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2.太陽の魔女

 ♦  ☉  ♦


 はーい、皆さんお機嫌如何でしょうか。

 きっと皆さんも晴れ渡り燦燦と降り注ぐ太陽の光のように、暖かく明るい気持ちになってるんじゃないでしょうか。

 ちなみにあたしもそんな気分です。

 といっても?

 きっとみんなが明るい気持ちになれるのはあたしのおかげといってもいいと思うんです。


 黒くてつばの広い尖がり帽子に、袖口が大きなローブにつま先が尖り上がった靴、風に靡き、太陽の光を反射して僅かに金色に輝くスノーホワイトの流麗な髪と白磁のような白くきめ細やかな肌、透き通る大空のような瑠璃色の瞳。

 見れば誰もが振り向き、太陽すらも嫉妬して熱を上げてしまいそうな美女。

 それがあたし。

 より大きな力を求めて世界をさすらう大魔法使い。

 名は、ウィルベル。

 ウィルベル・ソル・ファグラヴェール。


 さてさて、あたしが今いる何の変哲もないしがない町は、特にみるものが無いので、観光もほどほどに次の目的地に進みたいところなんだけど、せっかくのどかな街に来たのだからここらで資金調達をしようとなったのが事の発端で(そうろう)

 あたしが負けることはプライドが許さないので、一番稼いであいつにぎゃふんと言わせてやるわ!


 というわけで……。


「なにかお困りの人いませんかー? 失くし物探しから占いまでー。恋愛、就職、悩み相談なんでもござれですよぉー」


 右手に水晶、左手に杖を持ってぶらぶら歩く。

 声をあげて町を練り歩くと、どうやら気になる人がいるのかちらちらとこちらを向いてくる人が幾人か。

 こっちのことが気になってる人に声をかけた。


「ねぇねぇ、そこのお兄さん」

「ん?」


 大通りの端に寄り、通行人の中でも冴えない顔をした地味な男性に声をかけた。


「あなた、どこかお悩みを抱えていますね? あたしが道を示して差し上げましょう」

「え? はい? いや、別に悩んでなんか――」

「いえいえそう言わずに。人はだれしも悩みがあるものなんです。自分自身が気づいてないだけ、あるとわかればなんとなく気になってしまう。家を出た後に、あれ? コンセントちゃんと抜いたっけな? と、細かいことが気になってしまうみたいに」

「え? こんせんと?」


 おっと、コンセントなんて普通の人には縁がないからわかりづらかった。

 咳ばらいをひとつ。


「おほん、とにかく、あなたにもお悩みがあることでしょう。例えばお仕事とか」

「いや」

「お金の問題とか」

「全然」

「恋愛とか」

「……」


 ほほう、ふんふん、なるほどねぇ。


「ずばりあなたのお悩みは恋愛ですね。大方仕事に熱心過ぎて出会いがないとかそんな感じでしょう?」

「ぅ……」


 あたしが言うと、男の人は少しだけ顔を赤くして小さくうなずいた。

 このくらいで照れるとは、なかなかに初心なご様子で。

 これじゃあ、自然に職場で出会ったとしても、何もできずにとられてしまいそうな感じがするね。

 となれば、ここはなおさらあたしの出番。

 あたしが恋のキューピッドになって差し上げるとしましょう。


「そんなあなたにこれを差し上げましょう。幸運のお守り。これを持てば無病息災、良縁成就が約束される優れものですよぉ」

「くれるのかい!? ありがとう!」


 彼の鼻先にお守りをぶら下げれば、彼は生唾を飲み込んで受け取った。

 あたしはお守りが無くなったことで空いた手を広げて、彼の前に出す。


「ん」

「ん? ……なんだいこの手は」

「なにって、決まってるでしょ? お代金」

「ええ!? お金とるのかい!?」

「あったり前でしょー。あたしはこれで食べてるんだから。はい、1000コール」

「地味に高い……」


 男性は懐から財布を取り……出そうととしたところで、びしっと音が出るくらいわかりやすく固まった。


「なに? どったの?」

「ない……」

「あにが?」

「財布が無い!?」


 口に出したことで実感が湧いたのか、途端に顔を青くして体中をまさぐりだすものの、一向に財布は見つからない。


「そういえば、このあたりでスリが横行してるんだった。……気を付けていたつもりだったのに!」

「スリ?」


 治安がいいのが取り柄の町だと思っていたけど、存外に物騒なのね。

 ちなみにあたしの財布は普通の人には取れないようなところにしまってあるので、絶対にとられる心配は無いのです。


「うーん……それなら、ツケにしておきましょうか」

「ツケ?」

「ええ。そのお守りがある限り、あなたの居場所はわかります。なので、お金がありそうだなと思ったら、いつでも受け取りにいきますので」

「いつでも来てくれるのかい!?」


 うげ、なんか誤解させちゃったかも。


「あ、あの! 家に帰ればお金がありますので! 僕が家にいる時に来ていただけますか? 食事はもちろん、僕の家にお泊めすることもできますので! なんなら今晩! どうですか!」

