14.パンプキンパニック
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窓辺から差し込む暖かな日差しがとっても心地いい。
こんなに穏やかな日は、お昼寝するに限るねぇ。
ぐ~すかぴ~。
「ウィルベルさん、起きないと教官に目を付けられてしまいますわよ」
おや残念、アリータアラームが鳴ってしまった。お昼寝の時間はもうおしまい。
「そうはいうけど、この辺のことは大体知ってるから、退屈なんだもん。早く実習の時間にならないかなぁ」
「お気持ちはわかりますけども、基礎理論は大事ですわよ。実習だけやってもお怪我するだけですわ」
ご丁寧に注意してくれるアリータ。
悪い子ではもちろんないんだけど、やっぱりあたしの事情を知らないから、少しばかりめんどくさい。
あたしが話しちゃえばいいんだけど、できるだけ秘密にしておきたいからこればかりは仕方ない。
「では……そこのファグラヴェール学生。この問題を解いてみろ」
おっと、ボヤっとしてたら教官に指名されちゃった。
「(頑張ってください! ウィルベルさん)」
小さく腕を上げてくるアリータに、あたしはくすりと笑ってしまう。
教室の前に出て、黒板を見る。
問題を見てみると、うん、やっぱり基礎的なマナの動きを問う問題みたい。
魔法使いのあたしにとっては計算するまでもない話。
頑張るほどじゃない。
「あ~ちちんぷいぷい」
「なんだって?」
適当ななんちゃって呪文を唱えながらすらすらっと答えを書く。
書いたら先生を見て一言。
「できますた」
「……せ、正解だ」
驚いた様子で頷いた教官。
どやぁ。
「すごいですね、ウィルベルさん」
席に戻ると、目を輝かせたアリータが小さく拍手をしてくれた。
「ふっふ~ん、どんなもんよ! あたしにかかれば楽勝よっ」
気分良くしながら席に着く。
そのあとも何事もなく授業は進む。
「それにしても、本当にウィルベルさんは成績優秀なんですのね」
「ん? そりゃそうよ。あに? 疑ってたの?」
「疑ってた、というより確認したかったんですの」
アリータは真面目にすらすらと板書を取りながら話し続ける。
「何を確認したかったの?」
「わたくしには、少し年の離れた兄がいるんですの」
「?」
よくわからない話だったけど、授業よりは興味が湧いた。
「わたくしの兄は、ウィルベルさんと同じでとっても優秀でした。わたくしと同じ錬金術部で座学では常に主席、錬金術も射撃も非常に優秀でした」
「へぇ~。それがあたしの実力を確認したかった理由?」
「……ええ、そんなところですわ」
困ったような、気恥ずかしいような、そんなはにかんだ笑顔を浮かべるアリータ。
話は終わりのようだったので、あたしは再び退屈な講義に耳を傾け、机に体を預けたのでした。
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退屈な座学の時間は終わり、やっと実技の時間がやってきた。
「今日行うのは、古くから伝わる錬金術の基礎にして最大の魅力の一つである錬成だ」
来ました来ました! 錬成!
あたしたちが今いるのは実験室で、そこはまるで鍛冶屋のような炉と作業台、槌や材料がいくつも整理されて並べられている部屋だった。
んで、本題の錬成というのは何かというと――
「錬成とは、素材を使用して既にある装備や物質、道具に能力を付与、あるいは引き出すことに特化している。素材の持つ力を組み合わせて道具を強化することができるんだ」
ということ。
ものすごーくざっくり極端な例を挙げると、水っていう『物質』に鉄っていう『素材』を使うと、水みたいな液体のまま、鉄のような光沢や硬さ、延性を付与することができるっていうとっても不思議な技術を錬成と呼ぶ。
もっぱらこの国を始めとした各国は、この錬成を剣や盾といった装備品に使っている。
だから、錬成機は鍛冶屋の工房みたいな形へと変化していったのだ。
あたしはこの実習の時間を心待ちにしていた。
なぜかって?
「では諸君にはこれから出す課題をこなしてもらう。課題をこなした後は、自由に工房内の機材を使ってもらって構わない」
よしきた!! きたきたきた!
