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5 聖女就任… …つまりお世話係という事ですね?


 目が覚めると昨日見た、天蓋の天井が見えた。


「見慣れない天井だわ……」


 転移物でありがちなセリフをわざわざ呟いてみて、昨日の自分の行動を有耶無耶にしてみたのだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。両手で顔を覆って無かったことに出来ないか無駄な抵抗を試みたが、どうあっても無理そうである。


 スキルっていう物は優秀で、使い方もよくわからないのに、お薬生成でばっちり回復していた。ニャオラニャオンテ自身もびっくりしていたみたいだけど、私もびっくりした。あんなにすぐ治る物なのね。スキルってすごいわ。


 そして治ったと油断したら、おはぎを失った悲しみが押し寄せてきて、号泣。ニャオンテは優しく私を抱きしめてあやしてくれるから余計に涙は止まらなくて。そのまま寝落ちとか子供かよ!


「うぅ……恥ずかしい……」

「聖女様?お目覚めですか?」

「へ?!」


 ポツリとつぶやいた言葉に天蓋の外から声が掛かる。誰かに聞かれているとは思わなかったから、変な声が漏れた。それを了承と捉えたのか、「失礼します」と一言断りがあって足元の天蓋のカーテンが開く。


「「「おはよう御座います聖女様」」」


 開かれたカーテンの向こうには三人のメイドさんが並んで頭を下げていた。


「どういうことーーーっ?!!」


 寝起きの頭には優しくない状況に、朝から思いっきり叫んでしまった。


 昨日ニャオンテと話をして、彼女を回復させた私は正式に聖女に認定された。聖女にはお世話をする人間が必要で、それが彼女達。私専用の侍女だと、侍女長と名乗った女性が教えてくれた。


(えーーー?なんか展開が早すぎない?私の理解力は置き去りよー?)


 今日の夜に私のお披露目があり、改めて聖女だとみんなに紹介される事になるそうだ。この後は採寸とお風呂の後、マッサージ、エステにお化粧、衣装合わせ、簡単な受け答えの講義を受けて、即お披露目だそうだ。


「せめて了承取ってくださいよぅっ」

「聖獣様のご指示ですから」


 泣きの抗議も“聖獣の指示”の前には意味がない。侍女長さんのマリエッテさんが色々説明してくれている間にも、他の侍女さんは高速で私の採寸を行い、朝食の用意をして、お風呂の用意をしている。素早くて手際が恐ろしい程に良い。


 用意された食事をもぐもぐと咀嚼しながらマリエッテさんの言葉も咀嚼していく。つまりは私が聖女(ニャオンテのお世話係)にされてしまったと。そういう事ですね?ラノベとかみたいに戦争に参加したりとかはしなくて良いんですよね?そう聞いてみると、「いかにも」と頷かれホッとした。


「聖女様は聖獣様のお言葉がお分かりになると伺いましたが、聖獣様のお声はどの様に聞こえていらっしゃるのでしょうか?」


 食事の間の話し相手に、とマリエッテさんにお願いすると、少し悩んだ末に了承して、問いかけてきた。


「普通に人間のお嬢様言葉に聞こえますね。ふわふわで優しそうな見た目と違って、ちょっといたずら好きで、気分屋なところはまんま猫ちゃんなんですけど。おしゃべりできるなんて流石聖獣って感じですよね」


 そう話しながらお肉を一口大にカットして口に放り込む。豚肉かな?うん、旨みが強い。とっても美味しい。塩をかけなければニャオンテも食べられそうだね。


 食事が終わればお風呂。当然一人では入れてもらえなかった。三人がかりで頭のてっぺんから爪先までピッカピカに磨き上げられた。

 やばいわ。広いお風呂に、湯上がりのオイルマッサージ最高……。爪の甘皮処理とか初めてやってもらっちゃった。私史上初の艶々のモッチモチ肌にツヤピカネイルになった。


「聖女様のお肌はとても美しいですね。磨き甲斐があります」


 一番年若い侍女さんに言われたが、それは褒め言葉なのか?ディスりじゃないよな?と少し不安になった。化粧に衣装合わせを経て、受け応えの講義。

ぶっちゃけ、お祝いされるだけなので笑顔でありがとうございますと言うだけでほとんどが終わるらしい。彼方の世界の話を切り出されたら適当に話して、何か約束させられそうになったら「ニャオンテに聞いてみますね。それで、貴方のお名前は?」で乗り切れ、との事。


 とにかく穏やかに、淑やかに、とひたすらそれだけ言われた。あれだ、借りて来た猫になれ、と。そう言う事だね?


