4.5 聖女来訪、アストリア国王の衝撃
アストリア国王 ジョージ・フィリップス三世は我が目を疑った。歴史書には『聖女は聖獣と意思を通わす事が出来た』とあるが、それは単に聖獣の要望を正しく捉える事が出来るのだと思っていた。しかし、今、目の前で起こっていることは、その間違いを簡単に覆した。
事の起こりはマレークス帝国が一方的に宣戦布告して来た事だ。我がアストリア王国は聖獣と精霊に守られている。侵略など彼等が赦すはずもなかった。手酷く追い返された帝国は、諦めるかと思いきや、この国に忍び込み、あろう事か聖獣ニャオラニャオンテを害した。
報復措置として帝国への輸出入は全て止め、正式に抗議文も送ったが、彼方は戦争中なのだから当然である、と訳の分からない返事の手紙を一つ寄越したっきりだ。
すぐに聖女を呼び出そうとしたが、陣は反応しない。ニャオラニャオンテは日に日に弱っていき、最近は身を起こす事も無くなった。そんな中、早馬が朗報をもたらした。身分を伏せた第五王子が召喚された聖女を保護した、と書かれた文書に会議は騒然とした。
詳しい事情は書かれていなかったが、帝国内で保護された事から召喚に帝国が関わっている事は明白であった。危険を冒す事なく聖女を保護したとも書いてあり、胸を撫で下ろした。
現在すでに馬車で王城へ向かっているとの事なので、すぐに謁見予定を調整し、到着を待つ。三日後の早朝に現れたのは、見慣れない衣装を纏った少女である。慌てふためき、辿々しく挨拶をする彼女はセンミョウジ ミサと名乗った。姓を持つということは高貴な生まれなのか?とてもそうは見えない。幼くあどけない顔立ちに神秘的な象牙色の肌、黒く艶のある長い髪だけは貴族の令嬢の様でもあるが、それだけだ。立ち居振る舞いは壊滅的である。
本当に召喚された聖女なのか確認をしようとすると、一部の人間だけに確認させたいと身を守ろうとする。確かに、聖女だとしたらここにいる人間全てに情報を見られるのは宜しくない。提案に乗り、ごく一部の上位者五名で確認したが、これが正解だったとステータスを見て確信する。
泉名寺美沙 Level 1
体力 2
魔力 10
力 2
知性 5
素早さ 3
器用 6
持久 2
運 15
スキル 回復魔法
魔法薬生成
どうぶつのおいしゃさん
結界魔法
称号 異世界からの召喚者
加護 -
ステータス値があまりにも異常なのである。本来ステータス値は一から十までの表記になる。それだって“存在する”というだけで、九や十がある事などあり得ない。八でさえ歴史に名を残すと言われる数値であるのに、魔力が十に、運が十五とはどういう事なのか。ちょっと誰かに説明してもらいたいところである。
称号は勿論のこと、スキルも稀少なものばかりで、目眩がした。本来ならすぐにでも聖獣と会ってもらいたい所だが、ミサの顔色も悪く、疲れが溜まっている様に見えた。一度しっかり休ませてやりたいし、自分も気持ちに整理を付けたい。翌日聖域に向かう事に決まった。
ニャオラニャオンテと対峙したミサは、より異質さに磨きが掛かっていた。なんと明らかに言葉を交わしているのだ。話しかけて、返事をもらい、それに答える。ジョージの耳にはにゃんにゃんにゃごにゃごとしか聞こえない鳴き声も、ミサにはキチンと言葉として聞こえているらしい。
「毒?!」
不穏な単語が聞こえたりもするが、彼女の言葉はただひたすらにニャオラニャオンテを心配していたので、その場でぐっと堪えた。長い話をウンウンと頷きながら聴いたミサは、腹部に手を置くと、空中で何かよく分からない動きをした。するとミサから魔力が放出され、あっという間に何かを形作る。魔法薬である。
見慣れぬ形になった魔法薬を飲ませると、聖獣の身体より、神々しい光が放たれ、何かを叫びながら高く垂直に飛び跳ねる。すわ何かあったか、と身構えるジョージを置き去りにして、状況は進む。静かに着地したニャオラニャオンテは、身体中あちこちを確認して、顔を上げる。
「にゃんにゃんにゃにゃにゃんっ」
「え?!あんな一瞬で?」
「にゃがにゃがにゃんにゃ!」
ミサに何やら話しかけているが、数日ぶりに動く姿を見せてくれたニャオラニャオンテに、目の奥がジン、と痛む。ツンツンとミサを突いて遊ぶ姿も、明るい声も、うにっと持ち上げられた口元も。全てが愛おしく、尊い。
ジョージは答えがわかっていたが、あえてミサに治ったのか問い掛けることにした。
「ミサよ!ニャオラニャオンテ様は回復あそばしたのか?!」
応えは聖獣から帰って来た。
ステータスについて。
1 赤ちゃんレベル
2 10歳くらいなら誰でもできる
3 大人(18歳)であれば大体出来る
4 独学でちょっと出来る大人
5 専門機関で学びました
6 専門機関で優秀でした
7 第一線で活躍してます
8 名を残します
9 伝説級
10 神話級
15 存在しないおかしなランクです
王様のセリフの補完です。