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23.美しき希望

 

 ♦  ☉  ♦



『~であるからして~~優秀な諸君の今後の健闘を~~』


 はぁ~、理事長だかの話長いなぁ。

 表彰式の間、ずっと立ってるだけなんてつまんない。

 時間の浪費だなぁ。

 立って待っている間、ちらりと横を見る。

 呼ばれたのは、あたしと準優勝者、あと三位の人とあたしが初戦で戦ったミラって子他数名。


『~~であるからして~~みなさんの未来に幸多からんことを』


 理事長が小さく会釈をし、ようやく話は終わった。

 今度は校長が出て、傍に控えるように教頭がやってきて、メダルと賞状を順に手渡される。


『特進学部第二学年ミラ。結社《《竜が穿つ地(ドラグマ)》より育成研究員として招待されました。ここに招待状とメダルを授与します』


 告げられた瞬間に大きな歓声と拍手、笛が鳴る。

 最初に呼ばれたのは、あたしと初戦で戦ったミラって子。

 まあ順当ね。あの子が呼ばれなかったら、ここに呼ばれるのはあたしだけになっちゃうし。

 ただそれとは別でアリータのことが気になる。

 拍手も歓声もなかったし。

 気になることはいくつかあれど、式自体は順調に進んでいく

 そしてようやくあたしの番が来た。


『優勝、錬金術部第二学年ウィルベル・ソル・ファグラヴェール。優れた知識と知恵を称し、ここに表彰状とメダルを授与します』


 目の前に職員が来て、あたしに賞状とメダルをくれる。

 ほほう、このメダル、金ぴかで綺麗ね。

 売ったらいくらになるのかな……。

 あれ、そういえば、あたしが欲しいって結社はどこかしら。


『ウィルベル学生を特別研究員として招待したい結社が1社、ほか育成研究員として招待したい結社が8社います』


 ほっほー、多いわねぇ。

 あたしと同じことを思ったのか、会場全体に歓声があがった。


『特別研究員として招待したのは、《美しき希望(カルミア)》』


 一瞬で歓声はどよめきに変わる。


「え、なに?」


 戸惑いつつも、招待状をいくつか受け取る。

 一番大きく立派なのは、さっき言われた《美しき希望(カルミア)》って名前の結社。

 他の結社はもう少し小さい。


『ではこれにて、表彰式を終わります。表彰されたものは結社と入念に相談の上、今後を決めてください。他の学生も大変すばらしい戦いでした。来年の錬金術部門も楽しみにしております!』


 閉幕が宣言され、また再び大きな歓声が起きた。

 あたしのときのどよめきはなんだったのかしら。

 《美しき希望(カルミア)》……ちょっと調べてみようかな?




 ♠  ♁  ♠




 表彰式でベル、ミラが見事に称えられた。

 終わった後、ミラが笑顔満面で俺たちの席に戻ってきた。


「や、や、やりました!! ウィリアムさん、レヴィさん! わたし、ついに【結社入り】を果たしましたよ!」

「おめでとうミラ。これで君も平民ともう揶揄されることはないだろう。十分に夢への第一歩を踏み出したじゃないか」


 気心知れた友人のように感動を分かち合う二人。

 ただ当然のごとく、俺は結社入りの魅力を知らないので置いてけぼりだ。


「【結社入り】ってそんなにいいことなのか?」


 聞くと、二人は一瞬きょとんとした。

 二人は数瞬沈黙したのちにあぁ、と相槌をうつ。


「ウィリアムは知らなかったな。【結社入り】というのは一つのステータスなんだ。とはいえ、【結社入り】と呼ばれていても結社に入っていない者もいる。要は結社に入れる実力がある、という証明なのさ」