よぉ~し、とっとと課題を終わらせて、好きな物好きなだけ作るわよぉ~。
「あの~、ウィルベルさん?」
「あに? アリータ。あたし今から忙しくなるんだけど」
「それはみなさんそうなんですけど、そうじゃないことがあるんです」
困ったようにこっちを見てくるアリータ。
いや、アリータだけじゃなく、クラス全員あたしを見てる。
やだもう、あたしがかわいいからってそんなに見たら失礼じゃない。
「その後ろの大量のかぼちゃはなんですの?」
おっと失敬、見ていたのはあたしではなく後ろにあった荷物でした。
「なにって、これから実習に使うんじゃない」
「いえ、実習に使うのは鉄板と紫水晶だけですけど」
「もちろんそれも持ってるよ?」
「じゃあどうして?」
みんな揃って首をかしげてくる。
あたしも反対側に首をかしげて――
「作りたいからに決まってるじゃない」
「……なにを?」
うーん、もう説明すんのがめんどくさいねぇ。こうしている間にも貴重な機材を使える時間が刻一刻と無くなっているというのに。
「お先失礼しまーす」
「ああ、ちょっとウィルベルさん!? 一緒にやりましょう!?」
無視して作業に取り掛かると、アリータもやってきて隣で作業を始めだした。
この子はチューターだからっていつも一緒にいようとするけど、あたしにはチューターは必要ないし、どうしてこんなに一緒にいようとしてくるのかしら。
気になって、ちょっとアリータの方を見る。
「……なるほど……ここがこうなるのですね」
彼女はいたって真剣に、課題に取り掛かっていた。とくにあたしの隣に来たからと言って、おしゃべりにかまけるなんてことはしない。
しばらくこの子と一緒にいてわかったけど、この子もとても優秀だ。
あたしほどじゃないけど、知識も豊富で手先も器用、豊満な肉体の割には武芸もそれなりに達者。
もちろん、まだ学生だから錬金術の腕はまだまだだけど、このクラスの中では抜けている。
ちょっとかまってちゃんなところはあるけど、社交力もあるし見た目もいい。
――だけど彼女が他のクラスメイトと話しているのを見たことが無い。
「……ほんの少しだけ、気になるねぇ」
手を動かしながら、つぶやいた。
おっと、思考している間に課題のものができてしまったわ。
「せんせー、はいこれ」
「なんだ質問か……って、もうできたのか!?」
「うん、これで自由にしてもいい?」
「あ、ああ……文句ない出来だし、許可する」
よっしゃっ。
他のクラスメイトが驚いた顔をしている中で、自由に作業ができるってのはいい気分ねっ。
「ウィルベルさん、早いですわね。どうしてそんなに早いんですの?」
「んー、まあ、慣れ? 何回かやれば、みんなできるようになるよ」
ま、あたしがマナの流れが見える魔法使いだからってのもあるんだろうけど。
なにはともあれ自由時間。
てきぱきと使う機材と道具、そして持ってきたかぼちゃやその他の素材を整理して、いよいよ始める。
「……んーと、どこからだったかな。んん、あれれ? こっちかな? それともこっち……」
あれよあれよとかぼちゃを機材に放り込み、器具やレバーをガチャガチャやると――
「よぉし、完成!」
あっという間に出来上がり!
錬金術で作ったあたしオリジナルの《かぼちゃ人形》!
「ウィルベルさん、それはなんですの?」
いつの間にか課題を終わらせていたアリータがあたしの手元を覗き込んでいた。
いや、アリータだけじゃなく、何人かの学生も一緒に。
「これは《かぼちゃ人形》。あたしの意思を汲み取って勝手に動いてくれるのよ。あんたたちが作るのはちょっと難しいかな?」
あたしの動きとリンクして、おそろいでパンプキンドールがどや顔をする。
あれ、今あたしこんなにどや顔してる?
ちょっと気を付けよう。
「おお、確かにウィルベルさんにそっくりの動きをしてますわ! 凄いですわ!!」
『すげー!!』
アリータを始め、近くに居た学生――あれ、先生までいる――が感嘆の声を上げてきた。
そして、案の定――
「わたくしにも教えてくださいまし!!」
「俺もだ!」
「僕も僕も!」
「おいどんにも!!」
「先生にも!!」
我が我がとみんな一斉に殺到し、あたしが準備してきた中身をくりぬいたかぼちゃたちに手を伸ばした。
「あーーー!! それダメ!! せっかく準備してきたやつなのに!!」
「お金なら払うから今譲ってくれ! なんなら授業料でも払うから!!」
「そんな可愛い召使が欲しかったのよ! お願いだから教えて頂戴!」
……お金をくれる?
しょうがないね!!
「ならかぼちゃ一個1000コール! 授業料は2000コールよ!」
せっかくだからと、盛大に吹っ掛けてやった。
これで買うならよし、諦めるならそれはそれで自分の分が確保できてよし!
と思ったのに――
「相場の五倍!! でも安い! 買った!!」
「私も買うわ! 十個買う!」
「俺は全部だ!」
「ふざけんな、独り占めは許さねぇ!!」
「こら! 講義中に商売するな! これは先生が全て没収する!!」
「先生ただ教わりたいだけでしょうが!!」
まさかのこれでも即決爆買い。
あれよあれよとあたしのかぼちゃが消えていく。
ああ、こんなことならもっと吹っ掛けてやればよかった。
あのなかのどれだけがしっかりと人形へなれるのでしょうか。
「さあ、ウィルベルさん! 教えてくださいまし!!」
我先にと、一番大きなかぼちゃを両手に抱えたアリータが目を輝かせながらやってきた。
あたしはため息を吐き――
「しょうがないなぁ、今日だけだかんね!」




