16.遊び翻意
♠ ♁ ♠
――俺は剣錬技大会には絶対出ない。
「ウィル……わたし、剣錬技大会に出るね」
よし、俺も剣錬技大会に絶対出る。
「……ハッ! いや違う! なんでだマリナ! なんで出るんだ!」
あぶないあぶない、マリナが出たいというから、ついうっかり条件反射で出場してしまうところだった。
今は家に帰って、ルナマリナとウィルベルの三人で夕食を囲っているところ。
今日も今日とてかぼちゃ鍋。
ほくほくと湯気が立ち上り、心温まる香りが部屋と腹を満たしてくれたので、今の俺は穏やかだ。
「あ、ちなみにあたしも出るから」
持っていた箸がボキッと折れた。
「なんでだ? 目立たないようにするって言っただろ?」
「そうだけど、こんな面白いもの出ないほうがもったいないじゃない。それにせっかく錬金術で作ったパンプキンたちを試したいし」
「お前、目ぇ付けられたら今後楽しめなくなるって言ってたじゃないか。だから知らんぷりしてんのによ」
ウィルベルの調子のいい言葉に、意識せずとも自然と口が尖ってしまう。
「せっかく一緒に旅に出たんだから、やっぱり一緒に学生生活楽しみたいってベルと話したの……それに、剣錬技大会に出れば、学べることも多い」
「よしわかった。俺も出よう。一緒に楽しい思い出作ろうな!」
マリナの嬉しい言葉に、意識せずとも自然と口が笑ってしまう。
「……ねぇ、あたしとマリナの差は何? もっとあたしにもちゃんと接しなさいよ」
「何言ってんだ。世界で一番心の清いマリナと金に汚いベルを同列に扱えと? 寝ぼけんのも大概にしろ」
鍋を挟んで二人でにらみ合う。
俺達の視線の間には、白い鍋の湯気だけがずっと揺らいでいた。
「あんた、誰のおかげで今があると思ってんの? あたしのおかげよ? なんならこのご飯もあたしが作ってるんだけど? こんなかわいいウィルベルさんの美味しい料理が食べられることにもっと感謝しなさい」
「よく言うわ、誰のおかげで生活できてると思ってんだ? 俺のおかげだぞ? なんなら今の学費も家賃も食費も全部俺が出してんだぞ? こんなに強くて甲斐性のある俺と一緒にいられることにもっと感謝しろ」
ギリギリと歯を食いしばり、瞬きもせずに睨み合う。
湯気がだんだんと少なくなっていく。
「もういい! マリナはあたしと一緒に旅に行くの! あたまのかった~いけちんぼのあんたといたら、マリナまで口が悪くなっていけないもの!」
「誰が言ってんだ! マリナは俺と行くんだよ! 器のちっちゃ~い金に汚いお前といたら、マリナがまた身も心も貧しい生活に戻ること待ったなしだ!」
ウィルベルがVサインを作って俺の目めがけて突いてくる。
俺もVサイン作ってウィルベルの鼻目がけて突きあげる。
見事に躱す二人。
互いに譲らぬ攻防。
殺伐とした食事風景。
こうなったら――
「「マリナはどっちと行きたい!?」」
2人そろって最終決定権をマリナに預ける。
するとマリナは、口の中にあった食べ物をごくりと飲み込んで――
「二人が一緒じゃないなら、わたしは一人で旅に出る」
「ああ、ベルのご飯は美味しいな。お金はいくらでも出すから、これからもずっと一緒に旅をしよう」
「ええ、ウィルのおかげで楽しいわ。ごはんはいくらでも作ったげるから、これからも一緒に旅しましょう」
互いににっこりと笑い、座って鍋をつつきあう。
……俺らはこれが本気で、これが本当にいつも通りだ。
◆ ␣ ◆
わたくしアリータ。
いまウィルベルさんのお宅に向かっているの。
え? なぜそんなことをしているのか、ですか?
それはもちろん、他国から来て心細いはずのウィルベルさんのために、わたくしが今日手料理を作ってきたからです。
ちなみにウィルベルさんのお家はわからなかったのですが、幸いにもいまのわたくしには忠実なかぼちゃ人形がいますので、お料理をしている間に尾行させていただきましたの。
ちなみにウィルベルさんの今日の放課は、実習室にしばらくこもり、道具をいくつか作った後、ちかくの八百屋やお肉屋によって、お野菜を二つ、牛肉を一パック、たまごを4つとかぼちゃが20個、調味料とお酒を数種類購入したあと、石材屋に寄って錬金術に使う金属を箱買いして、高価な宝石が入ったショーケースを指をくわえて四半刻ほど眺めた後に退店して帰路につきました。
帰路に着くころには既に日が暮れておりました。
「ここがウィルベルさんのおうち……ですか?」
かぼちゃ人形の案内でウィルベルさんの入ったお家の前に着くと、わたくしは驚きました。
その家は、とてもお高いお家です。
最上級、とまではまいりませんが、一般人なら一年住むだけで十年分のお給金は飛んで行ってしまうほどのお家です。
正直、わたくしの家よりも……いえ、なんでもありません。
こほん、とにかくせっかくウィルベルさんのご自宅を突き止めたのですから、ここはお友達として、ちゃんとご挨拶兼入学おめでとうを言わないといけませんわ!
