表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

せんせい語録  第4話「旅行ってのは…」

作者: なぎさん

超短編の恋愛ものです。教師に対して微妙な不信感を持つオレっ子と、彼女を変えていく、怪しいことわざを連発するイケメン新任教師の物語。

せんせい語録  第4話「旅行ってのは…」



 14:30 HR


 近づく研修旅行。


そもそも、うちの学校では修学旅行は2年生の秋に行くので、今回の旅行は短い。


短いけど。楽しみなのは間違いない。



 今年は!沖縄へ!


――――――――――


 そういえば、五呂久せんせーは、ここ数日、背広を着ていない。


ありがちなブラウンのスラックスに、白地に黄色のスラッシュ入ったありがちなシャツ。


シャツの背中に筆文字で、「 不 発 」 あまり見たことないけど。とりあえず、オレは悪くないと思う。



 せんせーは教壇に立ち、いつも見たく、全員の顔をぐるっと見渡して、話し始める。


「さて、今日は自主研修のルールを説明するのでよく覚えといてください。」


「1、自主研修の場所は自由に決めていいが勉強できるところに限ります!」


「せんせー、カラオケで音楽を勉強したいです!」


「ダメだ。カラオケはなあ!音楽の勉強じゃなくて気配りを勉強するところだ!」


おい!大人のカラオケに対する夢が消えたよ!!


「2、食事は立ち歩きではなくてちゃんとお店で!」


「せんせー、キレイなお姉さんの居るところはどうですか!?」


「ダメだ!お姉さんの居るところはなぁ!授業料が高いんだ!」


行ってんじゃねえかこの野郎!?


「3、一番重要です。トイレ以外、班の全員で行動して下さい。」


「せんせー、って言っても買い物とかで大抵ばらけるっすよ?」


「ダメだ!一緒に居ろ!一人見かけたら六人居ると思え!」


「G か!? オレら G か!?」


は、つい立ち上がって突っ込んでしまった…!


「マコ、落ち着いて、落ち着いて!」


ユキジに諫められた。もうだめだ。


――――――――――


 16:55 美術室


 「ほんじゃー、1、2年生。オレら、沖縄行ってくっから!」


「お土産まってま~す!」


後輩ちゃんは素直でよろしい。まぁ、大した人数じゃないし、3年で頭割りすればそんなに痛くはないだろう。…ちんすこう、だな。決定。


「それじゃ!いない間は2年生副部長モッチの言うことを聞いて動く!課題は石膏デッサン2枚!」


「終わった人は?」


「終わった人自由!お絵描きよし!幕末ヘブンキャラだと尚良し!」


「では!本日の活動終了!おわります!」


「おわりまーす!」


―――――――――


 17:20  3階、廊下


 ユキジと交換するイラストを抱えて、玄関に急ぐ。


廊下を走る。突き当りを、右に曲がる。



 どすっ


やわらかいとも言い難い、柱的なものにぶつかった。この感触とガタイからして男だ、やっちまった。


…パンくわえときゃ良かったぜ!


だが、悠長なことを言っていられないのは、


ぶつかった男が…五呂久せんせーが、階段を上り切ったところだったからだ。


おわああああ!


五呂久せんせーは、転ばないように手すりを掴んだが、後ろ脚が階段をとらえきれずに滑り、奇妙に早いバックステップで階段を駆け下り、壁にぶつかって座り込んだ!


「だ、大丈夫!?ごめんなさい!ごめんなさい!!」


一人、パニくるオレ。不覚にも涙ぐんじまった。


「大丈夫だ。なんだ、マコトか…廊下は走るなと言ってるだろう!」


「ほ、ほんとに大丈夫!?首とか折れてない!?」



 五呂久せんせーは、オレを安心させるためだろう、腕をぶんぶん振り回して健康アピールしてから。こう言った。


「大丈夫だ。やまない雨はない。」


なんてこった!普通の格言だ!頭打ったのか!?


「やまない痛みもない!」


痛いんなら痛いって言えや!!


オレは、せんせーの左腕を肩に乗せて、たまたま通りかかった美術部の後輩たちの力を借りて、強引に保健室に連れて行った。


――――――――――


 19:45 オレの部屋。


 …診断、ごく軽い打撲。オレのせい。


家では、がっつりとママに怒られた。明日から旅行だというのに、すっかりケチがついちまった。


事情を知ってる子たちからひっきりなしにSNSが来るけど。ごめん楽しく話しできないや。


明日、具合悪くなって休んじゃおうかな…



 一階から、厳しめの声がオレを呼ぶ。


「マコト!真珠!!お電話よ?先生から!ちゃんと謝るのよ!?」


先生から!? オレは階段を駆け下りて受話器を取る。


「こんばんは。先生です。」


「知ってます。」


「…」


「…」


気まずい。どうしよう、気まずい。多分オレを心配して電話してきた…のに。


これじゃ、私を気にしてアピールじゃねえか!? 加害者のくせに!


「マコト。」


「…はい。」


「嘘から出たマコトって言葉あるよな!」


「…ハイ?」


「…」


「明日から旅行だけどな」


ぎく。


「旅は道連れ、って言葉あるけど、なんかアレ縁起悪く聞こえるよな?」


だからなんだー!!


「旅は一人でも行けるけど、旅行はみんなで行く方がいい。明日、元気に来いよ。じゃあな。」


せんせーは、急に、普通に、優しい声でそう言った。ずるいや。大人ずるい。


だから。格好悪くて詳しく言わないけど、オレはこの後もう一度謝ったんだ。


せんせーは、とっくに許してるぞ。って簡単に言った。



 「なぁ、マコ。旅行ってのはなあ!」


キタ。


「そこで金を遣い地元の経済に貢献することだ!!」


み、身も蓋もねええええ!!!!



続くー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