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15.魔人

 ♦  ☉  ♦


 てんやわんやの実習時間が終わり、無事に放課後を迎えた。


「はぁ~、結局あたしのかぼちゃは一個だけしか作れなかったなぁ」


 あたしの手の中には、一番最初に作ったパンプキンドールが一体だけ。

 あたしの心境を移したかのように、おいおいと泣きまねをしている。


「いいじゃありませんか。教官も教えて欲しいってことで、これからは工房を自由に使えるようになったんですから」


 隣を歩いているアリータが労ってくる。


「自由に使えてもあの先生がいたら自由にできないよ。生徒よりしつこく教わりに来たんだから」


 もはやあたしが先生だった。

 これじゃ先生は給料請求しても労組は味方してくれないんじゃないかな。


「それにしても本当に、ウィルベルさんは凄いですね。まるで魔法使いのようです」


 ぎくぎくっ!!

 アリータがなんとなく放った言葉に、あたしは心臓が縮み上がった。

 幸い、アリータは自分で作ったかぼちゃ人形に夢中になってあたしの方を見ていない。

 ふぅ、よかった。


「魔法使いなんているわけないじゃない。おとぎ話じゃあるまいし」

「ふふっ、そうですわね」


 ちょっと複雑な気持ちで言うと、アリータは人形を抱きしめながら笑って言った。


 ――世間一般に、魔法使いは存在しない。


 魔法使いとは、文字通り幻の存在なのだ。

 だから世界には魔法の代わりとなる錬金術が存在し、盛んに研究されている。

 つまり、あたしとウィルは本当に稀有な存在だ。

 とりわけウィルもあたしもただの魔法使いじゃない。

 ウィルは聖人でいわずもがなだけど、あたしは――


「ウィルベルさん、【魔人】って知ってます?」

「え?」


 アリータの質問にまたしても驚いて、思わず足を止めてしまう。

 彼女はそんなあたしに気づかずに、人形を見つめながらゆっくり歩く。


「【魔人】は俊敏かつ回復力が高く、強力な魔力を持つ進化した人種だそうです。その魔力のおかげで、錬金術同じものを作っても優れたものになるらしいんですの」


 あたしは少し早歩きで、アリータの横に並ぶ。


「凄いわね、魔人。なってみたいわ」

「そうですわね。魔人になれば、きっとものすごいことができると思いますわ。といっても、ウィルベルさんはもう魔人と言われても納得してしまいそうなくらい、すごい錬金術をお持ちですけど」


 そんなことないはず。

 あたしはもちろんだけど、アリータもつたないながらも一つ《かぼちゃ人形》を完成させているから、今日あたしが見せた錬金術は常人の域を出ないはず。


「でも魔人になったからと言って、いいことばかりではありませんわ」


 今度はアリータが足を止めた。


「ウィルベルさんは錬金術において【いい素材】を知っていますか?」

「【いい素材】? そりゃ、純度の高い宝石とか希少な花とか、強い魔力を持つ物質でしょ?」

「そうです。【強い魔力を持つ物質】です」


 つまり――


「強い魔力を持つ【魔人】も【いい素材】になってしまうんです」


 ぎゅっと、強く人形を握りしめるアリータ。

 あたしも立ち止まって待っていると、彼女は駆け足でまた横に並んでくる。


「大丈夫だとは思いますけど、ウィルベルさんも魔人だと思われるかもしれないので、一応気を付けてくださいね」


 なんだ、そんなことか。

 心配性な彼女に、ちょっとだけほっとした。


「大丈夫よ、アリータ。あたしがその辺のもやしっ子錬金術師に負けると思う? こう見えてあたし、すっごく強いんだかんね」

「ええ、そうですわね。魔法使いみたいなウィルベルさんに勝てる気がしませんわ。もうすぐある剣錬技大会が楽しみですわね」


 屈託なく笑うアリータにまた、どきっとした。

 決して可愛かったからとかではなくて、魔法使いみたいなという言葉に。

 ……この子、本当は気づいてるんじゃないわよね。

 いい子なのは確かだけど、ちょっとだけ距離を置いた方がいいかもしれない。

 え? あたしが自重しろって?

 むりでーす。

 あたしを縛れるものなんて、この世界には存在しません。

 ――あたしはどこまでいっても、自由気ままな旅人なのです。




 ♠  ♁  ♠




「けんれんぎ大会ぃ?」


 紺と黒の混ざった制服を着て、素っ頓狂な声を挙げたのは誰だ?

