19.お兄様はいずこへ
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「そんで? そのお兄様とやらは今何やってんだ?」
かぼちゃ料理を食べながらウィルが言った。
ウィルの仮面は便利なもので、口元が開閉式になっているから、つけたまま食事もできる。
「お兄様は今有名な結社にいるそうです。お友達のためにたくさん働いているらしく、最近は一切会えておりません。ただ結構な仕送りをしてくださるので、元気ではいると思います」
「ふん、どうだかな」
ウィルは下らなげに鼻を鳴らした。
アリータはそんなウィルにムッとした。
「なにか思うところでも?」
「友達のためと言えば聞こえはいいが、そのお兄様は体よく利用されてるだけだろ。その大切なお友達からはお財布程度にしか思われてないかもな」
「な、なんて酷いことを言うのですか!」
箸を止めて声を荒げるアリータだけど、ウィルの仮面から覗く目は笑っていた。
「そのお友達はお兄様とやらに何かしてくれてんのか? ただ一方的に金を搾取してるだけじゃないか? 地位や金、家族を失くしてまで守ろうとした大事なその友達にお前は会ったことないんだろ?」
「なんてひどいことを言うのですか! お友達からお金を搾取するわけないじゃないですか! そう思うのは、それはあなたが大切な人と出会ったことがないだけです! この世にはすべてを投げ捨てても守りたい大切な人というものがいるんです!」
激昂するアリータは椅子から立ち上がり、自分の胸に手を当ててベルを見る。
「無論わたくしにも! ウィルベルさんが助けてと言えば、わたくしは全てを投げ捨てでも助けに行きますわ!」
「え、重い……」
真剣なアリータだったけど、当のベルはひいていた。
ウィルもアリータの言葉が不快だったのか、わずかに目を険しくした。
「俺に知らないだけなんて言ったが、お前こそ何を知ってる? 兄がどこでなにをしているのかも知らない。ベルのことも俺のことも何も知らない。家族より大事な友達? 家族を失わせるような奴を、俺は友達とは呼ばない」
「っ!」
ウィルの確かな怒気に、アリータは言葉につまる。
ウィルは立ち上がり、席を後にした。
かぼちゃ鍋をいくらかよそってから。
あ、ちゃんと食べる気なんだ
「……そんなはずありません。お兄様のお友達は、凄い人たちなんです」
俯いて下唇を噛みながら、アリータは言った。
重い空気の中、ベルは鼻から短く息を吐いて、箸を進めだす。
「まったく、口が悪いのは変わんないわね。でもま、しょうがないわよね」
ベルの言葉に、アリータが顔をあげた。
「しょうがない、ですか?」
「そう、しょうがない。勘違いしないで欲しいんだけど、ウィルは別にあんたのお兄さんを否定してるわけじゃないのよ。ただ、疑ってるだけ」
「わたくしはお兄様を信じます。あのお兄様のお友達ですもの。素晴らしい人に違いありません。きっと、人助けのために危険を冒したに違いありませんわ」
頑固なアリータに、ベルはあきれのため息を吐いた。
その息で、鍋の湯気が揺れた。
「あたしはあんたのことをよく知らない。あんたの兄のことも全然知らない。そんな人を信じろだなんて無理な話よ」
「そんな、ウィルベルさんまで……」
落ち込むアリータだったけど、ベルは気にせずかぼちゃをひょいと食べた。
「んじゃ聞くけど、アリータはウィルを信用できる?」
「それは……」
アリータは答えに窮した。
「できないでしょ? それと同じ。ウィルはただあんたの兄を知らないの。そもそもアリータだって自分の兄なのによく知らないんでしょ? 疑うのも無理ないわ」
「……」
アリータは沈黙し、再び椅子に腰を下ろした。
皿の中にあるかぼちゃ鍋をじっと見つめる。
「他の人から見たら、お兄様は悪く見えるのでしょうか」
