22.フェスティバル
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目の前にいる眼鏡をかけたピンク髪のおさげの子。
ミラって名前の、確かウィルのチューターの子はたしかにとても優秀みたい。
火力と速度、そしてあたしの体すれすれを狙う正確性と操作性。
ふむふむ、きっとこの子は決勝まで行けたことでしょう。
でも残念、初戦であたしにぶつかったのが運の尽き。
さあさあ、あたしが詰んだと思ってるすべての人へ。
魔女の力を見せてあげましょう。
「《模倣・魔女の悪戯》」
持ってきた袋から、ぽんぽんぽんとかぼちゃ人形たちがやってくる。
そのかぼちゃたちの手には、色とりどりの水晶があった。
青い水晶を持ったかぼちゃたちが上空へと上がり宝石を輝かせると、途端に頭上から滝のごとく水が降り注ぎ、あっという間に炎の壁を消していく。
「え! そ、それじゃあ、えっと、《貫通閃》!」
おっと、目にもとまらぬ貫通性の高い弾丸。
こればっかりは仕方ない。
「いけ!」
掛け声とともにかぼちゃたちが一斉にあたしの前に出て守ってくれる。
弾丸がかぼちゃたちに吸い込まれ、一斉に爆発した。
「――ぁぁああああああああ!!」
うん? なんか今観客席から絶叫が聞こえた気がするよ?
「え? 何が起きたんですか? えっと、もう一回! 《貫通閃》!」
おっとまた弾丸。
「いけかぼちゃたち!」
また飛んで言って弾けるかぼちゃたち。
「――やめろおぉおおお!! 撃つなミラあああ!! かぼちゃがああああ!!」
うん? この声、どっか聞き覚えがある気がするねぇ。
「この声は、ウィリアムさん? ……何を言っているのか聞こえませんが、わたしを応援してくれてるんですね! わたしに期待してくれるなんて……負けられません! いきます!」
おっと、声の主はウィルだったらしい。
かぼちゃがどうこう叫んでたから、またたくさん買ってあげましょう。ちょうど今の出ドールが減っちゃったし、補充にちょうどいいね。
「行きます! 《全態放射》!」
またがちゃがちゃとミラがグリップを回し、背後にある液体が蠢きだした。
「わお」
出来上がったのは、巨大な塔が二つ。
塔の上部がチカッと光ると――
「――わわッ!?」
一瞬であたしの足元がドロっと溶け、塔からつららのような鋭い氷の槍が打ち出される。
そして地面の熱と氷の槍が触れた瞬間に強烈な爆発が発生した。
爆発は絶えず、上から氷がやってくるたびに発生する。
まるで絨毯爆撃。
溶岩のようでどんどんと悪くなっていく足場に、降り注ぐ氷の槍、そして避けても発生する爆発。
水蒸気爆発で生まれた蒸気によって視界すらも悪くなっていく。
「なるほどなるほど~、これは優勝間違いなしだねぇ」
こんなの、あの塔を破壊しない限りはまず勝てない。
そんでもって、あの塔に近付こうとすればするほど回避するのが難しくなる。
「でもやっぱりあたしには関係なーし」
あたしは帽子から箒を取り出し、またがった。
このほうきもまた錬金術で作ったちょっと浮くくらいの箒でしかないけど、十分に使える。
ホウキに乗ったあたしの頭上には、赤い水晶を持ったかぼちゃが随行して降り注ぐ氷柱を溶かし、足元には青い水晶を持ったかぼちゃが地面を冷やしていく。
あたしは攻撃を防ぎながら、ゆらゆらと舞台の上を回遊する。
「逃げてばかりですか? あなたの錬金術の腕はわたしでもできないようなすごいものばっかりです。でも、わたしに近づけないなら勝てないですよ」
「そうだねぇ、普通ならそうだろうねぇ」
「っ!?」
ミラはびくっと驚きながら警戒し、周囲を見やる。
でも見渡す限りは何もない。
「ハ、ハッタリですか?」
「大丈夫、今から見せてあげるから」
あたしは帽子をとって、ミラに向けた。
「さあさあ、人形たちの祭典でござーい!」
帽子から次々と《かぼちゃ人形》が飛び出し、次々とミラへ殺到していった。
「ッ! それなら!」
ミラが両手に持ったグリップのダイヤルを高速で回すと、銀の塔は《かぼちゃ人形》を直接狙う。
いくつかの人形は氷の槍に貫かれて爆散するけど、赤い水晶を持った人形は氷を溶かして、そのまま塔へ近づいていく。
「ま、まだ!」
ミラも即座に対応し、またグリップを回す。すると今度は炎の弾丸が飛んできて、赤い水晶を持っていた人形を破壊した。
