俺、生まれ変わったら【自転車】になれたんだけどさぁ…
……俺は、自転車。
赤いボディに黒いサドル、軽量タイプの10段変速ダイヤル付き、シティ型のちょっと良い自転車だ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、サイクリングを生きがいにしている男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、自転車になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は全国を愛車でめぐった記憶ばかり思い出していたからだ。
時間があれば自転車にまたがって出かけていたのに、事故で体を損傷してからは乗れなくなってしまい、後悔とないものねだりばかりしていた…忘れられるはずもない。
全国各地で出会った人々の笑顔と、自転車のように破損パーツを入れ替えることができない自分の体をのろった事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――オレ、これがいい!!
俺を購入したのは、春から高校生になる中学生だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
二月に通学用自転車として購入された俺に乗って中学生は色んなところに出かけるようになったのだが、ずっとお兄ちゃんのお古の自転車を乗っていた感覚が抜けず…扱いが悪かったのだ。
いつ壊れてもいい自転車と同じように乗りこなし、気軽に無施錠で放置し…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――ヤベ!!いそがねえと一番くじ、売り切れる!!
入学式を明日に控えた中学生は、違う高校に進学した友達とともに繁華街のショッピングモールにやってきた。
春休み最終日…込み合うモールの自転車置き場に、俺を置くスペースは、見当たらない。
俺は願った。
「離れた場所にある第三駐輪場には空きがある!そっちにまわれ!!」
そう願ったのには、理由があった。
盗難多発地域にあるこのモールでは自転車泥棒が頻繁に出没し、被害者が続出していたのだ。
人気のゲームの新発売のくじを買うことだけに集中している中学生は、俺をポプラの木に持たれかけさせて、みっちり詰まっている自転車を動かして隙間を作り自分の自転車を押し込み鍵をかけている友達を置いて…店内へと駆けていった。
それを慌てて追う、友達。
……まだ間に合う、戻ってきて鍵をかけろ!!丸まっているチェーンロックはかごの中の飾りじゃない!!鈴のついた鍵はアクセサリーじゃない!!
―――お、いいもの発見w
半額の菓子パンをレジ袋にパンパンに詰め込んだ若い兄ちゃんが、俺に気づいた。
未使用のチェーンロックの上に、パンの重みが詰まったレジ袋が乗せられる。
俺の願いも…むなしく。
兄ちゃんは、俺に乗って…二時間ほどサイクリングをした後、見知らぬ田舎の電柱の下に置き去りにした。
長く放置されたあと、俺は作業着姿のおっさんに回収されて、中古自転車譲渡会の会場で、バラバラになった。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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