちはただ従うのみだ!」


 激しくなる剣戟と舌戦。

 でも形勢はどんどんと傾いていく。


「国家の犬が!」

「この負け犬が!」


 思い切り振り下ろされるルイスの剣を、レヴィは剣を横にしてまともに防ぐも――


「ぐぅ!!」


 防いだ瞬間に、レヴィの木剣が砕け、彼の肩口を強く打った。

 レヴィは吹き飛び、尻もちをついた。

 わたしは身をもって知っている。

 ルイスの剣は、とんでもなく重い。

 軽く放った一撃が渾身必殺の一撃のように鋭くて重く、打ち合っただけで弾かれてしまうほどの威力。

 ――これがベネラクスが誇る天才剣士ルイス・ナサニエル。


「王家には人知を超えた存在――【神】が付いている。僕はその神性を信じている」


 ルイスは地面に膝をついたレヴィの首へ木剣を突きつけた。


「【神】だと?」

「そうだ。この世界に人知を超えた物は存在する。貴様も知っているだろう。【加護】と呼ばれる【神気】が人の意思によって具象化する現象を」

「【加護】……」

「アレを見れば、お前も王家への忠誠を新たにすることができるだろう。そして、その王家が探し求めてきたものがようやく見つかった」


 ルイスは剣を突きつけながら、レヴィから目を逸らし、ある場所を見た。

 その視線の先は――


「ルナマリナ嬢。僕の女神。彼女には他の人にはない【神性】がある」


 袖で見ていたわたしに視線が注がれていた。

 一瞬、体に鳥肌が立った。


「この後にある彼女の試合を見れば、きっとお前も理解するだろう」

「……狂っている。貴様もこの国も」


 悔し気に吐き出したレヴィ。


『勝者! ルイス・ナサニエル!』


 ――決着はひどく圧倒的な結果となった。



ミ「お二人がいないと寂しいなぁ」

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