「ほら、見てください。このバッジ」


 ミラが表彰式で受け取ったメダルを見せてくる。

 それは竜の牙と爪が彫られた金色のメダルだった。

 ……売れば結構いい値段がつきそうだな。


「このメダルは一種の実力の証明なんです。この結社はあなたを認めましたっていう。それでもしうちの結社に興味があったら確約で歓迎しますっていう招待状がこれです」


 なるほど、つまり内定はもらったけど入るかどうかはお好きにどうぞ、いつでも門戸は開けています、ということか。

 自身の価値の証明ならば確かに悪くない。

 ただもう一つ、気になることがある。


「なあ、さっき不自然なざわめきがあったろ? 《美しき希望(カルミア)》ってなんだ?」

「……」

「……」


 聞いた途端に二人は黙る。


「一言で言うと、そうだな。この国最大のすごい結社だ」

「ふーん、すごいな」


 なるほど、今の反応で大体わかった。

 この国の最大手ってことは、ベルはとんでもないところに招待されたらしい。

 ただ、レヴィたちにとってはそういう(・・・・)結社なんだろう。


「そ、それはそうと、お昼の時間ですよ! 午後からお二人の出番ですから、一杯食べて力を付けましょう!」

「それもそうだな。せっかくみんなでお弁当を持ち寄ったのだ。みんな分け合って食べようじゃないか」


 こいつら、小学生か。

 持ち寄ったお弁当シェアて。

 本当にこの間まで仲悪かったのか? 特にレヴィ、お前侯爵家がどうのこうの言ってたし、あの傲慢な感じがかけらもないぞ。

 いや、そんなことよりもだ。


「俺の弁当は決してやらん」


 マリナが作った弁当、これは全部俺が食べる!

 言うと、二人は悲しい目で俺を見てきた。


「ああ、うん……全然かまわないぞ? むしろ……大丈夫か?」

「あ?」

「わたしたちにはいいですけど、わたしたちの弁当は自由に食べてくださいね? もう、ほんとに、遠慮なく……」

「は?」


 こいつら、なんで俺を憐れむ目で見やがる。

 ははーん、そうかわかったぞ。この弁当が食いたくてたまらなくてうらやましくて、その感情を押し殺そうとしてそんな顔になったんだな?