「え、ええ?」


 途端に顔を近づけて言い寄ってきた彼に、おもわず後ずさる。

 一歩下がれば、また彼は一歩詰めよってきて、あたしに言い寄ってきた。


「遠慮しときます」

「そういわずに!!」

「イヤです」

「お金を――」

「イ・ヤ・デ・ス!!」


 普通にこの人、生理的に無理。

 初対面でいきなり女性を自宅に連れ込もうとする非モテをこじらせたヤバい人だから。


「というわけで、さようなら」

「あ、ああ! 俺の運命の人!!」


 背後で叫ぶモテない彼。

 ――恋愛的な意味ではないけれど、あたしには既に運命の相手はいるもので。




 ♦  ☉  ♦




「ううん、このままじゃあ、あんまり芳しくないなぁ。一日で稼ぐなら、あんまり手の込んだことはできないし……」


 露店に並んでいたパンをベンチに座ってかじりながら、ちょっとだけ思考にふける。

 さっきから占ったり落とし物探したりで小銭は稼いでいるけど、精々が一晩の食事代程度。

 これじゃあ、ちょっと足りないなあ。


「となれば、ネギを背負ったカモ……もとい太客を捕まえることかな?」


 よし、そうと決まれば、さっそく探しに行きましょうかね。

 パンを食べ終えると同時に立ち上がり、再び大通りにて営業を再開する。

 といっても、手当たり次第ではなく、身なりのいい人を優先して。

 さあ金づるはいねぇがぁ、いい金づるはいねぇがぁ。

 なんてことを思いながら、道を歩いていると――


「はぁ、はぁ……」


 あたしの隣を大慌てで走り抜けた女性がいた。

 その女性は少し先まで走ると、立ち止まり、膝に手をついて肩で息をし始める。しかしすぐに顔を上げて、顔にたくさん浮いた汗をぬぐうことなく周囲をきょろきょろと見回していた。

 ふむふむ、この様子だと急いではいても待ち合わせって感じじゃないわね。

 すると何か、困りごとかな? となれば、あたしの出番?

 問題は、その人がお金を持っているかどうかだけど……。

 その人の身に着けている身なりを確認すると、首元には小さいながらに宝石が光るネックレスに、指にはいくつかの指輪があって、衣服自体も上等だとわかる手の込んだ意匠が凝らされていた。

 うむっ、お金はありそうね!


「お姉さん、お困りの様子だねぇ。助けてあげよっか?」

「え? あ、あなたは?」


 急に話しかけられて、もともと困った様子のお姉さんはさらに顔を困らせる。

 あたしは安心させるように咳ばらいをしてから、太陽のような笑顔を浮かべる。


「あたしはしがない旅の占い師ですよ? お姉さん、どうやら何かお困りのご様子で。その悩み、あたしが解決して差し上げましょう」

「占い師?」


 自己紹介をすると、お姉さんは一瞬だけ悩むも、すぐに話に乗ってくれた。


「実は、スリにあっちゃったんです! これからデートなので結構な額を入れていたんですけど、財布ごと盗られちゃったんです! どうしよう、この機会を逃したら、彼に愛想尽かされちゃう!」

「それはそれは、お姉さんは運がいい。あたしがいれば、お財布は間違いなく戻ってきますよ?」

「ほんとうですか!?」

「ええ、もちろん。……ただし、お代はちゃんといただきますよ?」

「いくらでも払います!! お財布さえ戻ってくればいくらでも! なので、どうか急ぎでお願いします!」

「ガッテン! じゃあ早速行きまーす!」


 よっしゃ! 想像以上の太客見っけ!

 これならあたしのボロ勝ちが見えて来たわね……。


「ふふーん、これであの鉄仮面をぎゃふんと言わせてやれるわね」

「占い師さん?」


 おっと、いけないいけない。彼女急いでるんだった。

 この千載一遇の好機逸すべからず、善は急げってね。

 あたしはお姉さんの前に水晶をずいと出す。


「じゃあお姉さん、この水晶に手を触れて?」

「こ、こう?」

「そうそう。そんでスリに遭ったときの光景をできるだけ鮮明に思い浮かべて?」

「鮮明……たぶん、スリにあったのはあの時だから――」


 おお、いい感じに彼女の想いがマナを通して水晶に流れ込んでるねぇ。


「あー、ちちんぷいぷい、スリ犯だーれだ!」


 水晶に杖を振りかざす。

 すると――


「あっ! この男です! この水晶に写ってる男とすれ違ったときに財布がなくなりました! この男に違いありません!」

「ふむふむ、ばっちり犯行の瞬間が映ってるねぇ」


 水晶には、お姉さんが思い浮かべた光景をヒントに再生された実際の光景が映し出されていた。

 地味ーな男とすれ違った瞬間、ほんの一瞬だけ、ちょっと他に気を逸らしただけでわからなくなるほどの速度で男の手が鞄に伸びて確かに財布が抜き取られる光景がばっちりと映っていた。