聞いた話では、ウィルベルさんはお一人暮らしとのこと。
今日の買い物の感じでは一人分という感じではなかったですけれど、きっと数日分を買い込んだのですよね。
念のために、保存の利くものを用意しておいてよかったですわ!
さあ、いよいよ本番。
いきますわよアリータ、いざお友達のウィルベルさんのお家へ!!
意を決し、ドアノッカーを三度叩きました。
しばらく待ちます。
すると――
「…………」
すると……
「………………」
する……と……
「……………………」
い、いらっしゃらないのでしょうか……。
「はぁ……いや、気づかなかっただけかもしれません。もう一度!」
ドアノッカーをもう一度、三回たたく。
すると――
「は、はい~」
出てきたのは見慣れた紺の制服ではなく、黒いローブを羽織ったウィルベルさんでした。
「え、アリータ?」
「ごきげんよう!! ウィルベルさん! 今日はお友達のウィルベルさんのためにわたくしお料理を作ってまいりました! 一緒に食べましょう! 今日お泊りしてもいいですか!?」
ずいっと持ってきた手料理の入ったタッパーをウィルベルさんに差し出しました。
するとお友達のウィルベルさんは、
「え、いらないです」
きっぱりと断り……え、ことわり?
「え、な、なななな、なんですって? もう一度言ってくださる?」
「もう一度言っても変わんないよ? あたしもうご飯食べたし、いきなり来られても泊められないよ。せめて事前に言ってくれないと」
「で、でもこのお家は大きいですし、空いてる部屋とか……」
「結構厚かましいのね、アリータ……」
ウィルベルさんはため息を吐きました。
確かに厚かましかったかもしれません。
でも、わたくしお兄様から聞きました。
お友達とは、多少図々しかったり、あけすけなほうがいいのだと。
なのでわたくしも大事なお友達のウィルベルさんにずけずけということにしたのです!
「ウィルベルさん! 今日は朝まで語らいましょう! お友達ですもの! わたくし、ウィルベルさんともっとお話がしたいですわ! わたくし、ウィルベルさんが楽しめるように、たくさんの遊戯道具を持ってきたんですの! トランプとか、弾き石とか――」
「え、え、ぇぇ?」
がしっとウィルベルさんが開けた扉を掴みます。
きっと心優しいウィルベルさんのことですから、入れてくれるはずです! その代わり、わたくしは全身全霊、この身も心もウィルベルさんに捧げますわ!
「さあ、さあ!!」
「え、え、ぇぇぇえ???」
♥ ☽ ♥
『え、え、ぇぇぇえ???』
玄関先で響くベルの声。
わたしとウィルは玄関から見えないように、明かりを消して二階から玄関の様子を覗いてた。
玄関先を見れば、金髪でスタイルのいい女の子がベルにがっついていた。
「どう思う? ……ベルの友達らしいけど」
「あれ、友達っていうのか? どっちかっていうとストーカーじゃないか?」
すとーかー?
意味がよくわからなくて、ウィルを見つめる。
「ストーカーってのは、言っちゃえば本人の意思に反して執拗に付きまとってくる奴のことだ」
「本人の意思に反して……」
そういえば、わたしもルイスに付きまとわれてる気がする……
「わたしにもストーカーがいるかも――」
「なんだと!? ぶっ殺す! どこのどいつだ! 二度とマリナに近づけないように手足千切って目と玉潰す!!」
「落ち着いてウィル……聞こえるから」
ウィルとベルがルイスを知ったら、大変なことになりそうだから、彼のことは一応黙っておこう。
と、そんな風に話していると、ベルが女の子を置いて家に入った。
どたどたと二階にあがってくる。
「ねぇ! お願い! 助けて!」
「んだぁ? 本当にストーカーか? 追っ払ってほしいのか?」
「そうだけどそうじゃないの! ちょっと手伝ってほしいの!」
どこか興奮したように言うベル。
こんなに慌てたベルは珍しくて、興味が湧いたウィルが首をかしげて先を促す。
すると――
「ごまかすためにあたしの使用人になってほしいの!」
どこかウキウキをはらんだベルの言葉に、ウィルとわたしは目を合わせて、にっこりと微笑んだ。
「さあ、もう寝ようか」
「友達のためにベッドを一つ空けなきゃいけないから……わたしはウィルと一緒に寝るね」
「わー! ごめんなさーい! いかないでーー!!」
ウ「まさかあのベルに友達ができるとは思わなかった」
マ「どうして?」
ウ「たいしたことできないのに法外な友達料金請求するだろ?」
べ「しないわよ!」




