20.剣錬技大会
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剣錬技大会当日。
この日は、国内有数の広さを誇るベネラクス大学の中は人でごった返していた。
どこからどう見ても人人人。
ああ、体がかゆい、気分が悪い、吐き気がする。
でも気分が悪い理由は人混みだけじゃなく――
「だ、大丈夫ですか? ウィリアムさん」
「安心するといい。王族や有力な結社の名前と顔は覚えている。近くに来れば俺がわかる」
未だにくっついてくるミラとレヴィの存在だ。
「なんでまだついてくんの?」
「決まっている。たとえ目的は違っても、お前は俺の友、親友だ」
「わたしはあなたのチューターです! 支えるのが役目です!」
「お前ら今日死ぬのか?」
堂々と親友だの支えるのが役目だの、恥ずかしくないのか。
大会中の不慮の事故で死ぬのはそれはそれで語り草になるが、これが遺言は生涯の恥になると思う。
「ひとまずトーナメント表を確認しよう。うまくいけば俺たちが当たるのは決勝戦かもしれないぞ?」
「わたしは錬金部門なので、お2人とは一緒になれないですけど……たくさん、たくさん応援します! 応援の気持ちをお弁当に込めてきました! わたし、お二人の分まで作ってたんですよ!」
「なんだって? 俺もだ。我が家の一流シェフに頼んで二人分作ってもらったんだ」
満面の笑顔でお互いが持ってきた弁当を見せ合う二人。
こいつら本当にうっきうきだな。鬱陶しい。
だがしかし。
今日、実は俺も少しばかりウキウキしている。
「……俺は食わんぞ」
「「え!?」
何度目になるかわからない、こいつら2人そろっての驚きの声。
俺は今回、絶対にこいつらの飯は食わん。
普段なら食費が浮くと思ってありがたく献上させているが、今日だけは別だ。
だって――
「今日は俺も弁当持ってきたんだ」
「「えぇえ!!??」
目をひん剥き、口をあんぐり開け、声を上げる二人。
フッ、驚くのも無理はない。
なぜなら今日俺が持っている弁当はこの世界で最も希少かつ最も美味い弁当だ。
「これが俺の弁当だ!!」
取り出したのはそう!
マリナお手製弁当!
それもやっとかぼちゃ地獄を終え、まっとうに戻った食材をふんだんに使った料理!
全体的に見た目が真っ黒いが、これはマリナの黒髪をイメージしているに違いない!
「え、これが……?」
「これを……料理と呼ぶのか?」
まったくもって品性の欠片もまともな舌も持たない哀れな二人の生物は、俺の弁当を見て怪訝な顔をするだけだった。
「なんです? この黒いの……」
「聞いたことがある……これは伝説の聖遺物……はるか東北東にある島に存在するという竜の火鉢だ」
「そ、そうなんですね……わたしにはただの焦げたソーセージに見えるんですけど」
こいつらマジでしめてやろうかな。
今日を命日にしてやる。さっきのが遺言でいいよな。
「お、トーナメント表が見えて来たぞ」
俺が二人の後ろで剣を振りかぶっていると、いつの間にかトーナメント表の前まで来ていた。
大錬場のコロシアム壁面にでかでかと張られたトーナメント表の前は、剣錬技大会の出場者と見学者でひしめいていた。
……仕方ない、人が多いここで惨殺事件は起こせない。
やるのは人目のつかないところでだ。
「あ、ありましたよ! お2人の名前!」
ミラが興奮したように指さした場所には、確かに俺の名前があった。
初戦の相手は知らない相手だ。
でも、その反対側の隣の組み合わせ欄に――
「ルナマリナ・アーサー……」
マリナの名前があった。
順当にいけば、マリナの初戦試合の次が俺の試合だ。そんで、もしマリナが勝ったら二回戦で俺たちが当たることになる。
……うんうん、悪くない。
ぶっちゃけマリナと関係性が作れるのなら、それだけでこの大会に出た目的が果たせる。
……あぁ、でも俺が勝ってしまったらマリナの活躍があんまり見れないな。
ここはわざと負けて応援にまわるべきか。
マリナは嫌がるかもしれないが、でもここは彼女に経験を積ませた方が――
「あ‼ わたしの名前もありましたよ! 錬金部門のほうですけど!」
興奮して飛び跳ねるミラ。
いつもの臆病な感じもなく、祭りの雰囲気にあてられているのかとても元気だ。
といっても、錬金部門の大会なんてトーナメントを見るまでもなく結果は明らかだ。
だって、錬金部門にはあいつが――
「わたしの初戦の相手は……ウィルベル・ソル・ファグラヴェール?」
「知らないな。珍しい名前だ。錬金術部の知り合いに聞いてみるか」
思った矢先、まさかミラの初戦の相手がウィルベルになるとは思わなかった。
ウィルベルの錬金術の腕前は群を抜いている。
彼女は魔法使いなんだから当たり前だ。
だが一方でミラも成績優秀だ。
最近では、いろんな人と話せるようになったからか、成長著しいらしい。
もちろん特進にいるだけあって、錬金以外にも軍術もそれなりにある。
今までは引っ込み思案なこともあって、軍術では滅多に相手に攻撃できなかったらしいが、最近はレヴィと組んで一気に腕を上げているらしい。
……そう考えると、戦い方次第ではミラとベルはいい勝負するかもしれない。
「楽しみが増えたな」
「そうだな、俺達が当たるとしたら決勝だ。次は決勝の舞台で会おう」
おっと、忘れていたがレヴィは俺とは反対のブロックにいたらしい。
決勝で会おうとは、随分と青春らしいことを言ってくれる。
まあ、実力的にレヴィは決勝にやってくるかもしれないが、俺は決勝まで上がる気はない。
マリナとのんびり試合を楽しんだ後、俺が負けて優勝したマリナの雄姿を目に焼き付けるのだ。
「最初は錬金部門だ。ひとまず席を確保しようじゃないか」
そんな感じで、とても楽しそうにしている二人の後ろをついて行く。
――そういえば、王族や結社が来てるんだったな。精々、気を付けるとしよう。
♦ ☉ ♦
ふっ、今日という日を心待ちにしていた。
ウィルはマリナと大会中に接点を持とうと思っていたみたいだけど、あたしには秘策があるのだ。
「こんにちは、あんたも転校生?」
「……え?」
それは転校生という共通点を利用して、マリナに話しかけること!