「この男を捕まえればいいんですね! それじゃあ、この水晶を騎士様に提出すれば!!」

「え゛」


 いや、この水晶取られるのはまずいんだけど。

 まあでも確かに騎士を介して捕まえたほうが確実かもしれないけど、ちょっと時間かかるなぁ。

 それに騎士に頼んで捕まえてもらうよりも、自分で捕まえたほうが協力金とかもらえそうな気がする。

 あたしは騎士を呼びに行こうとするお姉さんを呼び止めた。


「待って! このままあたしたちで捕まえに行きましょ! その方が速いし確実!」

「で、でも! 抵抗されたら捕まえられないし!」

「大丈夫! あたしすっごく強いから!」


 なおも悩むそぶりを見せるお姉さんを置いて、あたしは水晶に新たな魔法をかけて水晶に映し出された男を追った。


「【追跡(ウェスティゴ)】」


 呪文を唱えれば、一人称視点だった水晶の中の光景は三人称になり、男のいる位置がわかるようになる。


「あっちかな? ……あ、いや、こっち? いやいやいやいや……」


 といってもまあ、あたしはこの町の住人じゃないし、ちょっと土地勘はないかなぁ。

 ふらふらとしつつも、お姉さんはどうやらあたしを信じてくれたのか、疑うことなくついてきてくれる。


 犯人を追う途中で、


「あ、騎士様! すみません! スリ犯を見つけたのでついてきてもらえますか!?」

「なんですって? 詳しい話をお聞かせください!」

「はい! 実は旅の占い師の方が――」


 お姉さんが偶然出会った騎士を捕まえて助力を願った。

 あたしは特に気にせずにそのまま犯人の元へひたすら急ぐ。

 焦りながらも急いで走ると、ついに目的の路地裏についた。


「ここよ!」

「あ、いました! こっちです! こっちに私の財布を盗った人がいます!!」

「ほんとうですか! 見たんですか!?」

「旅の占い師の人が教えてくれたんです! 顔も見覚えがあるので間違いありません!」


 路地裏を指さすと、そこに騎士たちが我先にと殺到して路地裏に入っていく。

 あたしは路地裏の外で、事が収まるのを待つ。


「あ、ありました! 中身も全部無事です!」

「それはよかった。協力者の方には取り返した金額の何割かを受領する権利がございますので……」

「はいッ! もちろんお礼はいたします!」


 どうやら、無事に犯人は確保できたようだし、お姉さんはあたしへのお礼を確約してくれるらしい。

 待っていると、スリ犯の両脇を固めた騎士が出てきて、そのまま詰め所へ連行していった。少し遅れてお姉さんが少しだけ肩を落としながらあたしのところへやってきた。


「どうしたの? 肩を落として」

「あ、占い師の方、今回は本当にありがとうございました。ただ、今日はずっと文通をしていた男性と初めて会うはずだったのに、こんなことになってしまったのでどうしようかなと……」


 ふむふむ、これは芋づる式でお金を取れそうね。


「それもあたしにお任せあれ! そのお相手からもらった手紙があれば、あたしがまた探してあげるよ?」

「本当ですか! お願いします!」

「がってん!」


 ちょちょいと【魔法】でお姉さんからもらった手紙をもとにお相手を探した。


「あ、でた。待ち合わせ場所にまだいるみたい。多分この人じゃない? 胸元に一輪のお花刺してるし」

「ど、どれですか!?」


 お姉さんがあたしの顔にぶつかる勢いで水晶を覗き込んできた。


「…………」


 お姉さんは黙ったまま、無言で水晶から離れた。


「このお話はなかったことにしましょうか」


 あ、これ見た目好みじゃなかったやつだ。


「ねえ占い師さん。私の運命のお相手を占っていただけないかしら」


 おぉっと、このお姉さんなかなかにしたたかね。

 とりあえずこの人は言い値でお金くれそうだし、引き受けて差し上げよう。

 といっても、あたしには恋愛の占いなんてできないし……あ、そうだ。


「ならお姉さんにこのお守りを差し上げましょう」

「これは?」


 今日、もう一人の男性にあげたお守りと同じお守りをお姉さんに渡した。


「これを持って、明日この水晶が示す公園に行ってみてください。同じお守りを持っているその人こそがあなたの運命のお相手です」

「本当ですか! わかりました、何から何までありがとうございます!」


 凄く嬉しそうに笑う人。

 ふふん、これなら報酬は期待できそうね。


「さて、お姉さん。この代金は高くつくよー?」

「うふふ、可愛らしい旅の占い師様のために、たくさん礼をさせていただきますね。我が家が誇る名品も差し上げます!」


 やったー!

 これであいつをぎゃふんと言わせられるわ!

 あたしは足取り軽く、お姉さんの家に報酬をもらいに行くことにした。

 これで今回の勝負はあたしの勝ちね。


 勝ち誇った顔で空を見上げれば、僅かに東の空は紺色に染まり始めて、空には白い月が見えていた。


 ――あの子たちと合流するのは、もう少しだけ先かな。



べ「おっと、あそこに絶世のジト目黒髪美女発見!」

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