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21.最低の妹

 

 ♥  ☽  ♥


 剣錬技大会、錬金部門初戦。


 ベネラクス錬金大学校は多くの学生がいて、学年は三学年まである。

 一応全員ではなく希望した学生が出場するから、実はそこまで多くない。それでも各部門百名は決して下らないけれど。


「まずは錬金部門だ。お手並み拝見と行こうか」


 隣にいるルイスが腕を組み、不敵な笑みを浮かべて言った。

 ちなみにベルとアリータは控室に行ってしまったのでここにはいない。

 いきなりベルが話しかけてきたのには驚いたけど、一緒に居られて嬉しい。

 ただすぐに錬金部門で席を離れるとわかったとき、ベルは凄く悲しい顔してたけど、午後はわたしが出るからベルといられないし、実はあまりこの時間に知り合う利点は薄かったりする。

 ウィルより先に仲良くしようとしたんだろうけど、詰めが甘いのはベルらしくて可愛らしい。

 組み合わせ表の写しをみると、ベルとアリータは最初の方で2人とも近い。


「お、始まるぞ」


 ルイスの言葉で、わたしの意識は練武場に引き戻される。

 コロシアムのようになった練武場の舞台の上に、二人の学生が入ってきて、名前を呼ばれた瞬間に、会場から盛大な拍手と歓迎と応援の声が上がる。

 両手を挙げて歓声にこたえながら入ってくる二人の後ろには、いくつもの武具や防具、よくわからない道具がたくさんあった。


「錬金術は道具を扱うからね。自分で作った道具の持参が許されているんだよ」


 隣に座るルイスが言った。

 自らが作った道具を装備した出場者二人は、舞台の中央で向かい合う。

 そして中央にいる審判から開始の合図がされると二人は駆け出し、道具を取り出し、次々とぶつけ合った。


「わぁ!」


 背後にある道具から炎や氷、水、風、よくわからない光の刃が放たれたりと激しい戦いが繰り広げられる。

 怪我をしないか不安だけど、各人防御にも道具を用いているみたいで、放たれる攻撃があらぬ方向へと弾かれている。


「これが……錬金術」

「そう、道具で不思議な力を起こす技術だ。錬金術部にいる者たちのほうが道具の性能は高いが、道具を使う身体能力は特進術部の連中のほうが上手だから、これがなかなかいい試合をしてくれる」


 特進学部にいる学生は、一年次に軍術と錬金術両方で優秀な成績を修めなければ在籍できない優秀な学生たちだけど、特進に入る資格を持っていても専門的に学びたいものはそのまま軍術や錬金術部に進級する。


「軍術に関しては、決められた武具を使うのみだから軍術と特進で明確に差が出る。つまり、軍術部が一番最強ということだね」


 ルイスが機嫌よく話しているうちに決着はついた。

 片方の学生が相手の防御を打ち破り、水鉄砲をぶつけたのだ。

 直撃した学生は後方へ吹き飛ばされて、ずぶぬれになって転がった。


『勝者! 三年生ポステン・グルイドリヴァー!』


 勝った学生の名前が高らかに呼ばれ、学生がこぶしを突き上げる。

 その瞬間、


『ワアアアアアアッッ!!!』


 会場全体から割れんばかりの歓声が起こる。


「すごいね……」

「ふっ、そうだろう? 剣錬技大会は国内有数の大会だ。国中が注目しているから、盛り上がりも学生たちの意気込みも段違いだ。ルナマリナ嬢が出場したら、きっと今以上の歓声と注目を浴びることになるに決まっているよ」


 ……これは、あまり良くなかったかもしれない。

 注目されないために大会には出ないほうがいいといったウィルの懸念通りだったかもしれない。

 ……こうなったら、一回戦で負ける?

