二学期が始まり
清流のように澄んだ空があった。
――遠い
八丘辰流は部活へ向かう廊下の窓からそんな空を見上げた。わずかに動いた左の手を止めた。「手の平を太陽に」なんてことをしていたのはせいぜい小学校低学年くらいまでだ。
それでも辰流は空を見てしまう。そこへ届きたかったから。そのために、辰流は部活動を懸命に取り組んでいるのだった。
九月になったばかりの空は、太陽をそそのかし援護射撃の熱を地上に向ける。まるで夏を名残惜しんで駄々をこねているように。
「おい、辰流」
聞き慣れた声が背中に投げられても、辰流は振り返りも歩みを止めることもしなかった。
「できたんだよな?」
道下高大がやや速足になって横に並ぶと、
「ああ」
辰流は簡素に気の入っていない答えをした。
夏休みは昨日で終わった。体育館での始業式が全校生徒強制参加型の蒸し暑さ我慢比べ大会の様相だったのは去年までで、熱中症の恐れがある以上、四方の扉を全開にし、巨大扇風機をまわしているとはいえ、長たらしい話しをするのが粋とでも思い込んでいる校長でさえも自重せざるを得なかった。
その後、教室に移動しても、空調設備は整っていながら節約に勤しむ公立高校では、生徒たちは下敷きを団扇代わりにして、気休め程度の送風でしのぐしかなかった。