 ふっ、マリナの弁当が羨ましいのは仕方あるまい。

 気持ちはわかるが、こればかりは俺の特権。

 決して2人には譲るまい。


「さあ飯にしようか。午後も楽しみだな」


 ――このあと、それなりに楽しくお弁当を食べました。

 ただ気のせいだろうか、食べるのに気合を入れすぎてマリナの弁当の味がわからなかった。

 でも多分美味しかった。

 そのあと、やたらとレヴィとミラが自分たちの弁当を食わせようとしてきた。

 不思議と二人の弁当の味もわからなかったが。




 ♥  ☽  ♥




「ルナマリナ嬢、一緒にご飯を食べようじゃないか」


 お昼になった途端に、ルイスがわたしの元にやってきた。


「いや……いい」

「そういわずに!! さあ、いい場所を確保してあるんだ。さあさあ!」

「え、ちょ……」


 わたしの意見も通らず、ぐいぐいと腕を引っ張って連れていくルイス。

 彼はいつも強引だ。


「ちょっと……わたしは他の子と食べるからっ」

「なんだって? それじゃあ僕もいこう。案内してくれないか?」

「いや、来られると少し困る……」

「そんな冷たいことを言わないでくれ」


 どうにもルイスを引きはがすのは無理らしい。

 今までは何をすればいいのか、鍛錬以外にやりたいこともなかったからチューターの彼といたけど、今はベルがいてくれる。

 せっかく知り合った(てい)だし、二人でご飯が食べたいのに。

 仕方なく、ルイスと一緒にベルとの待ち合わせ場所に行くことにした。


「あ、来た来た、ってあれ?」


 待ち合わせ場所の練武場から離れた人気のない木陰に行くと、ベルとアリータがいた。

 ベルはわたしの後ろにいるルイスを見ると、露骨に顔をしかめた。


「ちょっとちょっと」

「ん?」


 ベルが手招きするので、わたしは駆け寄って耳を寄せる。


「ねぇ、なんでいるの?」

「振り切れなかった……どうしてもついてこようとしてくるから」

「これはあれね、ストーカーね」

「……やっぱり、そうなのかな」


 本人の意思に反して執拗に付きまとってくる人をストーカーと呼ぶ。

 ルイスにはその気がある。


「……ベルの方もアリータがいるみたいだけど」

「あたしも置いてこようと思ったんだけどさ。ほら、マリナ、アリータの時に応援してくれたでしょ? そのお礼が言いたいんだって。だから、ね?」

「そっか……別にいいのにね」


 まあ、アリータは知らない仲じゃないし、いいかな。

 そのまま流れで、四人でテーブルを見つけて座り、各々のお弁当や食事を広げて食べはじめる。


「そういえばルナマリナさん、先ほどはありがとうございました。応援、とても嬉しかったですわ」


 合間に、アリータが律儀に食器を置いて、座ったまま慇懃にお礼をしてきた。

 わたしは笑った。


「アリータ、頑張ってたからあのくらい――」

「そうだ、ルナマリナ嬢に感謝したまえ。衆人環視の中で君を応援した勇気はそうあるものではないからな」


 わたしの言葉を遮って、ルイスがぶっきらぼうに言った。


「ルイス……」


 ルイスに非難の目を向けるけど、彼は一切取りあってくれない。

 彼に言われ、アリータは若干居心地悪く体を縮こませた。


「そう、ですわね……ルナマリナさんには存分に感謝しなければいけませんわ」

「様をつけろ。そしてもう一度あるとは思わないことだ。次からは自力で頑張りたまえ」

「ルイスっ」


 強めに呼んでも、ルイスはやめない。

 それどころか、彼の矛先はベルに向いた。


「君もだ、転校生」

「あたし?」

「君は彼女と仲良くしているようだが、やめたほうがいい。君にまで悪評が移るからな。王族御用達の大手結社《美しき希望(カルミア)》に招待されたんだ。次からはその結社に頼るといい。僕にも《美しき希望(カルミア)》には伝手がある。サポートできるよ」

「あっそ」


 ルイスの話にベルは適当に相槌を打った。

 それが気に入らなかったのか、ルイスは眉をしかめた。


「話を聞き給え。そしてアリータ嬢、君もチューターならば自分のことを話すべきだ。この国のことを教えること、それ即ち君の身内の事件のことも話さなければいけないだろう」

「それは……学業には必要のないことです」

「学業に必要ない? 歴史を知ることは学業には必要だ。ましてやアレは錬金術の扱い方を学ぶ必要性を教えてくれる事件だろう。そんなこともわからないから、君は平民にすら後れを取るんだ。はっきり言おう、君にルナマリナ嬢の応援を受ける資格はない」

「――っ」


 ルイスに言われ、アリータは俯き唇をかみしめた。

 そのとき――


「もういいわ」


 バンッとベルが机を叩くように箸をおいた。


「気分が悪い。あたしたちはここに交友を深めにきたの。なのに、お呼びじゃないあんたが無理やり入ってきてかき乱すなんて、いったい何のつもりかしら? 女の子に嫌われたいの?」

「何を言ってるんだい? 僕はルナマリナ嬢のチューターであり騎士だ。一緒にいるのは当然だ。それに僕は君たちのためを思って――」

「あたしたちのこともろくに知らないくせに、よくもあたしたちのためだなんて言えたもんよね」


 珍しく本気でイラついたベル。

 彼女はお弁当を包むと立ち上がり、そそくさとどこかへ行ってしまった。


「あ、ちょ、ウィルベルさん!?」


 アリータもベルを追ってどこかへ行ってしまった。

 わたしもベルと一緒に――


「いかないほうがいい」


 行こうとしたら、ルイスに腕を掴まれた。


「……離して」

「それはできないな。それにもうすぐ昼休みが終わる。午後に出番がある僕たちはもうそろそろ準備をしなくてはいけないよ」

「……」


 さっきとは違い、一見してさわやかで含みのない笑みを浮かべるルイス。

 今日、また感じたこの感覚。


 ……きもちわるい。


 わたしは一度ベルたちが歩いて行った方を見るけど、もうすでに二人の姿は見えない。

 それにルイスの言う通り、もうすぐ時間だ。

 仕方ない……戻ろう。

 午後、ウィルと接点が持てたら、相談してみようかな。



~昼休みのウィリアムたち~

レ「さあ、ウィリアム! 口を開けて俺たちの弁当を食え!」

ミ「ちゃんとしたもの食べないとダメです! 手遅れになる前に!」

ウ「やめろ! この弁当だけで俺は普段以上の力が出るんだ!」

レ「無理だ! 目を覚ませ!」

ミ「正気を失ってます! 早く食べさせないと!」

ウ「やめろぉおおおお!!」

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