「さあ? 見方なんて人それぞれ。まずは知るところから始めたら?」
「……そうですわね。やっぱり、知らないといけませんわよね」
アリータは何度か深呼吸したと思ったら、覚悟を決めたように顔を上げる。
「決めました! わたくし、もう一度ウィリアムさんとお話をしてみます! きっとあの人も何か理由があって人を疑ってしまうんです! その話を聞いて、わたくしのお兄様の話をすれば、きっとわかってもらえるはずです!」
ベルは目を見開いた。
「え? うそでしょ? やるの?」
「ええ! やります!」
驚くベルを置いて、アリータは立ち上がり、二階に繋がる階段に向けて声を張り上げる。
「ウィリアムさ~ん! お話がしたいんですの! 降りて来ていただけませんか!?」
少し響く彼女の声。
しばらく待っても何もなし。
「ウィリアムさ~ん! お話を聞かせてくださいませ! どうか、なにとぞ!」
何度も声を張り上げるアリータ。
「うぃ、ウィリアムさ~ん……」
ちょっとずつ声に元気がなくなり、泣きそうになってきたアリータ。
……仕方ない。
わたしは立ち上がり、アリータと同じように二階に向かってこう言った。
「ウィル……一緒にご飯食べよう?」
言った瞬間にどたどた足音が聞こえてくる。
「ごはんだ! マリナ! いい加減かぼちゃ以外も食いたいよな!」
もぐもぐと口にご飯を含んだウィルが一瞬で降りて来た。
「え……」
あっさりと降りてきたウィルに絶句するアリータ。
「ウィル……アリータが話がしたいって」
「え? 嫌だよ。能天気馬鹿と話してもイラつくだけだ。そんなことよりもさ、明日から自然に俺たちが知り合う流れを考えようと思うんだ」
「あ、それいいかも……」
一転して、ご機嫌にお椀に入った鍋の具材をぱくつき、さっきの席に座るウィル。
わたしも一緒に席について、ウィルの話を聞くことにした。
「いきなり話しかけても不自然だろ? チューターなんてのもいるし、なんなら俺とマリナは人気者だから1人になかなかなれないと思うんだ」
「ねぇ、あたしは人気ないって言いたいの?」
「確かに、わたしも一人になろうとするのは難しいかも……ベルは簡単に一人になれるみたいだけど」
「ねぇ、あたしに友達がいないって言いたいの?」
「わたくしがいますわ! ウィルベルさん!」
「あんたは黙ってて」
「はい……」
しゅんとしながら、アリータも席に着く。
さっきとは一転して、和やかに話は進む。
「そんで、どうすんの? 仲良くする機会を作るっていっても、クラスが違うんだから難しくない?」
「そこで考えたんだけど、全員今度の剣錬技大会に出るんだろ? そこでそこそこに活躍すれば、転校生同士ってことを知ったことにして話すきっかけにはなるんじゃないか?」
「なるほど、確かにね。……試合に当たれば、それこそ仲良くなれそうだもんね」
なんだか、とても楽しくなってきた。
やっぱり、学校でも三人一緒がいい。
それに、二人が学校でどう過ごしているのか、とっても気になる。
「そんな面倒なことしなくてもよろしいのでは? 普通に廊下で会って普通に挨拶をすればいいのではありませんこと?」
アリータの疑問に、一瞬だけ時が止まった。
やがてウィルが肩をすくめる。
「アリータ、それはダメだ」
「な、なぜですか?」
ベルがため息を吐く。
「そんな普通のことしたら、つまらないじゃない」
「え? 普通じゃダメなんですか?」
わたしはぼそりと言った。
「……だから友達がいないんだよ」
「一番ひどい!」
またまたアリータが涙目になる。
そんな感じで、わたしたちの今後やることが決まったんだ。
ウ「最近、指先が黄色くなってきた気がするんだ」
べ「やだ、変なもの触ったんじゃないの?」
マ「わたしも黄色い気がする」
べ「マリナまで!? やだ、なんかあたしの指も黄色いわ!」
ウ「絶対かぼちゃが原因だろ!」