あたしたちは他に転校生がいることを知らないはずだから、今まで話しかけられなかったけど、そんなことは知る機会はいくらでもある。
今、目の前で青髪の男の子と他数人に囲まれたマリナに話しかけているところ。
マリナは大会が始まってから話すきっかけを作ると思っていたみたいで、あたしが話しかけると眠たげな瞳がちょっと開かれた。
「えっと……あ、あなたは?」
「ふふーん、あたしはウィルベル。あんたと同じ今期からの転校生。錬金術部の天才よ!」
「え、あ、うん……そうなんだ」
状況が呑み込めていないマリナは、終始戸惑っていた。
戸惑って目が泳いでるマリナもかあいいねぇ。
さて、あたしがどうして転校生がいると知ったのか、正確には知ったということにしているのか。
それは、アリータの存在が大きい。
他の人と違って、あたしのチューターであるアリータはあたしたちの事情を知ってる。
だから、話を通すのがとってもらくちんなのだ。
現に今、あたしの隣にはアリータがいて話を合わせてくれている。友達ができるかもといったら、泣いて喜んで協力してくれた。
「お久しぶりですわね、ルイスさん。今日のお調子はいかがかしら?」
「なんだ没落したアリータか。今日の調子? ふっ、愚問だな。調子など関係なく、僕はいつだって完璧だ。決して負けることなどありえない」
「あら、相変わらずの自信ですのね。足元をすくわれることのなきように」
「僕の足をすくえるものならすくってもらいたいものだがな」
うちのアリータに負けず劣らず、マリナのチューターもなかなかに癖が強いみたい。
それだけじゃなく、周囲には同じ軍術クラスの人なんだろうガタイのいい男たちがいっぱいいる。
なるほど。確かにこれじゃあマリナは一人になるのが難しそう。
「それで、ルイスさんは軍術部門ですわね? 組み合わせはどうでしたか?」
「ふっ、組み合わせなんかに興味はないよ。……と言いたいところだけど、少し面白いことになったんだ」
「といいますと?」
ルナマリナと話をしようとしている間に、ルイスと呼ばれたマリナのチューターとアリータが話をしていた。
「僕の初戦の相手はレヴィ・ユトレヒト。王家につかえるナサニエル家として、かの家には鉄槌を下す時が来た、ということさ」
「そ、そうですか……」
変なポーズをとってかっこつけたことをいうルイスなんとか。
あのアリータが軽く引いてるのがちょっと面白い。
ま、なんにしろ、アリータとルイスの仲がいい……とは言えないけど悪くないなら、十分に自然にいけそう。
「どうかしら、この大会、一緒に見て行かない? 数少ない女の子同士、仲良くしましょ?」
手を差し出すと、マリナは二、三回あたしの顔と手を交互に見て、
「……うん、よろしくね」
にっこりと笑って手を握った。
よし、これでウィルを出し抜けた。
あいつは今頃、マリナのお弁当にかまけて肝心のマリナをお留守にしている。
大事なのはお弁当ではなく、マリナ本人だというとても大事なことを忘れているのだ。
この勝負、あたしの勝ちね。
「さ、行きましょ。もうすぐ錬金部門が始まるから一緒に見ましょ」
「うん……楽しみだね」
べ「さ! 早速席を確保しに行きましょ!」
マ「わかった。どこがいいかな?」
ア「あ、ウィルベルさんはもう出場なんで行かなきゃダメですわよ」
べ「え゛」
マ「え?」
べ「…………先に会った意味ない!」