 いやでも、それだとウィルと接点が持てない……二回戦でウィルと当たるから、一回戦だけ勝って、わたしより強いウィルに勝たせてあとは任せた方がいいかもしれない。

 そう考えている間にも、どんどんと大会は続く。

 沢山の人が戦って、勝って喜んで、負けて泣いて、みんなが強い想いでこの戦いに臨んでる。


「がんばれ……!」


 知らない人ばっかりだけど、つい手に力が入り応援してしまう。


「ルナマリナ嬢、君はやっぱり優しいね」

「?」


 ルイスがわたしのことをじっと見つめていた。


「おや、出て来たよ」


 ルイスは誤魔化すように、舞台の方を指さした。


「アリータだ……」


 金髪で遠目にもわかるプロポーションと長身。

 この試合もまた、彼女が出てきた瞬間に歓声が起こる――

 とおもったのに。


「あれ?」


 わたしが拍手しても、他の人たちは拍手しない。歓声も上げない。

 ルイスすら、何もしない。


『もう1人の対戦相手――センリ・フォールチレン!!』

『ワアアアアアアッッ!!!』


 一方で、もう1人の相手の入場では、まるでアリータの分を取り返すかのようにすごい歓声が起こった。


「なんで?」

「ルナマリナ嬢、この国では数年前に【最厄の事件】が起きた。今もまだその禍根は強く残っている。彼女もまた、その事件の関係者なんだよ」

「……【最厄の事件】?」


 そういえば、アリータは貴族の地位を失くしたと言っていた。

 アリータ自身は未だこの学校に居られている時点で、きっと彼女は関係者止まり。

 そして彼女は言っていた。

 兄が全てを失くしたのだと。


「彼女は……何をしたの?」

「彼女は犯罪者である兄を庇った。彼女の兄は【最低】だ。貴族でありながらこの国に最悪の被害をもたらした犯罪者に加担していて、結果としてすべてを失った。彼女もまた、そんな兄を庇ったんだ」

「犯罪者……?」


 つまり、彼女が信じていた兄、その友達は――ウィルの疑い通りに悪い人だったのだ。


「【最厄の事件】を起こした彼女を受け入れるものはこの国にはいない。彼女の兄は失踪し、矛先は唯一判明している彼女に向いた。結果、今のようなことになっているということさ」


 至極くだらなそうにルイスは頬杖を突いた。

 話を聞いている間に、試合は白熱してく。

 だけど、周囲の観客の熱は冷めていく。


「ヤァァァア!!」


 席まで届く熱のこもった叫び声。

 アリータの氷を纏う剣が横なぎにふるわれ、対戦相手の防御を貫いた。


「ゲハッ」


 相手は唾を吐きながら数メートル吹き飛ばされ、地面を転がり、そのまま動かなくなった。

 審判が急いで駆け寄り、容体を見る。

 アリータは油断なく構えながら荒い息を整える。


『勝者……アリータ・ネーヴェニクス』


 静かに勝利宣言がされた。

 シーンと、会場は静まり返る。


「……きもちわるい」


 つい、言葉が漏れた。

 ここは、たくさんの人の想いが詰まっている場所。

 出場者たちは自分たちが培ってきた技術と知恵、肉体、そして未来全部を懸けてこの戦いに挑んでる。

 そして、観客たちもそれを応援したくてここにいると思っていたのに、彼女の想いを、誰も理解しようとしない。


 わたしは彼女の事情を知らないし、この国で起きた事件を知らない。

 目の前で起きた単純な事実でしかこの出来事を測れない。

 大観衆が彼女一人を追い詰めているような今のこの状況がきもちわるい。


「よかったよー!!」


 気づけばわたしは、叫んでいた。

 拍手して、アリータに向かって。


「ルナマリナ嬢?」


 隣にいるルイスが戸惑っているけど無視した。

 舞台にいるアリータは驚いて目を丸くしてこっちを見たので、わたしは小さく手を振った。

 すると、アリータは一瞬だけ下を向いて顔に手をやって、また顔を上げて手を振ってくれた。

 そして彼女は審判に一礼してから舞台袖に下がっていった。


「ルナマリナ嬢、あまり彼女と仲良くしないほうがいい」

「誰と仲良くするかは、わたしが決める」


 ルイスもルイスで、きっと本当にわたしのことを考えてくれているのかもしれない。

 だけど彼の意見を聞くのは、わたし自身が彼女を知ってからでも遅くない。


「ルナマリナ嬢……やはり君は優しくて、勇気のある人だ。僕は君に神聖さを感じて仕方がない」


 わたしは思わず、左手にある指輪を見た。

 この指輪があるからわたしの神性は漏れていないはず。大丈夫だとは思うけど、念のため気を付けよう。


「さあ、次の試合が始まるよ。この後の出場者はやりづらいかもしれないけど――」


 ルイスの言葉が言い終わる前に――


「わっはっはっ! ついにこの時がやってきたわ!」


 静寂で満ちた会場に響く、聞きなれた高笑い。

 さっきまでとは違うどよめきが会場に漂いだす。


『次の出場者は、謎の転校生! 錬金術部二年生、ウィルベル・ソル・ファグラヴェール!』


 現れたのは、制服に黒いローブと帽子をかぶった銀髪青目の美少女だった。




 ♠  ♁  ♠




 錬金部門の試合を見て、わかったことがある。

 この大会、レベルが低い。


「こんなもんか。学生レベルだもんな」


 もし最初に見る錬金術がこの大会なら俺は感心していたかもしれないが、ベルの錬金術を見た後だと、どうしたって見劣りしてしまう。

 簡単に言えば、他の学生はみんな自力で操作し、直接攻撃するしかできないものだ。威力もでないし、使用者の技量に依存するものばかりだ。


 だがウィルベルは違う。

 彼女の魔法《魔女の悪戯(キュルビスストライヒ)》で生み出される《かぼちゃ人形(パンプキンドール)》を彼女は完全に錬金術で再現した。

 この人形自体が自律的にウィルベルのために動き、戦い以外にも補助や手伝いをしてくれる。

 かぼちゃが持つ武器の威力も高い上にかぼちゃ自体も武器になり、武器の持ち替えにより汎用性も高い。

 《かぼちゃ人形(パンプキンドール)》が勝手に動いている間、術師本人は自由に行動できる。

 懸念といえば、魔法使いのくせに目立ちたがりなあの魔女は、ちゃんと周りのレベルが見えてたんだろうな?