 俺だ。

 竜の仮面をつけて、不機嫌オーラ満載なのにもかかわらず、人に群がられているこの俺だ。

 今は食堂にいて、一人で飯を食いたかったのでカウンターのような壁に面したところで食っていたのだが、俺の隣に案の定というか、レヴィくんと地味眼鏡少女がやってきたのだ。


「剣錬技大会を知らないのか? ベネラクスでも一二を争うほどの大きな武術大会だぞ? 他国からこの大会を見にやってくる人もいる」

「れ、錬金術、武術両方ありの武闘大会です。一応、部門別になっていて特進はどっちにも出れるんです」


 ふーん、とレヴィがそっと出してきた飲み物を口にする。

 あ、これうめぇ。オレンジジュースじゃん。


「もちろん俺も出る。ミラは?」

「わ、私はいつも怖くて出れないんですけど……。こ、今回は、が、頑張ってみようと思います!」


 俺を挟んだ両隣で盛り上がる二人。

 そうそう、最近ようやく知ったのだが、俺のチューターの地味眼鏡少女はミラという名前らしい。

 貴族出身のボンボンが多いこの学校の中で唯一の平民出身で苗字が無く、実技はそこそこだが筆記は主席という尖った成績のため、一年生のときに上級生から結構陰湿ないじめを受けていたそうだ。

 ただ二年生に上がり、いじめていた三年生がいなくなってこのクラスをレヴィが仕切るようになってからは、名残はあってもひどいいじめはなくなったらしい。

 という感じで、ミラ自身、貴族に苦手意識はあるものの、レヴィを嫌いというわけではないとのこと。

 なんにしろ、剣錬技大会なんて――


「俺は出ないぞ」

「「えっ!?」」


 二人が間抜け面をさらしてくるから、笑いを抑えるのが大変だ。


「剣錬技大会は俺たちにとって絶好の機会だぞ!!」

「そうですよ!? 普通に考えてもこの国の王族が見にくるんですよ!? 何をするにしても、ここで結果を残せば懐に入り込めます!!」


 周囲に聞こえないように配慮しながら、椅子から立ち上がって必死に説得する二人。

 何を勘違いしているのか知らないが、二人は俺がこの国を潰す気でいると思っているらしい。

 そんな気は微塵もない。

 あくまで今の俺はただの旅人で、この国には錬金術を学びに来ただけだ。


「お前らで勝手にやれ。俺は目立ちたくないんだよ。あんときお前の誘いに乗ってやったのは、クラスでの地位をわからせるためだ。国全体なんて興味ない」

「そんな!? ウィリアムさんがいればこの国は安泰だと思ったのに!」

「そうだぞ! 俺とお前が組めば、大国にすら負けない強く富める国が作れるぞ!」

「知るかボケェ!! オレァ錬金術を学びたいんだよォ!!」


 我慢できずに叫ぶ。

 周囲が一斉に俺の方を向くが、気にならなかった。

 むしろレヴィとミラがなんでもないと周囲をなだめていた。

 周囲を落ち着け、一息ついたところで小声でまた話し出す。


「錬金術を学ぶにしても、剣錬技大会に出場することは十分に意味があるぞ」


 レヴィの言葉に眉をひそめる。


「……具体的には?」

「剣錬技大会には、有名な【結社】が数多く来るんです」

「【結社】?」

「【結社】というのは、錬金術の研究機関のようなもので、結社ごとに研究内容が異なる。大きいものは王族御用達のものから、小さいものだと最近できたばかりの数人しかいない結社まである」


 我が優秀な生き字引二人が丁寧に教えてくれる。

 錬金術の勉強になると聞いて興味が湧いたが、結社となると話は別だ。

 そんなことをするくらいなら、優秀な成績を修めてドワーフたちのいる錬金術の総本山レオエイダンに留学したほうがマシだ。


「お断りだ。お前たちだって、王族や結社に手のうちを見せないほうがいい」

「……だが」

「でも……」


 まだ納得のいっていない二人だったが、無視して俺は席を後にする。

 俺はただの旅人だ。不必要にこの国の在り方に介在する気はない。

 国を落とすなんて、もってのほかだ。


「じゃあな、俺は国落としなんてしない。お前たちだけでやるんだな」


 黙る二人。これでもう少し学生生活は過ごしやすくなるだろう。

 ――俺は王族や結社に目を付けられるような剣錬技大会には決して出ない。

 

レ「いいか、出るなら剣技部門だ。錬金部門にはミラがでるからな」

ウ「いやだから出ないって」

ミ「剣技部門には強敵沢山いますけど、お二人がいれば安心ですね!」

ウ「ねぇ、話聞いてよ。出たくないんだけど」

レ・ミ「目指すは剣錬両方制覇!」

ウ「……帰ろう」

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