だけど今度は、青い水晶を持っていた人形を倒せなくなった。
「それなら!」
ミラはまたがちゃがちゃとダイヤルを回す。
今度は、銀の貫通性の高い弾丸だった。これには水晶の色なんて関係なく人形たちは爆散していく。
だけど、人形たちが持っているのは水晶だけじゃない。
「盾まで!?」
人形たちの中にはただ頑丈な盾を持つ者もいた。
その人形たちの陰に影に隠れるようにして、水晶を持った人形たちも塔へと近づいていく。
「な、なら!」
ミラはまた炎や氷の攻撃をしようとするけど、そのたびに対応する人形が前に出て、他の人形を守っていく。
人形が入れ替わるたびにミラは攻撃方法を変えるけど、対応が追い付かなくなり、ついにあたしの人形たちがミラの銀の塔に取りついた。
「ふぇすてぃばーる!」
あたしが指をパチンと鳴らすと、塔に取りついた人形たちが一斉に爆発し、塔を丸ごと吹き飛ばした。
「きゃあああ!」
ミラは驚き、咄嗟に頭を守って地面に伏せる。
ばらばらと銀の破片が落ちて、びちゃりと湿った音を立てた。
「ぅ……」
破片が全て落ちきり、ミラが顔を上げたとき。
「まだやる?」
あたしは笑って彼女の頭に《かぼちゃ人形》を置いた。
「……っ」
彼女の顔がくしゃりと歪み、あご下にしわがより、瞳にたちまち雫が溜まる。
ぎゅっと、地面についていた手を握りしめ――
「参りました……」
俯いて、そういった。
地面にいくつかの雫ができた。
『勝者、ウィルベル・ソル・ファグラヴェール!!』
審判の宣告。
瞬間、割れんばかりの大歓声が巻き起こり、会場全体を震わした。
「ありがとう、いい勝負だったわ」
「……ぅ、そ、そうですかね……わたし、あなたに一撃も入れられませんでした」
「いや、あんたの一撃でも入ったらあたし死んじゃうし」
手を差し出すと、ミラは涙を拭って手を取ってくれた。
まだ目は赤いし、鼻はぐずってるけど、目はちゃんと前を向いていた。
「あの……お、お願いがあるんです!」
「え?」
落ち込む彼女だったけど、あたしを見て姿勢を正した。
「私に、錬金術を教えてください!」
おぉ……。
少し驚いた。
彼女は自分を負かした相手に、素直に教えを乞うことができる強さを持ってる。
こういう子は絶対伸びる。
「もちろん、仲良くしましょ。きっと凄いことができるから」
握手をして、あたしたちは一緒に舞台を後にした。
「そういえば、わたしチューターしてるんです。ウィリアムさんって方なんですけど、凄い人なんですよ。ウィルベルさんと同じ転校生ですし、きっと気が合うと思います!」
「え、あ、うん……そうね……気が合うかもねぇ」
ミラの言葉に、あたしは目を泳がせるしかなかった。
あいつと気が合うなんて言われても、全然嬉しくない……。
ま、なんにしろ、おそらくアリータよりも強いミラに勝った今、あたしの優勝は間違いなしね。
ウィルとも接点を作ったし、あとは消化試合。
気楽にやるとしましょうか。
♠ ♁ ♠
「あぁぁぁぁ……いやだ、いやだ……」
観客席で頭を抱える仮面男。
「ウィリアム……そうか、ミラが負けたのがそんなにショックか。わかる、俺も今、ものすごく悔しい……」
俺の肩に手を置くレヴィ。
いつもならここで鳥肌が立つが、今日ばかりは気にならなかった。
そんなことよりも嫌なことがたくさんだ。
「あんなにかぼちゃ爆発させんじゃなねぇよ。またあのかぼちゃ地獄だ……。かぼちゃ煮つけ、かぼちゃ鍋、かぼちゃ照り焼き、かぼちゃ天、かぼちゃプリン、かぼちゃパイ……」
「うぃ、ウィリアム?」
「あぁぁぁあああ!! マリナの弁当がああ! 食えなくなる!!」
「うぉお!?」
あの体から放たれるかぼちゃ臭。
部屋中に染みついたかぼちゃ臭。
脳裏に深く刻まれたかぼちゃ臭。
「なあレヴィ……かぼちゃは好きか?」
「かぼちゃ? まあ、嫌いではないが……かぼちゃがどうした? さっきの戦いで食べたくなったのか? 今度食べに行こうか?」
「いや、既に嫌いというか、食らいすぎというか……」
ため息が漏れる。
心なしか、自分のため息すらかぼちゃの匂いがした気がした。
「レヴィ、俺はちょっと外すから。ミラにはうまく言っといてくれ」
「あ、ああ。わかった」
ああ、かぼちゃの呪いがまた始まるのか……。
いや、待てよ。チューターどもを巻き込めば楽に事が収まるかも?