「ウィリアム、ミラが来るぞ」


 隣にいるレヴィが憮然を装い腕組みをするものの、その眼は心配で仕方ないとばかりに舞台袖にくぎ付けだった。


「心配か?」

「ま、まさか! ミラは俺たちの仲間だぞ! 心配するまでもなく勝つに決まっているさ!」


 ばちゃばちゃとレヴィの視線が泳ぎだす。

 いや、泳ぎすぎだろ、平泳ぎ世界記録か。

 そういえば、いつかのミラもこんな感じだったな。


「ミラって錬金術の腕はどのくらいなんだ?」

「ミラは武術はそこそこだが、それ以上に錬金術が卓越している。平民だからと侮られていても特進に入れるレベルなのだから、実際の腕はこの大学でも一二を争うレベルかもしれない」


 侯爵家として英才教育を受けたレヴィですら、彼女に敵わないらしい。


『次の試合は大学で唯一の平民! 特進2年! ミラ!』


 進行に名前を呼ばれ、体をかちこちに固めたミラが入ってきた。

 彼女は年季の入った荷車を引いて舞台に登る。道具が入っているのだろうその荷車には、布がかぶせられていて、中身が見えなくなっていた。


『対するは謎の転校生! 錬金術部二年生、ウィルベル・ソル・ファグラヴェール!』


 ミラと同じように、ベルは道具を入れた大きな白い袋を肩に担いでいた。

 二人は舞台の中心で向かう合う。

 さっきの静寂に満ちた試合とは違い、今回は割れんばかりの歓声が起こった。

 この試合、確かに少し面白い。

 大学唯一の平民と謎の転校生。

 そして両方とも錬金において最優秀。

 どっちが勝つにしろ、きっと面白いものが見れる。


『はじめ!!』


 開始の合図が鳴った瞬間、ミラは即座に懐からダイヤルのついたグリップを取り出し、いじりだした。

 途端に、ミラの背後にある台車の布が蠢きだした。


「《炎海(イグニス・マレ)》」


 布を突き破り、中からいくつもの炎の弾丸が現れ、ベルの周囲を囲うように降り注ぐ。

 弾丸は地面に落ちると、あっという間に地面を這うように燃え広がり、炎の海へと変化した。

 さらにミラの攻撃は続く。

 またグリップにあるダイヤルをいじると、台車の布が吹き飛んだ。

 布が無くなり現れたのは、水銀のような銀色の液体だった。液体はミラの操作に合わせて蠢き、予備動作もなく発砲する。


「《貫通閃(トランスフィクス)》」


 炎、そしてそこから上がる煙によって塞がれた視界と退路を、弾丸が一直線に貫き雨のように降り注ぐ。


「すごいな。変幻自在に形を変えられるのか」


 隣にいるレヴィが感嘆の声を漏らした。彼の目はミラの武具にくぎ付けだ。

 それも仕方ない。

 ミラの後ろにある銀の液体は、無数の武器へ変化する万能武具であり、それを手に持っているダイヤルのついたグリップで操っている。

 一撃の威力、圧倒的な手数、切り替えの早さが他と段違いだし、たとえミラに接近できたとしても、あの液体は防壁にもなりえるだろう。

 なるほど、ミラが錬金において成績トップというのもうなずける話だ。

 並みの術師じゃ、まず近づけないし防げない。なまじ雫のような丸い形をとったまま攻撃してくるから、どこにいつ何が飛んでくるかわからない。

 炎の壁を作って貫通性の高い弾丸の雨を降らせるまで、僅か数秒の出来事だ。


「どうですか? 降参するなら今のうちですよ? わたしは今回、絶対に勝ちたいんです」


 数瞬で詰みの状況を作ったミラが降参を迫る。


「ふーん、結構すごいのね。うちのクラスの子よりも凄いかもね。といっても……」


 ただ――



「やっぱりあたしが一番だよね!」



 ――相手が悪すぎた。



レ「ウィリアム! ミラが! ミラが出てきた!」

ウ「当たり前だろ、出番なんだから」

レ「あぁ! 喋った! 撃った! 動いたー! あれがうちの子なんだ!」

ウ「お前はミラの何なんだよ!」

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