 時間は飛ぶ様に過ぎて、あっという間にお披露目会に。数人からの挨拶を経て、幾分ぐったりしている所に奴が来た。謁見の時にネチっと話しかけて来たアイツだ。うわ、にちゃって笑ってる。やだなぁ……。


「聖女様が戦場に来ていただけたら皆の士気が上がりましょうぞ。是非ともお力添えいただきたいものですな」

「戦場?」


 それは私も戦争しろ、と言っているのだろうか?


「王様からもニャオンテからも言われなかったのに……?貴方はあの二人よりも偉いの?」

「「「ぶはっ」」」


 素で言ってしまいホールは大爆笑に包まれた。即座に拘束された名前も知らぬ失礼なおじさんは、その後更迭され、お家は息子が当主になったそうだ。後の噂では館に幽閉されているらしい。


 その後は特に大きな問題も起こらず、王侯貴族へのお披露目は無事乗り切れた。しかし、市民へのお披露目ではニャオンテと街をパレードする事になる。どんな輿に乗るかを王様達が喧喧諤諤、話し合いだか貶し合いだかをやっていて、大変に長い。張本人だからと同席させられているが、意見は求められない。


「あのー……やらないって選択肢はありませんかー?」

「「「ありません」」」


 一応中止を提案してみるが、さっきまで啀み合ってたくせにこんな時だけ息を合わせて没ってくる。なんてひどい。私の意見は聞いてくれないくせに。ボソリと呟くと、マリエッテさんが「聖女様に任せると地味な馬車で、とおっしゃるではありませんか」と小声で返してきた。まだほんの少ししか接してないのに何でそんなことまでわかるの?!(図星)


 愕然とした気持ちでマリエッテさんを見上げていたら、会議室にニャオンテが入ってきた。ニャオンテは神出鬼没、好きな場所に好きな様に現れるのだとか。基本はあの聖域(という名の日当たりの良い庭)にいるのだけれど、興味があれば城の中を自由にうろつくのだとか。


 堂々巡りのつまらない会議から抜け出てニャオンテを迎えに行く。


「ニャオンテいらっしゃい。助かったよー」

「何の話をしているのかしら?」

「ニャオンテと私のお披露目についてだって。どんな輿にするか、ずーーーーっと話し合ってるの」


 胸元のたっぷりした毛に埋まりながら話すと、ふすん、と鼻で笑って「ミサなら私の背中に乗って良いわよ」と言った後、襟首を咥えられてひょいっと放り上げられた。風と重力を振り切ってぐわんと放り出される感覚にお腹の底がキュッとした。


「っきゃあーーーっ!!」


 状況を理解して初めて恐怖が襲ってくる。この会議室はとても広く、天井もかなり高い。そこに私の悲鳴がこだました。天井に描かれている絵画の中の女神と目が合ってしまうくらいに高く飛ばされたのだ。悲鳴の一つも上げてしまうのは許してほしい。


 上昇が止まり、あとは下降だけになった私は強く目を瞑る。くしゃくしゃでドスンと落ちることを覚悟していたら風魔法でニャオンテの背中にふんわりと着地した。めちゃくちゃ驚いた。


「ニャ、ニャオラニャオンテ様?!?!」


 王様達が焦った声を上げるが、ニャオンテはニャガーと優雅に笑っただけだった。皆んなが私に「通訳して」と視線を送るのでスカートの裾を治しつつ答える。


「なんか、背中に乗っていいと言ってます」


 これ幸いと首元に抱きつき、後頭部の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら通訳すると、満場一致で決定した。どうせパレードは決定事項。私も派手派手な輿に乗せられるよりニャオンテの背中の方が嬉しい。あーお日様のいーいにおーい!くんかくんか。


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