♠ ♁ ♠
少し保健室で惰眠を貪っていると、会場が揺れるほどの大歓声で目が覚めた。
「うるせぇ……気持ちよく寝てたのに」
程よく人がいない心地いい保健室のベッドから出る。
ちなみに保健室と医務室は違くて、この大会で怪我をした学生は医務室の方に運ばれる。
そのおかげで保険の先生はいないし、体調の悪い学生もいない。
完全貸し切りだ。
人混みばかりの観客席より断然いいから、いつの間にか結構寝てしまったようだ。
さすがにまずいと思い、観客席に戻る。
戻ったとき、ちょうど決勝戦が終わったところだったらしい。
『勝者はウィルベル・ソル・ファグラヴェール!! つまり今大会剣錬技大会錬金部門優勝は~……謎の転校生! ウィルベル・ソル・ファグラヴェール!』
会場全体が比喩抜きで揺れる大歓声。
思わず耳を塞いでしまった。
「面白みのない。結局、レオエイダンに行かなきゃ新しいことは学べないか」
目的を再確認して、自席に戻る。
すると――
「ああ! ウィリアムさん‼ ごめんなさい! わ、わたし、わたし……負けてしまいました!」
「ミラはよく頑張った! あれは相手を称賛だ! ミラの仇は俺が討つ!」
「わたし、死んでません!」
二人が泣きながら縋りついて来た。
涙を流して俺の服に抱き着いて来たので、全身に鳥肌が立った。
「わかったから離れろ!! また保健室送りにする気か!?」
「あ、ああ、わかった」
「ウィリアムさん……わたしのために心配して泣いてくれたんですね」
いや、違うけど。
こいつら、勘違いひどすぎないか。
二人を引きはがして自席に座る。
決勝が終わると、表彰式にそのまま移るらしく、舞台の上に次々とかっちりとした服装に身を包んだ大人が現れる。
すると、大人の一人が拡声器を使ってアナウンスした。
『追加の招集を行います。錬金術部二年ミラ。以下―――』
何故か初戦で負けたミラに呼び出しがかかった。
「こ、これって!!」
「やったなミラ! 君の実力が認められたぞ!」
「やりました! ウィリアムさん、レヴィさん! 行ってきます!」
呼び出しで盛り上がる二人。
そのままミラは駆け足で観客席から飛び出して、舞台袖に繋がる通路を駆け下りていった。
「なんだ?」
「前に言っただろ? この大会には王族や結社が来ている。錬金部門では主に結社がスカウトや共同研究のために視察を行っているんだ。表彰式には、優勝者以外にも結社の眼鏡にかなったものも呼ばれるんだ」
「ふぅん……」
なるほど、てっきりあとで個人的に声をかけるものだと思っていたが、こんな大々的にするものとは。
……これはなおさら面倒だ。
というか、ベルは目立つなっつってんのに、ホントに優勝しやがった。
気まま極まりないな。
……ま、そんなものは出会ったときから知ってる。
小言は言えど怒ることはもうしない。
ただ、面倒ごとは覚悟しないといけないかもな。
『これから表彰を始めます。まずは理事長のあいさつ、その後に表彰と結社からのオファー発表です』
表彰式も長くなりそうだ。
べ「お近づきのしるしに、はいこれ、かぼちゃ一年分」
ミ「わあ! ありがとうございます! こんなにいただけるんですか!」
べ「受け取ってくれると助かるわ。最近かぼちゃばかりで嫌になってる奴がいるから」
ミ「喜んでいただきます! せっかくなのでウィリアムさんにも分けようと思います!」
べ「あ、これ結局あいつが食べるだけじゃん」




